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DVDを借りる

 DVDを借りてきた。「今日借りてきた映画の名前を僕達はまだ知らない」という、やけに長いタイトルだった。

「なんだって、こんなもん借りてきちゃったかなぁ」借りておいて今さらだが、後悔する。ショップで手に取った時は、けっこう面白そうだぞ、と思ったのだが。

 ストーリーは、主人公の少年が、突如として街に現れたゾンビをバッタバッタと切り倒していく、というものだった。

「あれ、こんな話だったかな。店で読んだ時は、学園を舞台にした、酸っぱくも甘い、恋愛映画だったはずだけど」テレビの前で首を傾げる。

 最後は、ゾンビの屍で積み上げた山の上に立ち、「これにて、一件落着っ!」と叫んで終わった。


「何これっ?」レンタル料と時間を損した気持ちになる。

 リモコンをつかんで、イジェクト・ボタンを押そうとすると、再び画面に映像が現れた。

「おおっと、そのまま、そのまま!」主人公が現れ、わたしに向かって人差し指をちっちっ、と振る。

「まだ、終わりじゃないのか。もう、紛らわしいなぁ」わたしは、リモコンを離した。

「さあ、巻き戻して、もう1度このDVDを観てごらん。新しい物語が始まるよっ!」

 巻き戻すって、そんな……。テープじゃないんだから。

 わたしは、再びリモコンを取り、言われた通り、先頭から再生を始める。ボーナス・トラックの一種だろうか。


 音楽と共に、タイトルが表示される。


 〔今日借りてきた映画の名前を僕達はまだ知らない・2週目!〕


「いちおう、タイトルは微妙に違うんだ……」くだらない内容だったらすぐにでも止められるよう、今度はリモコンを持ったままだった。

「来いっ、エイリアンどもめ! バッタ、バッタ――」さっきと同じ主人公が、今度は地球を侵略しにやって来たエイリアン相手に大暴れしている。

「二番煎じか。つまらなそう……」わたしがつぶやくと、主人公がそれに答えた。

「君も参加したまえっ!」

「参加って言ったって、そっちは画面の中じゃん」思わず言い返してしまう。

「いいから、いいから。さ、ぼくの手を取って!」そう言って、手を差し出してきた。うちのテレビは大画面だったけれど、3D対応じゃない。それなのに、目の前に少年の手がうにょーんと伸びている。

 つい手を伸ばしかけて、慌てて引っ込める。

「危ない、危ない。前に映画で観たことがあるよ。捕まったら、そのままテレビの中に引きずり込まれるんでしょ?」


「あきれた奴だな。ホラーの見過ぎだろ、それって。いいから、早くおいで。手が足りなくってね。ライト・セイバーを貸してやるから、加勢してくれよ」じれったそうに促す主人公。

 わたしは自分のばかげた思い込みが恥ずかしくてたまらず、頭を掻きながら、彼の手を取ってあちら側へと行く。

「そら、ライト・セイバー。持つ方向を間違えないでくれよ。いつだったか、スイッチを押したとたん、ブレードが自分の方に飛び出してきて、ブスッとやっちまった奴がいるんだ」

 わたしは武器を渡され、とまどいながらも吟味した。太めのコケシにそっくりだ。矢印が書いてあり、「注意、こちら向きには絶対に持たないように」とあった。

「こう持って、ここのスイッチを入れればいいんだな」わたしはスイッチを押した。ブウン、と低周波がうなり、ピンク色のビームが伸びる。


「エネルギー密度が高いから、しっかり持たないと振れるよ。気をつけてな」少年が注意をする。

 その通りだった。某映画では片手で軽々振り回していたようだが、とんでもない。両手でしっかり押さえ込んでおかないと、こちらが持っていかれそうになる。

 わたしは、ウォーミング・アップを兼ねて、もよりの草木を払ってみた。素振りでもしているかのように、まったく抵抗を感じなかった。

「もっと、固いものにしよう。そこの岩とかも切れるかな」両手で狙いを定めて、垂直に振り下ろす。サクッ、と真っ二つだ。豆腐を切るよりたやすい。

「練習、そろそろ済んだ?」少年が聞く。

「うん、大丈夫そう」わたしは答えた。

「じゃ、始めようか。ほら、エイリアン達、君が支度するのをさっきから待ってるんだ」

 丘の上の木陰では、醜い姿をしたエイリアンの集団が、缶コーヒーを飲んだり、タバコをふかしたり、と退屈そうに休んでいる。


「おーい、エイリアン諸君、こっちの準備はいいよー。再開しようかーっ!」

 こちらが呼びかけると、向こうも背伸びをしながら立ち上がる。

「わかった。では、やろう。いざっ!」エイリアンの代表が怒鳴り返した。

「ぼくの後ろについてきて!」少年は、ダッと駆け出す。

 わたしも遅れまいと走った。

 走りながら、「ねえ、この戦い、いつから続いてるのさ。もう、10年くらいになるの?」と話しかける。

「いつって、このDVD、発売されたの先週じゃないか。レンタル・ショップの新作コーナーの棚に置いてあったろ?」

 あ、そう言えばそうだった。

「それよか君、返却日までには、きちんと返してくれよな。ほかにも借りる人がいるんだからね」

「わかってるってば。延滞料金、ばかにならないしね」

 内心では、面白すぎて何度も観返すことになりそうだぞ、と考えていた。期日までに返しに行ければいいけれど。

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