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母校に呼ばれる

 桑田孝夫、志茂田ともる、中谷美枝子、そしてわたしの4人は、かつて過ごした高校へとやって来た。

 後輩の高田浩二から、「面白いものを見せてあげますよ」とメールをもらい、懐かしさも手伝って行ってみることにしたのだった。

 わたし達が校門をくぐるやいなや、大勢の後輩達がバナーを広げて歓迎してくれる。「ようこそ! 歴史的な先輩達!!」と書いてあった。


「こんな出迎えをしてもらえると、かえって照れちゃうね」わたしは頭をかきながら言う。

「おれ達って、そんなにすげえことしたっけかあ?」桑田もまんざらではなさそうだ。

「やっぱ、あれかなあ。ほら、文化祭にあたし達がやったあれ」中谷が思い出をたぐるように頭を傾ける。

「ああ、ライブ・ロープレですか」志茂田が続けた。「あれは確かにユニークでしたね。以来、この学校の伝統になったそうですよ」


 わたし達の出し物は「ライブ・ロープレ」と称した舞台劇もどきのものだった。木田仁を中心に円陣にイスを並べて座り、魔王・木田仁を倒す、というものだ。

 

「さあ、みんな。魔王を倒すんだ!」桑田が叫び、ボール紙製の剣を木田に向かって振り落とす。裏方がHPゲージを少しだけ減らす。

「なんのこれしき! 食らえ、火の玉の魔法だ!」木田が杖を桑田に向ける。裏方が桑田のHPを4文の1まで減らした。もう1度魔法を受けたら、桑田は退場になってしまう。

 わたしはすかさず「回復魔法!」と言って、広げた扇子で桑田をあおいだ。裏方が桑田のHPを全回復する。

「うぬぬ、ヒーラーは侮れぬな」木田が今度はわたしに魔法を投げかけようとした。そこを志茂田が魔法反射の呪文で回避する。

 その隙に中谷が「えいっ、稲妻の嵐!」と声を張り上げ、水晶玉を掲げる。

「ぐはっ!」木田は目に見えない稲妻に打たれて、のたうち回った。

「今です、みなさん! 集合魔法を使うときです。桑田君は勇者の剣を魔王に突き立ててください!」

 わたしと志茂田、中谷は手と手をつなぎ、台本にある通り「チェイン・ストライク!」と声を合わせる。音響係りがゴゴゴーッという音を鳴り響かせた。とどめに、桑田が木田に剣を突きつけ、魔王は断末魔の声を上げてその場に倒れる。

 

 思えば厨二病な劇だったが、意外にもこれが大好評で、大勢の生徒が拍手喝采で喜んでくれたのだった。

 わたし達が卒業したあとも、この「演劇」は引き継がれ、毎年好評なのだという。


 わたし達がしたのはほかにもあった。

 プールの授業が終わった季節、みんなで入浴剤を持ち寄って水を青い蛍光色に染め上げ、その中に「お宝」をばらまいた。

 「お宝」といっても、小銭や記念コイン、ちょっとレアなフィギアなどだ。

「さあ、これからみんなでプールの底にある宝物を拾いましょう」志茂田の掛け声とともに、ほぼクラスの全員がプールに飛び込むと、夢中になって宝探しが始まった。

 入浴剤のおかげで視界がほぼゼロ。そんななか、手探りで小さなアイテムを拾うのだ。

 これがまた愉快だったと見え、もう1つの伝統となって残ることになる。夏休みが終わり、2学期が始まると共に、誰に言われるともなく入浴剤が教室のうしろの棚に並び、学級委員が日取りを決めて「第2のプール開き」を始めるのだった。

 

 わたし達のクラスだけに留まらず、ほかのクラス、学年でも真似を始めた。教師からも校長からも、何1つ苦言が出なかった。優等生の志茂田が始めたということもあり、生徒達にとって楽しいイベントを奪う理由がなかったからである。

 そもそもわたし達の高校は校風が自由だった。悪いことや危険なことでもない限り、何をしようが教師は口出しなどしない。

 押さえつけない教育が功を奏したのか、不思議と不良と呼ばれる生徒がまったくいなかった。やりたいことを何でもさせてくれたおかげで、生徒達は個性がはっきりとしていて、誰もが独創的な考えを持っていた。

 美術の授業が写生だったとしても、風景をそのまま描く生徒はほとんどなく、ある者は抽象的であり、またある者はシュールリアリズムだった。

 普通の学校なら、「こんな景色がどこにあるんだ」と叱られるところだが、美術教師もまた寛容だったため、「うむ、君らしい解釈だね」と褒めてさえくれるのだ。


 そんな高校のOBであることを、わたし達は幸運だったと思っている。卒業したあとでさえ、わたし達を「先輩」と呼んで慕ってくれ、今回のように時折お呼ばれをすることもあった。

「じゃあ、先輩達。そろそろ屋上に行きましょう。見せたいものはそこにあるんですよ」高田がそう促す。

「楽しみですね」志茂田がにっこりと答えた。

「おう、行こうか」桑田もわくわく感が顔にはっきりと出ている。

 5人で屋上に行くと、昔と変わらないガランとした殺風景な光景があるばかり。


「どこにあるの、その見せたいものって」わたしが聞くと、

「まあ、先輩。ちょっとだけ待っててください。あ、ほら。あそこ、あそこに見えてきました」

 高田が指差す方には雲が一切れ浮かんでいるばかりだった。いや、そう見えた。けれど、よくよく目を凝らすと銀色の球体が確認できる。しかも、だんだんとこちらへ向かって来るではないか。

「なにあれ? UFO?!」中谷が驚いたように言う。

「もしや、ドローンでしょうか」と志茂田。

「さすが志茂田先輩ですね。ええ、ぼく達未来ガジェット部が造った新型ドローンです」


 銀色の球体はどんどん近づいてきて、屋上の上空で一旦停止した後、すーっと舞い降りた。直径1メートルほどもある球体で、ピカピカに磨き上げられている。

「すげーっ、お前らこんなもん造ってんのかよ」桑田は球体の周りを見て歩いた。

「ぼく達で考えた推進力のドローンなんです。ただ、まだまだ改善の余地があるんですよ。今のところ、せいぜい500メートルくらいしか飛ばせません。で、先輩方の知恵をお借りしたいんです」

「それは興味深いですね。推進力の原理も知りたいですし、わたし達でよければ」志茂田は目を輝かせながら答えた。

「じゃあ、研究室へ。設計図から全部お見せしますから」

 わたし達は高田のあとをついて、屋上を後にした。

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