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お屋敷ダンジョン

 目が覚める。いつもの薄暗い部屋だ。8畳くらいあるだろうか、その真ん中にポツンと布団が敷かれていて、少しばかり心細い思いで寝泊まりしている。

 ちゃぶ台の上には、熱々のご飯と味噌汁、焼き魚、卵焼き、おしんこが用意されていた。わたしは寝間着姿のままちゃぶ台に着くと、目覚めの食事を始める。

 今が夜なのか昼間なのかはわからない。どこにも窓がなく、思い出したようにナツメ球が点々と灯っているばかりだからだ。

 そもそも、ここへ来てからどれくらい経つだろう。半月? いや、1ヶ月かもしれない。

 ここはお屋敷ダンジョンの宿屋なのだ。


「さて、ご飯も食べたし、出口を求めて旅をするとしようかなぁ」わたしは着物を脱ぎ捨て、洗い立てできちんと畳まれている下着を着、その上から鎖帷子を身につける。バックパックを背負うと、昨日拾ったばかりの剣を腰に下げた。

 宿屋を出ると、入り口でNPC役のスタッフが、

「行ってらっしゃい。今日こそ出られるといいですね」と愛想よく送り出してくれた。

 廊下に出ると、さっそく吸血コウモリが現れる。わたしはすらりと剣を抜くと、縦一文字に切って捨てた。ここに来たばかりの頃は、こんな雑魚ですら手強い相手だった。けれども、初期装備の「ヒノキの棒」と低い経験値では無理もない話である。


 このダンジョンに入ろうと思ったのは、たまたま街を歩いていて、武家屋敷のような佇まいを見つけたからだった。入り口にはのれんが掛かっていて、「お屋敷ダンジョン」と書かれていた。

「入場料1000円かぁ。きっと、お化け屋敷みたいなもんなんだろうね」ちょっと高い気もしたが、物珍しさでついチケットを買ってしまった。

 数十分で外に出られると思っていたがとんでもない。最初に初期装備を渡され、皮の鎧に着替えるとNPCが、「このまま先へお進みください。途中、モンスターや罠が待ち構えているので、うまくかわして出口を見つけるのが目的です」そう言われ、ただただ歩き続けてきたのだ。


 廊下は鶯張りになっていて、歩くたびにミシミシと音がする。それは何もわたしばかりではなく、敵が近づいてきたときの印でもあった。

 最初に出会ったのはスライムである。ヒノキの棒でも、2度3度叩くと消滅してしまった。倒すと、チャリンと音がして小銭が残る。ほんの30円ばかりだが、一応拾っていく。

 次に出会ったのは吸血コウモリだ。廊下の向こうからパタパタと音がするので構えていると、いきなり噛みついてきた。わたしはヒノキの棒で応戦するが、相手はすばしっこく、なかなか当たらない。当たっても、最低10回は叩かないと倒せなかった。

 キズだらけになりながらもなんとか倒すと、今度は100円玉が落ちてきた。なるほど、レベルの高いモンスターを倒せば、それなりの額になるのだな、と合点がいく。

 入り口でもらったバックパックを開けると、薬草が入っていた。試しにキズ口に塗り込んでみると、たちまち癒える。


 初めのうち、入り口付近でモンスターと戦い続けた。1匹倒すごとに確実にスキルが上がっていくのを感じた。

「もうちょっと強くなったら先に進もう」わたしはそう思い、ひたすらスキルを上げ続ける。

 そのうち、ヒノキの棒はヒビが入り、皮の鎧もボロボロになってきた。

「もっと先に進めば、アイテムが手に入るかも」わたしは進むことにした。

 この考えは正しかった。たまーに、さりげなく置かれた宝箱を見つけることがある。開けると、少額の小銭、ときどき紙幣が入っていて、運がいいとより丈夫な防具や剣が手に入った。取り忘れてはいけないのが「食券」と「宿泊券」だ。これがないと、せっかく宿屋を見つけても食事にありつけないし、不用心な廊下で寝なくてはならないからだ。


 こうしてわたしは、それなりのスキルを身につけ、武器や楯もそこそこいいものを手に入れた。

 部屋を見つけたら、取りあえず中に入ってみることも、すでにクセとなっていた。思いがけない収穫があったりするのだ。この間など、モンスターの攻撃を半分に減らす指輪を手に入れた。タンスや壷の中には、小銭がよく入っている。

 たまに、モンスターのいる部屋だったりすることもある。そういう場合、このモンスターを倒さない限り、外へは出られない。

 ミニドラゴンが潜んでいたときは苦戦した。炎は吐くは、鋭い爪で引っ掻いてはくるは、わたしは楯で炎を避けながら、「普通の剣」でチクチクと攻めていくよりなかった。

 幸い、相手のHPがさほど高くなかったため、どうにか倒すことができたが。


 宝箱の前にモンスターが立っていることもよくある。この場合、宝箱には何か重要なアイテムが入っていること間違いなしだ。当然、その守り手であるモンスターはそれなりのパワーを持っている。黙って通り過ぎれば何もしないが、宝を手に入れるため、わたしは敢えて戦いを挑んだ。

 モンスターがリッチだったときなど、手出ししたことに後悔したものだ。強力な魔法を使ってくるので、もしもこのとき魔法を跳ね返す楯を持っていなかったらやられていただろう。太刀筋もなかなかのもので、磨き上げたわたしのスキルでさえ、苦心した。

 でも、おかげで「巻物」を手に入れることができた。一読すれば、そこに書かれている魔法を使えるようになるのだ。わたしが手に入れたのは、敵に炎の玉を投げつける魔法だった。これでまた1つ、頼りになるスキルが身についた。


 このダンジョンを抜けるまでに、あとどれくらいかかるのかはわからない。1年か……10年か……。

 きっと、出口付近にはラスボスが待ち構えていることだろう。その頃までにスキルをマックスにして、最高の武器を手に入れなくては。

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