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未来から来た男

 志茂田ともるからメールが届いた。

「やあ、むぅにぃ君、お久しぶりです。今から、中央公園の噴水広場前まで来られませんか?」

 久しぶりって、ついこの間合ったばかりじゃんと思ったが、志茂田が呼び出すなど滅多にないことなので、さっそく出かける用意をする。


 噴水広場前に着くが、いつものベンチには見知らぬ年配の男性が座っているきり。志茂田の姿はどこにも見当たらない。

 わたしは隣のベンチに腰を下ろした。すると、男がこちらを見て立ち上がり、つかつかとやって来る。

「むぅにぃ君、ずいぶんとご無沙汰しています。元気にしていましたか?」聞いたような声でそう声をかけてきた。

「えーと……、どちら様でしょうか?」内心、焦ってしまう。

「わたしですよ、志茂田ともるです。お忘れですか?」

 わたしはまじまじと相手の顔を見つめた。言われてみれば確かに、志茂田の面影がある。


「もしかして、志茂田の親戚の方ですか?」とわたし。

「いえいえ、本人ですよ。まあ、無理もありませんね。あなたの知っているわたしはずっと若いのですから」笑い方まで志茂田にそっくりだった。

「あの、どういうことでしょうか?」わたしは頭が混乱してくる。

「わたしは未来からやって来たのですよ、むぅにぃ君。30年ほど先からですね」

「えっ、そんなまさか」思わず声を上げてしまった。

「信じられませんか? 20年後、わたしはタイム・マシンを完成させました。その後色々とありましてね、過去へ戻ってむぅにぃ君にお願いを聞いてもらいに来ました」

「お願い……ですか?」まだ飲み込めずに聞く。

「なあに、簡単なことですよ。むぅにぃ君、あなたは明日お墓参りに行きますね。それを1日だけ伸ばしていただきたいのです」


 確かにわたしは明日、祖母の墓参りに行く予定だった。埼玉県にある墓所で、電車を乗り継いで2時間ほどかかる。

 そのことをこの人物は知ってるというのだ。どうやら、未来から来たというのは本当らしい。

「未来の志茂田なんだ」わたしはようやく納得した。「でも、どうして1日遅らせるの?」

「世界大戦が始まるからですよ」志茂田は落ち着いた口調で言う。

「ええっ、いつ? なんで?」思わず立ち上がった。

「今から30年後です。わたしはそれを阻止するために来たのですよ、むぅにぃ君」志茂田はこほんと軽く咳払いをしてから続ける。「そもそもの始まりはあなたが明日行く墓地から始まりました。どこかの不届き者が、墓所の道端にバナナの皮を捨てたことがきっかけです。あなたはそうとは知らず歩いていて、バナナの皮で滑ってしまうのです」


「うんうん、それから? もしかして、転んで頭を打って死ぬとか?」

「いえいえ、あなたはかろうじて転倒を免れました。けれど、よろめいた先には運悪く墓石がありまして。手をついた拍子にその墓石を倒してしまいます」

「それは大変なことしちゃった」わたしは、まだ経験していない自分のミスを嘆いた。

「正直なあなたは、その墓の主にわびを入れに行きます。それは日本で3本の指に入る大財閥のものでした」

「ますます大変なことを……」

「あなたは真摯に謝罪をするのですが、相手はそれを受け入れませんでした。というのも、対立する大財閥の指示によるものだと信じて疑わなかったからです。初めはこの2つの大財閥が互いを牽制し合うことから始まりました。そこへ第三の大派閥が仲介に買って出ましたが、これが火の油を注ぐ結果になりまして……」


「それからどうなったの?」怖いと同時に、強い好奇心に駆られ、わたしは先を促す。

「これらの財閥は世界的にも貿易などでつながっていましてね、やがて世界中に争いが飛び火したのです。ロックフェラーやロスチャイルドもそれに加わる形で、ついには世界経済が悪化していきました」

「なんてことに……」

「ヨーロッパはロシア、中国と同盟を結び、アメリカに対して経済報復を行いました。アメリカ、日本、韓国、東南アジアもまた手を組み、報復の報復を仕掛けたのです」

「大ごとになっちゃったね」わたしは困惑した。元はと言えば、自分のうっかりが原因なのだ。

「2048年7月15日、アメリカ連合はついにヨーロッパ諸国への通常兵器攻撃を開始しました。事実上の開戦です。こうして世界を巻き込んだ大戦が始まってしまったのですよ」


「もしかして核兵器とか使われちゃった?」不安な気持ちでわたしは言った。

「いえ、まだです。少なくとも、今は。ですが、それも時間の問題でしょう。わたしは今回の戦争の原因がなんだったのか、詳細まで徹底的に調べました」

「それでお墓参りにまで行き着いたってことかぁ」わたしははぁっと溜め息をつく。

「というわけで、わたしは10年前に完成させたタイム・マシンにのってここへやって来た次第です。どうか、お墓参りを伸ばしてはもらえないでしょうか」懇願するように、志茂田はわたしをじっと見た。

 言われるまでもなく、わたしは承知する。お墓へはいつでも行けるし、こんな話を聞いてしまっては、そうするよりほかはない。


「うん、わかった。明日はお墓参りに行かない。そんな些細なことで大戦争になるんじゃ、大変だもん」志茂田にそう誓う。

「よかった。これで未来は安泰ですよ、むぅにぃ君。あ、そうそう。一応言っておきますが、このことはわたしとあなただけの秘密にしておいてくださいね。過去への干渉は最小限に抑えておきたいもので。ちょっとしたことでも、未来を大きく変えてしまうことがあるのですよ。バタフライ効果が生じる恐れがあるので、他言は無用ですよ」

「うんうん、映画とかでもそういうのってあるもんね。絶対誰にも言わないから」


 翌日、未来の志茂田からメールが届いた。

「むぅにぃ君、世界は無事救われました。あなたのおかげです。感謝しますよ」


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