表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
200/234

動物園に行く・前編

 梅雨に入って最初の休日、朝から珍しく晴天に恵まれた。こんな日にはどこか行きたいなぁ、と思っていたところ、桑田孝夫から電話が来る。

「おう、むぅにぃ。今日、動物園に行かねえか?」

「動物園かぁ。そういえばもう、何年も行ってないっけ」わたしは空いている手で指を折って数えた。最後に行ったのは5年前か。

「タダ券が2枚入ってよ、ちょうど今日までなんだよな」

「うん、いいよ。行こっか」久しぶりに動物を見て歩くのもいいかもしれない。

「昼飯食ったら迎えに行くからな」そう言って電話が切れた。


 わたしはなんとなくわくわくしてくる。ここのところ雨ばかりだったので、外の世界が恋しかったのだ。

 午前中はぼーっとテレビを観て過ごす。たいして面白くもないバラエティをやっていた。タレントの誰と誰が付き合っているとか、今の政治では日本はダメになるなど、わたしにはどうでもいいことばかりだ。

 チャンネルを変えると、刑事ドラマを放映していた。途中まで観て、ああ、犯人はあの人だな、とすぐにわかってしまう。テレビのリモコンを適当に押していると、折しも上野動物園の中継をしていた。


「すごい人がいっぱい。今日は休日だしね。それに梅雨の晴れ間だからかなぁ、やっぱり」思わずつぶやく。そう言えば、桑田はどこの動物園に行くって言っていたっけ? それとも聞いてなかったかも。

 たぶん、都内だろうけど、きっと混雑しているに違いない。

 わたしはちょっと憂うつになった。人混みが苦手なのだ。


 お昼になったので、パスタを作ることにした。鍋を沸騰させ、パスタを一握り放り込む。ゆっくりと折り曲げるようにして、パスタを完全に鍋の中で泳がせた。箸で鍋の中を回し、そこにこびりつかないよう注意して煮る。

 芯が残っている位の固さまで茹でたら火を止め、フタをした。10分ほど放置し、パスタが十分に柔らかくなったことを確かめてからザルで水切りをし、皿に盛り付ける。湯気の立ったパスタの上から、ミートソースをたっぷりかけて出来上がり。

「いただきまーす」フォークでくるくるっとすくい取って口に運ぶ。うん、なかなかおいしい。いくらでも入りそうだ。


 食べ終わって皿を洗っていると、ピンポーンとチャイムが聞こえてくる。桑田が来たらしい。

 ドアを開けると、桑田が立っていた。

「おう、飯は食ったか?」

「うん、今食べ終わったところ」わたしは答える。

「じゃあ、行くか」

「行きますか」

 外には黒い大型バイクが駐まっていた。桑田の愛車だ。

「バイクで来たんだ」わたしは聞いた。

「ああ。クルマにしようかと思ったけど、混んでて駐めるところがないかもしれねえからな」桑田はわたしに予備のヘルメットを渡す。わたしはそれを被った。ちょっときつい感じがしたが、桑田によればそれでいいのだそうだ。ゆるいとずれてしまい、かえって危ないという。


 桑田はバイクに跨がると、

「じゃあ、乗れ。しっかりとおれにつかまっていろよ」

「うん」わたしはよっこらしょとバイクによじ登り、タンデム・シートに座る。そして桑田のお腹にしがみついた。

「よし、出発するぞ」言うが早いか、エンジンのかかる音がしてバイクから振動が伝わってくる。

「そう言えば、どこの動物園に行くの?」とわたしは尋ねた。

「西東京の青梅動物園だ。ちょっと遠いから、高速に乗っていくぞ」

 バイクは滑るように動き出し、たちまち速度を上げて走って行った。走行中はエンジン音と風切り音で、お互いの声がほとんど聞こえない。わたしは左右を振り返りつつ、景色が変わっていくのを楽しんだ。


 ジャンクションに入ると、バイクはいっそう速度を上げ始める。桑田の体から頭を出そうものなら、風圧で後ろに持っていかれそうだった。

 防音壁で景色こそ見えなかったが、相当なスピードが出ていることがわかる。

 30分ほど高速を走り、一般道へと降りた。ETCを搭載しているので、自動的にバーが上がり、停止することなく外へ出る。

 思っていたほどクルマは混雑していなかった。ほどよい流れでバイクは進み、15分ほどで目的地へと到着する。

 バイク置き場に停車すると、桑田はヘルメットのシールドを開け、

「よし、着いたぞ。先に降りろ」と言った。

 わたしは足をかける位置を探りつつ、バイクから降りる。ヘルメットを脱ぐと、桑田に返した。桑田はそれをミラーにかける。


 「青梅動物園」と看板が掛かっていた。思っていたよりも広そうだ。

「ほら、チケット」桑田はポケットからチケットを取り出すと、1枚をわたしに渡す。

「この動物園、初めて聞くよ」わたしは言った。

「最近できたばかりだってよ。なんでも、ほかの動物園じゃ見られねえ動物がいっぱいいるらしいぞ」

「ふーん、それは楽しみだね」いったい、どんな動物がいるのだろうか。早くも期待で胸が弾む。

「じゃ、入るか」桑田が入り口に向かって歩き出す。わたしもあとからついていった。


(来週に続く)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ