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第五話

 畳、障子、襖と誰が見ても和室な部屋にて、一人の眼光鋭い厳つい男と、先程夏亀を監視していたスキンヘッドの男の一人が対面し合い、深刻そうに色々と話していた。


「以上が千鶴御嬢と接触して自宅に連れ込んだ輩です」


 そう言って、スキンヘッドの男が厳つい男に夏亀の顔写真と情報が載っている紙を手渡す。

 

「ほぉ……こいつが、千鶴にあ~んして貰った糞野郎か……」


 坊主憎けりゃ袈裟まで憎い。夏亀の顔写真をギロっと睨み、一気に紙を破り捨てる。


「はい、このキンジ確かに眼にしました」


「こ、この御父さんですら千鶴にあ~んして貰った事が無いんだぞ!! 許されるか、そんなもん!! キンジっ!! 今晩、こいつをチンしに行くぞ!!」


 可愛い愛娘が自分にはしてくれない御口にあ~んを夏亀にしたのに対して御立腹なのか、床を何度も強く踏み、血走った眼で部屋を飛び出していく。


「了解しました」


「あらあら、なんか大変な事になったわね? 千鶴ちゃんに報告かしら?」


 そして、そんな馬鹿野郎共の会話を襖越しに聞いてる一人の女性の姿。

 会話をミュートでお楽しみ戴ければ、極道物ドラマの雰囲気も楽しめるだろうが、如何せん会話が聞こえればどこぞのコメディーかアニメにしか見えず、脱力感を誘う物が有る。

 まぁ、沈められてしまう対象の夏亀を除いての話だが……




「ぶぅえっくしょん!? な、何だ……千鶴ちゃんが帰ってから嫌な予感と寒気が……」


 ケーキを食べ終えた後、千鶴ちゃんと少し会話をしていると、「親が心配するといけないから」と言って千鶴ちゃんは帰路に就く。

 自転車で送ると言ったけど、何から何まで迷惑を掛けれないと首を何度も強く振るので、首を痛めては拙いと判断し送るのを断念。

 まぁ、防犯の面では、あのスキンヘッド軍団が影から守ってくれると思うので、自分が送るよりは安全なのは確かであろう。

 時刻も夜の8時となり、涼しくなって来たのも有るのだろうと、何度も自分に言い聞かせ、パソコンを操作して今日買い損ねた小説を注文しにamagonにて注文をする。

 少し時間が遅かった所為も有り、再入荷後の御届けとなるので2週間くらいかかるが、既に特典DVDは見ているので小説だけの奴を今からNATAYAに買いに行こうかと考えている。

 もしも、NATAYAに初回限定版が有れば有ったで、amagonで注文したのはキャンセルすれば良いだけの話だし。

 そうと決まれば、俺は部屋の電気とノートパソコンの電源を切って、アパートから出て施錠し、駐輪場に向かう。


 そして、将に自転車に乗ろうとしたその瞬間だった……


 首根っこと口を押さえられ、喋れない状態にされて、黒塗りの車に担ぎ込まれたのだった……


 って、誘拐ぃいいいいいいいいいいい!?


 車に担ぎ込まれるや否や、手には手錠、足にも手錠、口には猿轡と思いっきし拘束され身動きすら取れなくされる。

 アイマスクはされてないので、視界はちゃんと有る為、自分を誘拐した犯人の顔はしっかり眼に入る……


 いやまぁ、思いっきり見覚えのある輩で……

 今朝のスキンヘッドの連中でした……


 ただ、その中に一人だけ見慣れぬ人物が……と言うか、俺に思いっきり殺意を向けてくれる方が居た訳で……

 俺って何かそんな殺意を向けられる事をしたっけと疑問を何度も再考しつつも、リアルドナドナされている現状を打破すべく脱出する為の方法を考える。


1・恰好良く車の中から飛び出る……駄目だ、手と足に手錠が……

2・車の中の人物を皆倒す……駄目だ、手と足に手錠が……

3・運転手を攻撃して事故を誘発して脱出……駄目だ、手と足(ry


 って、全部手と足の手錠の所為でダメじゃん!?

 と云うか、なんでこんなに束縛されてる訳!? 警察でも犯罪者にここまで束縛しないぞ!!


「おぉ、手荒な真似してすまんのう……ワシも本当はこんな風に手錠までする気は無かったんじゃ……」


 そうこう考えていると、俺の思考を読み取ったのか、初見の殺意を向けてくれているおっさんが謝罪を入れて来る。

 もしかして、良くアニメとかである『実は君の命が狙われているから、君を守る為に凶行手段に出たんだ』的な展開か!?


「本当は手荒な事もせずに背中からズドンも考えたんだが、るならチンした方が証拠も残りにくいからのう」


 ヤベェ、一片すこしでももしかして的な希望を抱くんじゃ無かった……マジでこのおっさん殺る気満々じゃん……今、思いっきし殺人予告したし。

 野球のバッターが言うホームラン予告やボクサーの言うKO予告よりも、遥かに成功率と云うか実行される確率が高い危ない予告がされたよ!!

 って、俺は何を支離滅裂な事を言ってるんだ!?

 落ち着け、落ち着け、こう云う時は手に人って書いて……って!! 手は手錠で動かないし!!


 完全にパニックモードの俺を余所に、自動車は更に走る走る。

 パニクっていたので、一体どれだけの時間を走っていたのかは分からないが、自動車が急に止まり、俺は自動車から黒スーツの男に担がれ降ろされる……訂正、地面に投げ降ろされる。

 そして、俺が自動車から降ろされて最初に見た物は……


 『THE埋め立て地』


 埋め立て地は英語で『reclaimed land』って言うんだよ。

 って、どうでも良い雑学を披露してないで、何とかして逃げないと……


 俺は必死に芋虫のように体をくねくねさせて遠くへ逃げようとするが、簡単に黒服スキンヘッドに取り押さえられ……


「モガモガぁ!!(離せぇ!!)」


 叫ぶ。只管、叫ぶ。

 だが、俺の叫びは空しく誰にも届かず……俺は刻々と自分の人生の終わりの時が刻まれるのを待つしかないのだ……

 あぁ、まさかリアルの女性と関与しただけで、こんな人生の結末を迎えるなんて……

 思い返せば、大学時代も女性と会話したのって、同じ研究室の人とデータを交換する時くらいで、趣味の事とか話した事無いんだよなぁ……


 まぁ、その念願の女性と話した結果がこれなんだから、悔いは……


 有るに決まってるだろ!!


「モガモガぁ!!(離せぇ!!)」


「しろしぃのぉ、この餓鬼は……さっさと、沈めるぞキンジ、ギンジって痛っ!? 誰じゃぁ、ワシの頭を……」


 地面に芋虫状態の俺は、視界の関係上、当然目の前の男の悲鳴の理由が分からなかったので、体を反って視線を上にする。

 すると、そこには男をニコヤカに拳骨した和服を着た女性の姿と……涙目で俺に駆け寄って来てくれる千鶴ちゃんの姿が。


「夏亀様、大丈夫ですか!?」


 そう言って、俺の猿轡や手錠を次々と外してくれる。


「あはは、なんとかぁ……沈められる寸前だったけど……」


「本当に、父がスミマセン」


「父ぃ!?」


 千鶴ちゃんと和服の女性の御蔭で無事に助かった事に胸をなでおろしつつ、落ち着いたと思いきや……

 千鶴ちゃんのカミングアウトに眼が飛び出しかける。

 いや、だってさぁ!? こんな人畜無害で可愛い女の子の父親が、目の前の人畜有害の強面親父だよ!?

 しかも、今命を奪われかけてただけに、驚きも倍増だよ!!


「ほらっ、アンタ達っ!! この子に謝りなさい!! 良い歳して、子供が異性に食べらせてあげた事に嫉妬するんじゃないの!!」


「だって、ワシだって千鶴にあ~んをして貰った事がないんじゃぞ!? それなのにこの害虫は、千鶴の恋人でもないのにあ~んをして貰った不届き者じゃぞ!!」


「もしかして、俺ってそれだけで沈められかけたのか!?」


「当り前じゃ、だぁほぉ!!」


 いや、自信満々に馬鹿者って返されても困るんだけど!?


「どんだけ親馬鹿なんだよ!? 普通、そういう時は自分の娘に接触した人間がどんな人間か調べてから、何かしら行動するべきだろ!! ていうか、埋めるって発想は普通ないだろ!!」


「うるさいわ、就職浪人のフリーターが。しっかり、御前さんの下調べはしとるわい。これが企業の社長とかならまだ考えるが、フリーターじゃあ考慮するまでもない……グハッ!?」


 あっ、和服の女性が千鶴ちゃんの親父に飛び膝蹴りを叩きこんで、埋め立て地に突き落とした……夏とはいえ、流石に夜に海に突き落とされるのは結構堪えるだろうなぁ……おっと、あと少しでざまぁみろと顔がほくそ笑む所だった……危ない危ない……

 和服の女性が何物かは分からないけど、明らかにこの親父さんよりは上の存在と思うから、ここは突っ込みとか入れずに静かにしておくべきかな?

 でも、心の中ではしっかり感謝は忘れずに。


「本当にうちの馬鹿が御免なさいね。相変わらず、子離れが出来て無くて本当に困ってるのよ。ほら、キンジにギンジもこの子に謝りなさい!!」


「「スンマセンデシタ!!」」


 女性の叱咤にスキンヘッド二人組が見事な土下座を見せてくれる。

 岩男シリーズのラスボスの爺様だってここまで見事な土下座は出来ないだろう。


「いえ、無事に生きてるので良いですよ……」


 と云うか、下らない事を言った日には俺も海にダイブする羽目になりそうだし……


「ほら、アンタも謝りなさい」


「ワシは絶対に嫌じゃ!! そもそも、一人娘を心配しない親などいないじゃろう。それでなくとも、可愛い娘の嫁入り前に何か有ったらどうするんじゃ!! 彼氏でもなければ、ましてや初対面の男じゃぞ!!」


「話をすり替えるんじゃないの!!」


 駄々っ子のように千鶴ちゃんの親父が嫌がるが、和服の女性の雷が再度落ち、千鶴ちゃんの親父はビクッと体を震わせてその場に正座をする。

 行き成りの大声に、俺とスキンヘッドも怒りの矛先では無いが体が反射的に動き、その場に正座をしていた……


「千鶴も良い年なんだから、悪い人と良い人の区別くらい自分で判断出来ます。それに、一目見ればこの子が悪い子ではない事くらいは私だって分かりますし、内気な千鶴が一緒に話すくらいです」


「うぐっ……じゃ、じゃがの……ワシは千鶴の為を思って……」


 和服の女性が正しい事は千鶴ちゃんの親父も分かっているのだが、認めたくない物は認めたくない気質らしく、何とかして反論しようとした刹那、平手打ちの乾いた音が響いた。


「父さん!! 夏亀様に謝って下さい!!」


「ち、千鶴?」


 温厚で優しい千鶴ちゃんのまさかの行動に、空いた口が塞がらないスキンヘッド二名と、平手打ちをされた千鶴ちゃんの親父。

 最早置いてきぼりを喰らって被害者から部外者になりつつ有る俺も、千鶴ちゃんの行動には驚きが隠せずに居た……主に、実の父とはいえ、人一人殺すのに躊躇いすらしない外道に平手打ちをすると云う事に……


「私は自分の道は自分で決めれますし、善悪も理解出来ていると思っています。もしも、恋人以外の殿方とそのような事をしてはいけないのでしたら……」


 千鶴ちゃんは未だに正座モードの俺に近付いて来て……


「夏亀様、失礼します」


 顔を近づけて俺の唇にキスをした……

 あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ!

 「おれは 奴の前で地面に正座していたと思ったら、いつのまにかキスをされていた」

 な……何を言っているのかわからねーと思うが……俺も何をされたのか分からなかった……

 つうか、唇やわらけぇえええええええええええええ♪

 って、おいおい!? 俺は何を混乱して言ってるんだ!?


「なら、夏亀様の恋人に私はなります。今日一日夏亀様と色々話しましたが、凄く楽しかったですし……夏亀様みたいな殿方が彼氏でしたら私も凄く嬉しいです」


 あっ、千鶴ちゃんの親父が石化状態になって動かなくなった……

 混乱状態に陥った俺も人の事は言えないけどな。


「夏亀様。夏亀様は私の様な異性はどう思われますか?」


「俺も千鶴ちゃんみたいな可愛い女の子が彼女だったらすげぇ嬉しいよ。だけど、千鶴ちゃんの御父さんが言う通り、俺は大学出てるけど、定職にも就いていないフリーターだから……きっと、千鶴ちゃんには相応しくないと思う」


「そうじゃ、その小僧の言う通りじゃ」


 石化状態はアイテムか魔法を使わないと治らないのがRPGでの定石だが、このオッサンには定石等通じる訳も無く、早々に復活して使い古しのガマ口財布の様に口を開く。


「あらぁ、じゃあ私に良い案が有るわ♪ 夏亀君が千鶴の家庭教師をするのはどうかしら?」


「名案です。御母様」


 あぁ、成程。どうりで、千鶴ちゃんは親父さんに似ずに可愛い訳だ。

 言われてみれば、綺麗な黒髪や肌白な所、モデルの様に細い手足や小顔等は瓜二つである。

 つうか、この親父がどうやってこんな美人な女性を口説き落とせたんだ? 世界七不思議の一つに加えられても可笑しくないレベルだろ!!


「じゃ、じゃが、それでは千鶴が学校を卒業したら元のフリーターに戻るじゃろうが!!」


 勝手に話を進める二人に真っ先に口を挟んだのは千鶴ちゃんの親父だが、今回は至極まともな意見である。

 確かに一個人専門の家庭教師では、職に就ける期間に限度が有る。

 て云うか、千鶴ちゃんって年齢指定のゲームやってる事から、18歳は超えてると見積もれるからもって数年くらいだよな?


「あら、千鶴が家業を継いだ後は、千鶴の秘書をやって貰うに決まってるじゃない。えっと、千鶴の趣味の言い方では専属執事って言うのかしら? じゃあ、そうと決まったら、屋敷に帰るわよ。ほら、千鶴も夏亀君も来なさい」


 実家の母さん、父さん、姉貴、妹……なんか知らない内に就職先決まりました……




用語説明

THE埋め立て地

色々と埋める事が出来る素晴らしい場所。

廃棄物から、たんぱく質までなんでもかんでも埋めてしまおう!! でも、環境破壊をするような物は駄目だよ?

<THEシリーズに新作登場!! 一杯色んな物を埋め立て地に放り込もう!!>


岩男シリーズのラスボスの爺様

全くと言って懲りないラスボス。似た者にΣとか居たりする。

あのボンボンの様な髪の毛を捥ぎ取りたい願望を持つ人は僕と握手!!

<ジャンピングドゲザ!!>

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