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白い少年

 高校に初登校の日、中谷美枝子も偶然同じクラスだったのでびっくりするやら、うれしいやら。

「また、あんたと一緒だね。これも腐れ縁ってやつかなあ」中谷は笑いながら言った。

「うん、まさか同じクラスとは思わなかった。桑田も志茂田も違う高校へ行っちゃったから、ちょっと寂しかったんだ」とわたし。「ところで見た? あの子。真っ白だね」

「ああ、あの男子ね。アルビノでしょ。生まれつきメラニン色素がないんだって。だから髪の毛まで白いのよ」

 担任の先生がやって来て、簡単にあいさつをする。そのあとで席順がクジ引きで決められ、わたし達はようやく着席することが出来た。


「じゃあ、1人ずつ自己紹介をしてもらえるかな」先生は一番右端の生徒を指差す。

 例の白い子の番になり、彼の名前が石井正美ということがわかった。学ランを着ているから男子だとわかるが、顔だけ見るとまるで女の子のようである。名前までも「正美」だなんて、本当は女子が断層をしているんじゃないかと疑いたくなるほどだ。

「あの子、本当に男の子なのかなぁ」たまたま席が隣同士になった中谷にそっと洩らす。

「うーん、わざわざ男の格好をする理由もないだろうし、真っ白だからよけいにそう見えるんじゃない?」中谷はそう答えた。


 休み時間になり、興味を惹かれたわたしと中谷は石井君の席に駆け寄った。

「ねえねえ、君どこから通ってるの?」わたしはまずそう聞いてみる。

「ぼく、神岡町3丁目に住んでるの」

「なら、あたし達んちと近いじゃない。友達にならない?」積極的な中谷が申し出た。

「うん、いいよ」石井君はニッコリと笑う。

 こうしてわたし達は3人でよく遊ぶようになった。

 石井君は通学や帰宅の際、いつもサングラスをかけている。不思議に思って尋ねてみたところ、

「ぼく、陽の光に弱くって、サングラスを付けていないとすぐに目が痛くなっちゃうの」と答えた。彼の目は色素がないため、瞳がピンク色をしていた。

「ふーん、大変なんだ。だから席順の時も、初めは窓際だったのに、先生がわざわざ廊下側へ替えてくれたんだね」わたしはうんうんとうなずく。

「夏もね、長袖を着てないと肌が真っ赤になっちゃって困るの」

「ああ、それはあるよね」と中谷が同意した。「色素がないってことは、日に焼けないってことだもんね。皮膚ガンにでもなったら怖いよね」


 あるとき、街へ遊びに行くこととなった。

「そうだ、どうせなら石井君に女の子の格好をさせてみない? きっと似合うよ」中谷が提案する。

「あ、それ絶対面白いよ。やろう、やろう。ね、石井君」

「うん、別にいいけど」嫌がるかと思ったが、意外にもあっさり承諾する石井君。

「じゃあ、あたしのうちで着替えよう。体格があまり変わりないから、あたしの服が着られると思う」中谷はワクワクした様子で段取りを決めていく。

 途中、100均ショップでピンクのフレームのサングラスを買い、そのまま中谷の家へと行く。

「ただいまー」と玄関を開けると、中谷の母親が出てきて、

「あら、お友達? かわいい女の子ね」と言う。無理もない。緑色のフード付きトッパー・コートに、ベージュのアンダー。靴もオレンジのスニーカーだった。きっと、彼の母親のコーディネートだろう。


 中谷の部屋に入ると、さっそく石井君の服を脱がせにかかった。下着姿になった石井君を眺めながら、中谷はう~んと首を傾げる。

「どうせなら、下着も女物に替えちゃおうか」

「全部脱ぐの?」と石井君は言った。

「うん、ぜーんぶ」

 石井君は、わたし達が見ている中、臆面も無くシャツとパンツを脱ぐ。わたしは、ああ、やっぱり石井君は男の子だったんだ、と改めてわかった。

 中谷はタンスの引き出しからキャミソとパンツを取り出し、それを着るよう促す。素直に従う石井君。もう、どこから見ても女の子としか思えない。


「じゃあ、次は服ね」そう言うと、クローゼットからフリルの付いたピンク色のトップスとスカート、さらに色の濃い厚手のカーディガンを選んでベッドに並べた。

「中谷って、ピンクハウスなんか持ってたんだ」わたしは意外に思った。いつももっと地味なシャツとジーンズを履いていたからだ。

「ああ、これね。おかあさんが前に買ってくれたんだけど、あたしの好みじゃなくって着たことないんだ」

「ついでに、メイクもしない?」わたしは思いつきを口にした。「顔をもっと褐色にしてさ、いかにも普通の子っぽくするの」

「いいわね。じゃあ、白い髪を隠すために帽子も必要ね」中谷はそう言うと、棚の上から箱を下ろし、中から赤いハットを取り出した。

 そのあと、母親から化粧品箱を借りてくると、たっぷり30分かけて石井君の顔をファンデーションで塗り始める。


「さあ、出来た! これで、誰が見ても立派な日本人だわ」中谷は手を叩いて喜んだ。

「うん、うん。そうだね」わたしも中谷の腕に感心しながら同意する。

「そんじゃ、さっそく街へ繰り出そうか」

 わたしと石井君はほぼ同時にうなずいた。

 最初にファストフード店へ寄る。店に入ると、石井君はサングラスを取り、ポケットにしまった。

 わたしと中谷はビックリ・バーガーとコーラを注文する。次に、石井君がレジに並ぶと店員は、

「お嬢ちゃんは何にする?」と、まるで子供扱いである。確かに、幼い顔立ちだし、とても高校生とは思えない。店員を責めるわけにはいかなかった。

「じゃあ、ぼく――じゃなくて、わたしも同じのにします」結局、全員が同じ注文をする。


 そのあともデパートで服を見たり、たまたま開催していた野外コンサートを見物したりと、3人にとって充実した1日を過ごした。

 中谷の家へ戻ってきたときにはヘトヘトになり、全員揃ってベッドに腰を下ろす。

「今日は楽しかったね」中谷がそう言うと、

「うん、ぼくも。いつも、みんなからジロジロ見られるんだけど、今日は大丈夫だった」とうれしそうである。

「また、やろうね」わたしはそっと石井君の肩に手をかけた。

「うんっ!」

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