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心霊スポットに行く

 凝り性で、そのくせすぐ覚める木田仁。今度は心霊スポット巡りにはまっているという。

「そんなところ行って、祟られたりしないの?」わたしは心配になって言った。

「もう、何十箇所も回ったけど、ぜんぜん平気さ。写真とかも撮ってるけどね、変なものが写ったことなんて1度もないんだ」

 平然と言ってのけるが、わたしはどうもそういうのが苦手で、少なくとも進んで出かけようとは思わない。

「1人で行くんでしょ? 怖くないの?」

「ぜーんぜん。レンタカーで行くんだけど、クルマの中だし、別になんとも思わないよ」

「木田って免許持ってたんだ」わたしは意外なところで驚く。

「失礼しちゃうなあ。おいら、高校を卒業したときにすぐ取ったよ。まあ、しばらくペーパーだったんだけどね」


「それで、次はどこに行くつもりなの?」わたしが聞くと、待ってましたというように、

「うん、福岡の大鳴峠のトンネルに行こうと思っててさ。最恐の心霊スポットなんだ」

「へえー、ずいぶん遠くまで行くんだ。気をつけて行ってきてね」

「何言ってるんだい、むぅにぃ。君も一緒に行くんだよ」

「えっ?!」わたしは仰天した。

「クルマで行くのはかったるいから、九州までは新幹線。現地でレンタカーを借りて行くよ」もう決定事項のように言う。

「やだってば。めちゃくちゃ遠いじゃん」

「うん、だいたい1,200キロくらいあるね。時間にすると5時間くらいかな」


「第一、そんなことに使う電車賃なんてないよー」わたしは渋った。

「もちろん、おいらがむぅにぃの分も出すよ。食費、宿泊料もさ。だから行かないかい? そこの心霊スポットってさあ、2人じゃないと幽霊が出ないんだって。いいだろ? 旅行だと思ってさ。むぅにぃ、ラーメン好きだろ? 本場の豚骨ラーメンが食べられるんだぜ」

「でも……」わたしはなんとか断る口実がないかと頭を働かせたが、もっともらしい言い訳は浮かんでこない。

「じゃあ、決まりだね。出発は来週の土日。土曜日の朝に迎えに行くからさ」

「あの、ちょっと、待って――」わたしは慌てたが、木田はすでに聞く耳を持たなかった。


 そんなわけで、わたしは木田と福岡まで同行することになってしまった。

「まいっちゃうなあ、木田ったら夢中になると後先がないんだから」わたしはベッドに寝転びながらつぶやく。確かに旅行は楽しいけれど、問題は行き先が心霊スポットであるということだ。

 万が一、本当に幽霊が出たらどうしよう。木田のことだから、きっと大喜びするだろうけど、わたしは卒倒するかもしれなかった。

 できれば桑田孝夫や中谷美枝子にも来て欲しかったが、「2人で訪れる」というのが条件らしいのでそれもできない。

 あれやこれやと悩んでいるうち、あっと言う間に1週間が経った。明日の朝、木田が迎えにやって来るのだ。

「もう、どうにでもなっちゃえ!」わたしは覚悟を決め、バッグに着替えや必需品を詰め込む。


 土曜日の朝8時過ぎ、木田がやって来た。

「おはよう、むぅにぃ。準備は整ってるかい?」

「うん、大丈夫」とは言ったものの、内心は憂うつだった。夕べだって、白い服を着た女性の幽霊に追いかけ回される夢を見たほどである。

「じゃ、行こうか。きっと楽しい旅になるよ」木田は陽気に答えた。

 まずは東京駅まで行き、のぞみに乗る。久しぶりの新幹線はやっぱりうきうきした。しばらくは車窓の風景が変わっていくのを楽しんでいたが、そのうちうとうとしてしまい、木田に起こされるまで眠ってしまった。

「むぅにぃ、むぅにぃってば。着いたよ。起きなよ」

 肩を揺すられ、わたしはようやく目を醒ます。終点の博多駅だった。本当に九州までやって来たんだ、そう思うと不思議な気持ちになる。


「レンタカー予約してあるから取りに行くよ」木田は元気いっぱいだった。駅の近くのレンタカー・ショップに入ると、「予約していた木田仁です。白の軽を借りに来ました」

 クルマに乗り込み、そのまま大鳴峠へと向かう。

「ここから遠いの?」わたしは尋ねた。

「そうでもないさ。20キロくらいかなあ。白の軽にしたのにはわけがあるんだ。そのトンネル、白の軽だと出るらしい。なんでか普通車じゃダメなんだってさ」

「……そ、そうなんだ」徹底した凝りようである。「昼間だけど、いいの? 幽霊って夜に出るんじゃなかったっけ?」

「そんなことないさ。幽霊にとっちゃ、昼も夜も関係ないよ。それにさあ、夜の運転は危ないじゃないか」変なところで良識がある。


 都市部を離れ、次第に山の中へと入っていった。ほとんどクルマも見かけなくなっていく。

「そろそろだよ、むぅにぃ」木田はハンドルを握りながら言った。

「辺り、寂しくなってきたね。独りだと心細いかも」とわたし。

 やがてトンネルが見え始める。

「ああ、あれだ。あれが大鳴峠トンネルだ」

 トンネルに入るわずか数メートルの時だった。いきなり目の前に白い服の女性が飛び出してくる。

「あっ、やばっ!」木田は急ブレーキを踏んだ。わたしも衝撃を覚悟して目をつぶる。

 しかし、物音1つなかった。恐る恐る目を開けると、対向車が勢いよくこちらにはみ出してくる。間一髪で避けて走り去ったが、もしわたし達が停まらなかったら確実に正面衝突をしているところだった。


「危なかったねー」ほっと胸をなで下ろし、わたしは言う。

「うん、今のはさすがにびっくりしたよ」

 そのとき、後部座席から声が聞こえた。「ちっ、死ねばよかったのに」

 木田とわたしは思わず顔を見合わせる。

「今の聞いたよね、木田」わたしは震える声でささやいた。

「聞いたよ、はっきりとさ」

「目の前に飛び出してきた女の人だったのかなあ」

「だとしたら、ツンデレ幽霊だね。なんにしても、おいら達、助けられたんだね」

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