明日、槍が降る。
昔に書いたものを改稿、転載。
ずっとすきだった。
それこそ、八年間も、ばかみたいに片想いした。
だけど、だけど、友達だから。
あたし達は友達だから。
踏み越えちゃいけない線は、踏み越えたら後がないから。
……って、思ってた。
只今、酔っ払い警報発令中。
「ちょっと、大丈夫?」
「へーきへーき」
珍しく酔っ払いと化した彼に声を掛ければ、あまり大丈夫とは思えない感じで返事をした。
足元こそふらついてないけど、大丈夫とは言いがたい。
何がどう大丈夫じゃないのか。
その辺は上手く言えないが、長年付き合ってきた友達の勘がそう言っていた。
こいつは、間違いなく酔っている。
彼とは大学からの付き合いで、かれこれ八年になる。
相変わらず隣に並んでくれない背中を眺めながら、知らず溜め息が零れた。
もともと無愛想で、なかなか笑ったりもしない。
オープンな様で、実はあまりそうでもない。
他人の詮索や聞き出しは上手いくせに、自分のことは話さない。
そんな彼と、どうにかこうにか四苦八苦して距離を縮めた八年間。
ようやくあたしは、たまに飲み交わす友達というポジションに定着していた。
八年。
八年は、結構長い。
その間、他の誰かと付き合ってみたりもしたけど、やっぱりと言うか、上手くはいかなかった。
そんなことを考えながら眺めていた背中が、ふと立ち止まる。
「どうしたの?」
「……んー、ちょっとこっち来てみ」
いまいち的を射ない返答を寄越して、空を見上げる彼。
久しぶりの隣に並ぶチャンスに密かに心躍らせながら、何気ない素振りで言われた通り隣へ行った。
「で、どうした?吐く?」
聞いてはみたものの、どうやら違うらしく、空を見上げたまま、彼は答えなかった。
あたしよりだいぶ背の高い彼を眺めながら、その視線の先を辿る。
「……わあ」
真冬の空に、澄み切った空気を通して瞬く無数の星が散らばっていた。
「きれいだねえ」
「……んー」
「何、眠いの?」
「まあ、眠いけど……」
眠いけど、何?
そう問い掛け様として、それ以上は続かなかった。
視界一面に広がるのは、真冬の空でも、無数の星でもなくて――普段やたらとクールで無愛想な、彼のアップだった。
触れただけのそれはやたらと柔らかくて、それがまた、妙に生々しい。
そして。
「……酒くさい」
思わず口から出た言葉に、悪びれなく彼が笑う。
「そーゆーこと言う?」
「……だって」
だって、本当に酒くさい。
だって、踏み込んじゃいけない。
酒の勢いなんて、あたしはごめんだ。
「あのねえ……俺、八年越しなんだけど」
少しだけはにかんで笑う彼を見て、呆然としつつも、たぶんあたしは真っ赤だったに違いない。
「い、今更」
「……まあ」
「お酒、飲んでるし、……」
嬉しいはずなのに、動揺した気持ちは、可愛くなれない言葉だけを紡ぐ。
「こうでもしないと言えないんだよ……わかれ、ばか」
より真っ赤になったあたしと、同じくらいに真っ赤な彼……果たして今までに、こんなお互いを見たことがあっただろうか。
「……で?」
伺う様な瞳には、確かにあたしが映っている。
その先に広がるは真冬の空と無数の星。
明日、雨は降らないだろうけど、槍は降るかもしれない。