UFOで惑星へ
学校をずる休みして試乗UFOに乗り込んだわたしは、天の川銀河を脱出し、アンドロメダ銀河へと進入した。
「コンソールの星間図によれば、ここがアンドロメダなんだけど、ぱっと見はうちの銀河と代わり映えしないんだなぁ」モニターを眺めながらわたしはつぶやく。実のところ、宇宙船が飛び交っていたり、星々がもっとカラフルなのかもと期待していた。
まあSFやアニメじゃあるまいし、よその銀河だからって同じ宇宙である以上、それも当然かもしれない。
地球を経っておよそ1時間。もうこんな距離まで来てしまっている。オド・メーターに目をやると、253万7千光年を表示していた。光の速さで253万7千年かかるということらしい。本当に速いんだなぁ。
でも、相対性理論では光の速さは超えられないって聞いたんだけど、これってどういう仕組みなんだろう……。
アンドロメダ銀河に入ってからは減速して、オート・ドライブで航行していた。それでも星が流れるように飛びすさっていく様子がモニター越しに確認できる。
ほとんどが恒星だったが、たまに小惑星を見ることもあった。どれも着陸するには小さすぎる上、たいそういびつな形をしている。
さらに2時間ばかりふらふらとさまよっていると、マニピュレーターが付近に惑星の存在を知らせた。地球よりだいぶ小さいものの、立ち寄るにはちょうどよさそうである。
「よし、そこへ行ってみよう」わたしは頭に念じて進路を指示した。このUFOにはハンドルも操縦桿も付いていない。すべてテレパシーで操作するのだ。「オートマって、ほんと便利!」
ものの数秒で惑星の衛星軌道へと入る。外部モニターには薄青い姿が映し出されていた。
UFOは直ちに着陸態勢へと入り、そのまま垂直に下降していく。大気圏に入るとうっすらと雲が見え始め、さらに地上へとカメラを向ければ、低い山々が連なっている様子がわかった。
(平地へ着陸)とわたしは念じる。UFOは水平飛行を始め、着陸ポイントを自動的に探し出す。マニピュレーターがポイントを見つけ、ゆっくりと降りていった。設置した際もあまりに静かだったため、本当に着陸したのかどうか疑わしいほどだ。
「外には出られるかなぁ」モニター越しに見る分には、ちょっと暗い地球の昼間と同じ様な光景である。けれど、大気の成分まではわからない。
(大気の成分を調べて。外へ出ても安全かどうか、確認して)そう念じた。すぐに結果が表示され、人間の体にまったく害がないことが判明する。
「OK、じゃあ、ちょっと散歩してみるとしようかなっ」わたしはポケットのスマート・キーを確認し、ドアを開けた。インドアで閉めてしまったらたいへんだ。こんなところ、JAFだって来てくれやしない。
大地を踏みしめた最初の感想は、芝生のような感触だった。実際、平地一面には数センチほどの青い草が茂っていて、ほのかに畳みの香りがする。
遠くには数百メートル程度と思しき山が幾重にも見えた。空の色は限りなく透明に近いブルーで、きらめく星々が透けるように貼り付いている。
観察するかぎり、人工物は何も見当たらなかった。もしかすると無人惑星なのかもしれない。なんだか、星を独り占めしている気分になった。
「お山の大将、ただひとり~っ」思わず叫んでみる。幼なじみの桑田孝夫がこどもの頃、ジャングルジムのてっぺんに立ち、よくそう雄叫びを上げていたっけ。
歩いてみると、あちらこちらにかわいらしい、けれど初めて見る形の花が咲いていた。キク科に似ているが、花の付き方はアマリリスのようにいくつも一緒になっている。色も薄いピンク、薄い青、薄い紫などどれも中間色で柔らかな雰囲気だ。
ところどころ大きな岩が転がっている。地球にある大理石にそっくりだが、爪を立てただけで傷が付くほどもろい。なんなら穴を掘ってくり抜くこともできそうだった。
岩陰に立っていると、遠くから人の話し声が聞こえた気がした。
気のせいかと思い、念のため耳をかざして注意してみると、確かに数人の男女の声がする。
そっと身を乗り出して声のするほうを探ってみると、10代くらいの人影が十数メートル先から歩いてやって来るのが見えた。
「エイリアンかな」そう思うが、言葉は日本語なのである。どうしようか迷ったあげく、こちらから出て行って話してみることにした。
「おーいっ」わたしは手を振って声をかける。向こうもすぐに気がつき、
「やっほーっ。こんなところに人がいるなんて、びっくりだなあ」と手を振り返してきた。
17、8歳の少年が3人と少女が2人。髪の色が緑色で肌が薄い青ということ以外、日本人そっくり。
「あなた達、この星の人?」わたしは尋ねた。
「ううん、違うわ。近くに母星があって、みんなで遊びに来たの」少女が応える。
「君こそ、どこから来たんだい?」と少年の1人が聞いてきた。
「天の川銀河から、UFOの試乗でここまで。たまたまエイリアンが遊びに来ていて、うちんとこの星じゃ何万年もかかりそうなテクノロジーで作られたUFOを貸してくれたんだ」
「それってもしかすると、グレー・タイプのエイリアンじゃなかった?」もう1人の少女が言う。
わたしがうなずくと、「やっぱりなあ! あの人、うちの星にも来たのよ。しつこかったでしょ?」
「うん、かなり」苦笑いするわたし。
「そのうち、宇宙営業法に触れるよ」最年少と思われる少年が肩をすくめた。
「ははは、仕事熱心なんだろうね。でも、まさか銀河を渡り歩いてまでセールスをしてるなんて思わなかったよ」
「でもまあ、武器を売りにこないだけましかもっ」
わたしは彼ら5人とすっかり意気投合し、たっぷり3時間は遊んだのだった。