表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/13

第八話

 待てっ!? 待て待て待て!?

 落ち着け、落ち着くんだ俺……

 今日は色々と疲れてて聞き間違えをしたんだ、きっと……


「えっと、俺の聞き間違えだと信じたいんだけど、千鶴ちゃんって今何歳?」


「9歳ですよ? 私立開明小学校しりつかいめいしょうがっこうに通う3年生です」


 聞きなおしたものの解答は同じであることより、聞き間違えでは無かったみたいだ。

 嘘だと言ってよパトラッシュ……

 ていうか、一ケタの女の子にR18ゲームをやらせるなよ!!

 

「そ、そうなんだ……俺は千鶴ちゃんは落ち着いてるしてっきり高校3年生くらいかと思ってたよ……」


「夏亀様ったら御世辞が御上手なんですから♪ あっ、今日は日直なので急いで行かないと」


 そう言って、急いで食パンを加え租借をする。

 本人は急いで食べてるつもりなのだが、俺らが普通に食べるよりも遅いと云うのが実に女の子らしくて可愛らしい。

 しかし、9歳か……

 その事実より、安堵と不安の両方が俺に襲いかかる……

 先ず安堵の方は、高校受験もまだ遠い事も有り、これからしっかり時間を費やして高校受験と大学受験において志望校への対策が練れる事。

 不安とは……主にR18なゲーム大好き、アニメも漫画も大好きでオタクマッシグラというか、既に限界突破してしまった千鶴ちゃんをどうやって元の道に戻すかである。

 二次元にふれてないと落ち着かない俺が言うのもなんだが、流石に9歳でこの趣味は正直ヤバいと思う。

 だから、せめて小学中学くらいは真人間として生活して欲しいと思うのだが……いや、どう考えても無理か……


 俺は横目で食パンを一生懸命食べている千鶴ちゃんを見て溜息。


 千鶴ちゃんには俺の悩みは理解できないのであろう、溜息を吐く俺と悩みが理解できている黒服ベスの苦笑いに頭にクエスチョンマークを浮かべ不思議そうにパンを咥えたまま首を斜めにする。

 ちくしょぉ、仕草の一つ一つが本当に可愛いなぁおいっ!! 

 と、目の前のシシャモを口に入れ強く租借する事で八つ当たり。すまない、罪なき海洋生物。君の子供たまごごと強く租借するこの罪深き人間を許しておくれ……

 全ては目の前の可愛い千鶴ちゃんが悪いんだっ!!


「御馳走さまでした。では、夏亀様行ってきますね」


 シシャモとのくだらないやり取りをしてる間に千鶴ちゃんは準備を終え、ギンジさんと一緒に食堂から外へ出ていく。

 黒服ベス曰く、近場の公立ではなく、敢えて私立小学校を選んだという事もあり車での送り迎えが無いと通学できない為、毎日キンジさんかギンジさんが車で連れて行っているらしい。

 千鶴ちゃんの舎弟かつ、千鶴ちゃんに絶対的忠誠を誓っている二人故に安全ということもあり、過保護な千鶴ちゃんの親父も安心してあの二人に任せているらしい。

 恐らく、あの二人ほど頼りになるボディーガードは存在しないだろう……千鶴ちゃん限定だが……


「しっかし、千鶴ちゃんって小学生だったんですね」


「あははは、意外でしたか? でも、御嬢は見た目は幼く可愛い顔付きなので逆に小中学生くらいと思われるのが私的には普通だと思うのですが?」


「う~ん、まぁ……あの趣味がなければ俺だってそれくらいだとは思ったんですけどね……」


 『この世の何処に小学生で成人向けゲームをやる女の子が居るんだよ!!』という固定概念に俺の思考はマヒしていたわけだし。

 もしも、出会った場所があの本屋のラノベコーナーでは無く、また三国時代の恋する御姫様なゲームの話題にならなければ決して俺は幼くて可愛い千鶴ちゃんを高校生や大学生なんていうとち狂った認識はしないであろう。


「確かにそれは一理有りますね。おや、もうこんな時間ですか。そろそろ自分は舎弟と一緒に島の方の見回りに行って来るとします。組長のお部屋の方はキンジに案内するように言っておきますので御安心下さい。では、お先に失礼します」


 そう言って、俺がまだ食事の半分も食べてない間に、黒服ベスは既に食事を平らげており腕時計と睨めっこした後仕事に出掛けた。

 そして、気付けば一人ぼっちになった現状に俺は慌て、掻き込むように急いで御飯を平らげ、食器を下膳し、まだ忙しそうに食事当番をしているキンジさんに自分の部屋に居ますと一声かけて部屋に戻る事にした。


 長い廊下をとことこと戻り、自分の部屋へと戻るといの一番に携帯を開き、退屈しのぎに様々なユーザー達が執筆した小説を無料で読める小説サイトを開く。

 最近俺が読んでいるジャンルは夢見がちな『ハーレム』や『ファンタジー』が多いのだが、今日は珍しく違ったジャンルを読んでみる事にした。

 キーワード検索に『暴力団』という文字を入れ、極道物の小説が投稿されて無いかと検索を開始。

 検索件数は20件ばかしだが、出る事には出たので早速それらのタイトルとあらすじを見て、暇潰しに読む作品を決める事にした。

 だが……『御嬢様は極道三枚目執事に恋する』やら、『極道先生3年1組ハーレム物語』やら、『暴力団VSエイリアン』、『暴力団VSプレデター』、『ドキッ☆暴力団だらけの麻雀大会♪ (体の一部の)ポロリもあるよ』など、タイトルからして極道に関するまともな知識が得られると思われる作品は皆無であった……


 ていうか、なんでエイリアンやプレデターと暴力団が戦ってんだよ!!

 エイリアンVSアバターなみにねぇよ!! つうか、あの作品はエイリアンの存在がアリエンのだよ!! 着ぐるみの出来が酷過ぎだろっ!!


 作者の気持ちを知らぬ間に心の声で代弁させられている事14分と28秒後、白いエプロンを脱ぎ捨て何時もの黒服姿のキンジさんが部屋にやって来る。

 そして、俺を千鶴ちゃんの親父の所へ案内をしてくれ、千鶴ちゃんの親父の部屋の前で「組長が昨日日本刀を研いでやしたので御気を付けて」と残して何処かへ逃走……

 止めてくれよ、そんな不安になるような事を言うのは……

 それでなくとも千鶴ちゃんの親父が俺の命を狙ってるのは分かり切ったことで在り、肉食獣に狙われるウサギの気分である俺に対して、『YOU今から襲われるかもYO?』というスパイスをブルーな今の気分にどっさり投入。

 スパイスをどっさり加えるのはインド人の作るカレーと愉悦部のおっさんの好きな麻婆豆腐だけで十分なんだよ。

 

 だが、何時までもここに立っているだけでは話は進まないので俺は覚悟を決めて部屋の襖をあけることにした。


「失礼します」


「おぅ、入れ入れ」


 部屋の中の組長じゅうにんから許可が出たため、俺は緊張で口の中に溜まっていた唾をゴクリと飲み、襖をあける。

 一番最初に眼に入ったのは座椅子に座って、朝のニュースを聞きながら新聞をのんびり見る何処にでも居そうなオッサンの姿。


「まぁ、取って喰いはせんから気楽に座れ。ワシも屋敷の中で流血沙汰は起こしたくないから安心せい」


 それはつまり、屋敷の外では気をつけろってコトだよね?


「さり気無く物騒な事を最後に付け加えましたね」


「気の所為じゃろ? では、先ずはこの書類に目を通さずに黙って拇印を押せ。良かったな、黙秘権だけは残しておいてやったぞ」


「いやいや、素直に黙ってサインしろって事かよ!! 残すなら黙秘権より拒否権を残してくれよ!?」


「冗談じゃよ。ワシも今日は用は無いからゆっくり納得が行くまで見るが良い」


 書類の一枚目に目を通してみるとそこには、禁則事項について多岐に渡って書かれていた。『他の組との問題を極力避ける』、『和田組内で見聞きした重要情報は他組織に漏らさない』、『組織内の人間への殺人行為』、『麻薬の使用及び売買』、『犯罪行為の禁止』、『千鶴に手ぇ出したら殺ス』……

 今上げた中でも、『和田組内で見聞きした重要情報は他組織に漏らさない』、『組織内の人間への殺人行為』、『麻薬の使用及び売買』に関しては破門ではなく絶縁ぜつえん扱いになるらしい。

 違いが分からないから尋ねてみた所、破門は組への復縁の余地があるが絶縁にはそれが無いらしい。つまり絶縁とは完全に組と手を切られもう関与する事すら出来なくなってしまう重い罪らしい。

 また、絶縁をすると同時にその元組員に対する顔写真入りの絶縁状が親しい組には送られ、それを受け取った組が絶縁をした人間を組に招き入れると云う事は敵対行為と見なされる程である。


 続いて二枚目に眼を通すことにした。

 二枚目には和田組の友好関係に関して書かれていた。

 最初に和田組は神代一家の二次団体であることについて書かれている。二次団体とは一次団体である大元の組織の組員が自分の組を立ち上げた場合にその組に対して使われる言葉である。

 簡単に説明する為に企業で例えると、神代一家を親会社とすると、和田組は子会社のような存在である。

 そして、よくテレビなどで大規模暴力団の構成員の人数は何万人と聞くが、実はこの数値は一次団体だけでなく二次団体、さらにその下の三次団体等の合計数値である。企業で言うとグループ総従業員的な感じで考えて貰っても構わない。

 上位下位組織についての組織図の次は友好的な組についてである。

 今朝の明太子の一件でも名前が出て来た『頭木一門かしらぎいちもん』を始め、『八区字一派はちくじいっぱ右衆うしゅう左衆さしゅう』、『鳳組』、『風囃一門かぜばやしいちもん』といった組の名前が何百と書かれている。しかも、良く読んでみると『シルヴァニアファミリー』、『リッツモンド一味』といった日本の組だけでなく海外マフィアの物と見られる物もちらほら。


 そして次の三枚目……

 友好的な組織が存在すると云う事は当然その逆も存在すると云う事である。

 黒銅会こくどうかい鉄鋼会てっこうかい尾張組おわりぐみ八荒城組はちこうぎぐみとこちらも紙に嫌なくらいぎっしりと書かれている。

 中でも黒銅会と鉄鋼会に関しては赤字で書かれているのを見ると、特に敵対視をしているのだろう。


 最後の四枚目は俺の今後の仕事内容と月給について書かれている。

 仕事内容は千鶴ちゃんの家庭教師、月給に関しては衣食住に関しては全て支給されると云う事も有り、それを差し引いての12万円とのこと。

 つまり、俺はサインをすることで手取り12万円かつその全てを自分の好きなように使える素晴らしい生活を手に入れる事が出来るということだ。

 更にコンビニのバイト代も入る為、実際に俺が使える金額は月20万近くになる。

 ってことは、欲しかったあのラノベも漫画もDVDボックスも!!

 全部買えちゃうじゃん!!


「まぁ、悪くない内容じゃろ。さて、次の話じゃが、今日のバイトは何時迄入ってるんじゃ?」


「今日は少ししか入れてないので17時までにはあがれます」


「じゃあ、終わり次第直ぐに帰って来い。今日中に神代一家と鳳組に顔見せに行くぞ。組長の銀杏さんと飛鳥さんにはワシから連絡しておく」


 どうでも良い話だけどイチョウにアスカって明らかにアニメに出て来そうな名前だよね。

 でも、こういう名前って組長とかの器に納まるに相応しい名前だよね。

 だってさ、○○組組長『田中太郎』と○○組組長『九条くじょう伸治しんじ』じゃどう考えても後者の方が組長の器の名前だろ?

 組長補佐に就任したら俺も恰好良い名前にしてみようかな?

 『山楽さんらく小太郎こたろう』なんてどうだろうか? 風魔小太郎みたいで恰好良いと思わない?

 思わないって? うっせぇ、思わなくてもこういう時は思うって答えとけ!!


 千鶴ちゃんの親父の言いたい事はこれだけらしく、俺は一旦アパートに寄りたい事も有り早めに屋敷を出る事にした。

 そして、屋敷を出て案の定と云うか何と云うか……

 問題が発生した……


 一つ目はアパートまでの移動手段がないということである。

 昨夜はアパートを出た所で車で拉致されており、そのままこの屋敷に来てる訳で相棒の自転車(お値段9999円)はアパートの駐輪場にて駐輪ハチ公状態である。

 二つ目はここ何処だよ……

 ハッキリ言って和田屋敷が静岡県の何処に存在しているのかが分からないため、屋敷を出たと同時に現在位置が不明な迷子状態である。


 ふっ、困ったものですね……


 途方に暮れる俺のバックでる~る~と寂しいBGMを流しながら次話へ続く……




用語説明

私立開明小学校しりつかいめいしょうがっこう

名門の私立小学校。中学、高校、大学とエレベーター式になってたりする。

海鳴うみなり海鳴かいめい→かいめい→開明』

<元ネタはやっぱりなのはカヨ……あと、魔法少女と名乗って良いのは13歳まで。20は魔女、40で魔法熟女だからね>


シシャモ

シシャモ美味しいよね。焼いてもよし、フライにしてもよし!!

朝の定番オカズ!! だけど、やっぱり自分は御飯には辛子明太子!!

<カラフトシシャモはキュウリウオの仲間で有ってシシャモに非ず。そして、豊乳は富であり、貧乳は人に非ず>


エイリアンVSアバター

実際にあった超B級映画……エイリアン(arien)と書いてアリエンと読むくらい有り得ない作品……

レンタルビデオショップで借りた人はことごとく口にするであろう。金と時間を返せと……

<爆発オチなんてさいてぇええええええええええ!!>


駐輪ハチ公

駐輪場にて主を雨の日も雪の日も待ち続ける自転車の事をさす。

駐輪場以外で主を待った結果、子牛でもないのにトラックにドナドナされるハチ公も多数存在する。

<自転車はしっかり鍵をかけたうえで駐輪場に停めましょう>


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ