広い広いテーマ・パーク(前)
先週は「恐怖のテーマパーク」へみんなで行ってきた。予想していたよりもずっと怖かったので、その晩は「オニババ」に追いかけられる夢を観てしまう。
そして今回、口直しのために別のテーマパークへ来ていた。
「『よろずテーマパーク』っていうだけあって、ほんとになんでもあるね」わたしは園内を見渡して感嘆の溜め息をつく。
「そうだろ? ないものがないほどめっちゃ詰め込まれたテーマパークなんだぞ」桑田孝夫が、まるで自分の庭のように自慢した。
「今日は楽しめそうね。オニババやカミナリオヤジも出てこないだろうし」茶化すように中谷美枝子が言う。「あれ、マジで怖かったんたから。アカンボウも恐ろしかったわよね。乳母車をのぞいたら、真っ赤な口だけの肉の塊がサイレンのように泣き叫んでるんだもん」
「耳を押さえていても鼓膜が破けるのではないかと心配になりましたよ」志茂田ともるがあとを継いだ。
このテーマパークはまるで町のようだ。園の遠くには山がそびえ囲み、中はあたかも盆地のように見える。フードコートが飲食店街のように連なり、そこかしこに遊具がさりげなく置かれている。
ジェットコースターやエア・チューブが移動手段として使われていて、わざわざ歩かなくても別のエリアへ行くことができた。
緑も豊かで、手入れの施された街路樹がきれいに並び、プラタナスの森が広がっている。およそ目に付く場所には花壇が設けられ、季節の花が目にも鮮やかに咲き誇っていた。
景観を損なわない距離を保って、大小の建物が見える。東屋のようなものからちょっとしたビルまで、色も形も様々だ。
「あの辺りから入ってきたんだよね」わたしは中心部のビルを指差す。
「おお、そうだな。たしか、あのクリーム色の建物だったぞ」桑田がうなずいた。
「えっ、水色のビルじゃなかった?」中谷が反論する。
「いえいえ、ベージュだったはずですが……」志茂田も別な主張を繰り出した。
「何色だっていいじゃん」とわたし。「どっちにしても、帰るときにわかるんだからさぁ。それより、お腹空いちゃった。何か食べようよ」
空腹なのはわたしだけではなかったようで、全員がいちもなく賛成する。
わたし達は手近なところにあるフード・コートへと入り込んだ。ここも商店街そっくりに作られていて、園内だということが信じられないほどである。
「何食べる?」中谷が辺りを見回しながら言った。洋食、和食、中華、ファミレス、喫茶店と、なんでもある。
「おれ、ラーメンがいいな。家系のこってりしたやつ」桑田が言った。
「この暑いのにですか?」少し呆れたような顔をする志茂田。
「暑い日に熱いものを食う。体にいいらしいんだぜ。知らねえのかよ、志茂田」桑田が眉を上げながら言い返す。
「汗びっしょりになるよ。冷やし中華なら食べたいと思うけど」わたしは言った。これからまた歩き回るというのに、今から暑くなるのはうんざりである。
「ファミレスに入ろうよ。何でもあるし、冷房も効いてるからさ」中谷の提案で、一行はおのおのうなずき合うのだった。
ロイヤル・ポストというファミレスが目に止まったので、ぞろぞろと入っていく。
「いらっしゃいませ。5名様でよろしいですね?」店員が慇懃な様子で尋ねた。
「ええ、5人。できれば通りに見える窓際がいいわ」中谷がきびきびと指定する。
「かしこまりました。どうぞ、こちらへ」
昼前なので店内はがらがらだった。わたし達は通りに面した席に掛ける。
「ご注文が決まりましたら、そちらのボタンでお知らせ願います」店員は冷たい水の入ったグラスをそれぞれの前に置くと、すっと引き下がっていった。
「なんにする?」わたしはメニューを広げ、テーブルの真ん中に置く。
「あたしはチキン・カレーにしようかなあ。あ、辛さを変更できるんだって。よーし、5倍にしちゃおう!」
「おまえ、本当に辛いの好きだなっ。おれだって5倍はきついぞ」桑田が感心するように言う。
「わたしはピザ・トーストのセットにしますよ。アイス・コーヒーのブラックで」志茂田はメニューから選び終わると、背もたれに寄りかかった。
「パスタが食べたいんだけど、どれにしようかなぁ」わたしはいくつもあるスパゲティ料理の写真を見比べながら迷う。「ペスカトーレなんていいかも。魚介とか、あまり食べてないし」
「いいんじゃない、むぅにぃ。貝とエビ、イカだけで、人参は入ってないもんね」中谷が皮肉っぽく言った。
「んじゃあ、おれはデミ・グラ・ハンバーグ定食にする」さんざん悩んで、桑田が決心する。
「なーんだ、桑田君。結局はいつものじゃないですか」志茂田が笑いを漏らした。
食事のあとはアトラクション・エリアへ行ってジェット・コースターに乗ったり、ハイキング・コースで自然探索を楽しんだり、展望台に登って備え付けの望遠鏡で遠くの景色を眺めてすごした。
このテーマ・パークにはプール・エリアもあって、さまざまな種類のプールを堪能した。途中、わたしだけはぐれてしまったけれど、プール・エリアの出入り口で再び合流し、事なきを得る。
1日は早いもので、その日はプールを上がったところで日が沈みかけてしまった。わたし達は予約していた園内のホテルにチェック・インし、夜のイベントに繰り出す。
打ち上げ花火を眺めたり、展望のラウンジでカクテル・グラスを傾けたりして0時近くにようやく、それぞれ部屋へと戻った。
翌日は午前中にテーマ・パークを退場するつもりだったのだが、思わぬアクシデントがあり、大幅に遅れてしまう。
それはまた、次回にでも……。