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レヴィアタン現れる

 志茂田ともるの家で節分で使う鬼のお面を作っていたときのことだった。つけっぱなしのテレビから臨時ニュースが流れてくる。

「太平沖に巨大な海竜と思われる生物が現れました。大きな渦を引き起こしながら、駿河湾に向かって移動中の模様です。このままだとおよそ3時間後には静岡県を中心に大津波が発生するものと予想されます。該当地区にお住まいの方は、至急内陸へと避難してください」日本地図が表示され、静岡県内全域と、山梨県、東京都、神奈川県、愛知県の一部が赤く染まっていた。

「大変だっ、東京も危ないって!」わたしは恐怖のあまり声を上げる。

 ニュースでは、ヘリコプターからの中継を映し出し、謎の海竜をカメラに収めていた。周囲に比較するものがないので大きさまではわからなかったが、金属的に輝く鱗に覆われたウミヘビのようなものが見て取れる。

「ふうむ……」志茂田は画面を見つめて考え込む。「あれはレヴィアタンに違いありません。これはとんでもないことになりましたね」


「レヴィアタンって何んなの?」わたしは聞いた。

「旧約聖書に出てくる巨大な海の怪物ですよ。神の造った最強の生物と言われています。非常に獰猛で、全身の鱗はいかなる武器を持ってしてもキズ1つ付けることができないほど硬いそうです。おそらく核兵器をもってしても殺すことはできないでしょうね。そもそも雄と雌がいたのですが、あまりに大きく強大な力を持つため、神はそれを危ぶんで雄を消して代わりに不死の命を与えた、そう伝えられています」

「じゃあ、もうどうしようもないってこと?」わたしは絶望的な気持ちになった。

「世界の終わりが来たということでしょうね」志茂田は淡々と言う。これも運命と悟ったのだろうか。


 そのとき、わたしはふと木田仁のことを思い出した。木田は今キリスト教にはまっていて、つい先日もイエス・キリストと話をしたばかりだという。

「ねえ、木田に電話してみようよ。神様と知り合いだって言ってたから、きっとなんとかしてくれるよ」とわたし。

「ほう、木田君がねえ。けれど、どうでしょうか。人間は信仰心が薄れてしまい、神ももはや我々には無関心なのではないでしょうか」

「ダメもとで頼んでもらおうよ」わたしは木田に電話をかける。「もしもし、木田? 太平洋にレヴィアタンが出たんだって。また天使とか呼んでなんとかしてもらえない?」

「ああ、むぅにぃ。テレビでやってるね。うん、あれは間違いなくレヴィアタンだよ。長い間眠っていたのに、なんで起きちゃったんだろうね」緊迫した状況だというのに、相変わらずのんきな返事が返ってきた。


「きっと、最後の審判とかいうやつかも。とにかく、このままじゃ世界が破滅しちゃうよ」

「あはは、心配性だなあむぅにぃは。大丈夫。ちゃんと、手は打ってあるさ」

「大天使がまた来てくれるの?」わたしはほのかに希望の光を見いだす。

「いや、レヴィアタンは最強の怪物だから天使じゃかなわないさ。ベヘモトを呼んでくれるって」

「何それ? 強いの?」

「うん、神が天地創造の際、六日目に造った最高傑作の生物さ。レヴィアタンと合わせて2頭1対とされてるんだ。すっごくでかいんだぜ。あのキリストでさえ、あまりの大きさに気絶しちゃってさ。3日目に目が覚めると、まだ通過している最中だったっていうんだから」

 

 電話を切ると、志茂田がほほえみを浮かべながら言った。

「ベヘモトですか。なるほど、それはいい選択ですね。いかなレヴィアタンといえど、ひと飲みですからね」

 けれどわたしは、一抹の不安を拭いきれない。

「だけど、こんどはその怪物が地球を丸呑みにしちゃうんじゃ?」

「安心してください、むぅにぃ君。ベヘモトは温厚な生き物なのですよ。すべての動物から慕われていると言われています」

「そうなんだ……」わたしはほっとした。

 そのとき、急に空が暗くなった。慌てて立ち上がると、窓から天を仰ぐ。何やら巨大なものが空全体を覆い尽くしている。まるで、天体かなにかのようだった。

「来ましたね、ベヘモトが」志茂田は落ち着いた様子でそうつぶやく。

 テレビ中継では、

「たった今、なにか途方もなく巨大な物体が雲間から現れました。危険なので、我々のヘリコプターはこの場を後にします」そう告げながら現場を離れていく。


 わたしと志茂田も空を見上げながら成り行きを見守っていた。あれがベヘモトなのだろう。とにかく大きすぎて全体像がまるでつかめない。

 いったいどうなっているのだろうか。わたしはそわそわしながら、窓の外とニュースとを交互に振り返り様子を探ろうとした。

 どれくらいたっただろう。そらが次第に晴れ上がってくる。ほとんど同時に、テレビから現況が報じられた。

「たった今、太平洋沖の大渦が消滅した模様です。どうやら海竜も姿を消したようです。駿河湾に出されていた緊急警報はすべて解除されました!」

「やったぁっ!」わたしは飛び上がって喜んだ。

「ええ、世界は救われましたね。レヴィアタンはベヘモトに呑み込まれたようです。もう2度と現れることはないでしょう」

 木田は凝り性だが、たまには役に立つこともあるんだなぁとわたしは心から感謝した。


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