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第七話

 小鳥の囀る声、蝉の喧しい鳴き声……

 そして、廊下を忙しくなく走る野郎達の足音……


 俺はその3つの不快音な目覚ましで目を覚ます。


 「知らない天井だ……」


 そんな定番ネタをボソッと呟き、携帯電話で現在時刻を確認。

 まだ、6時50分と普段の俺なら夢の世界で二次元美少女とウッハウハ人生真っ最中である。

 昼からはコンビニバイトのシフトも入ってるので、二度寝も考えたが、ここまで忙しなく暴力団の皆様が動いているのだ、今後の印象的な物も有るので、俺も何か手伝えることは無いか聞いてみるとしよう。

 そう云えば、店長が変な宗教にハマって頭を坊主にしてたのを第一話で語ったけど、宗教上の理由で頭を剃った坊主もスキンヘッドって呼んでいいのかな?

 あっ、ここで豆知識だよ♪ 坊主が剃った髪は付け毛の材料になってるらしいよ♪


 閑話休題……


 俺はのっそりと布団から起き上がり、襖を開けて廊下に出る。


「おや、夏亀様おはようございます。まだ、寝ておられても構わないですよ?」


 廊下に出た俺に掛けられた第一声は廊下の掃き掃除をしている黒服ベスによる物だった。

 こんなに朝早くから黒服を身に纏い、廊下の掃除をしている彼は、暴力団組員というよりも執事といった方がしっくり来る。


「いえ、俺にも何か手伝えることはないかと思いまして。その、俺もここに住ませて貰ってる訳ですし」


「ふむ……夏亀様に御願い出来る事ですか……既に今月の持ち場等も決まってますし……そうですねぇ……」


 どうやら、朝の掃除等はしっかりと持ち場等を月決めしているらしい。

 その為、俺の担当を何処に組み込もうかと、逆に黒服ベスの頭を悩ませてしまう結果に……


「あぁ、そうだ。では、御嬢を起こして来て戴けますか? この廊下を真っすぐ行って突き当りを左に進み、6番目の部屋が御嬢の部屋です」


「分かりました。突き当りを左で6番目の部屋ですね」


 そう云えば、こういう起こして来てくれイベントってアニメとか漫画とか小説とかだと、ラッキースケベイベントに突入し易いよね。

 まぁ、現実だから絶対にそんなラッキーイベントは起きないとは思うけどね。

 それに、現在時刻は朝6時52分……高校生の起床時間にしてはまだ少し早いし、部屋に入る時にノックすれば問題ないしね。


 そんな、安易な考えで大丈夫か? 大丈夫だ、問題無い!!

 って、これはフラグだよ!!

 神は言ってるここで千鶴ちゃんの裸を見る定めでは無いとかになっちゃうよ!!


「千鶴ちゃん、起きてる?」


 そうこうラッキースケベに期待して……ゲフンゲフン、回避の仕方を考えてる間に千鶴ちゃんの部屋の前に到着。

 襖なのでノックは出来ない為、少し大きめに声を掛ける。


 1秒、2秒、3秒……


 返事がない、ただの睡眠中しかばねのようだ。

 だが、普通の主人公ならここで安易に扉を開けてラッキースケベイベントを発生させてしまうが、俺はそこまで阿呆では無い。

 もう一度、更に先程よりも声を大きくして呼び掛ける。

 再確認しても返事がない為、襖を開けて部屋の中に……部屋の中に……


 入ろうとしたが入れなかった……


 いや、正確には入るのが少し躊躇われたのだ……

 だってさ、女の子の部屋に御誘いも無いのに入るなんてデリカシーなくなくない?

 ほらっ、この時期は暑いし、千鶴ちゃんの胸元が肌蹴てたり……


 いやぁ~、でもさ? 黒服ベスに頼まれた以上、中に入るしかないしな。

 これは……仕方ない事なんだ、万が一見ちゃいけない物を見ても不可効力なんだ!!


 刹那、俺の頭の中でクリスタルのような物が弾け、千鶴ちゃんの部屋の襖に手を掛け……


 思いっきり!!


「なにしてんじゃ、この糞餓鬼がぁあ!!」


「ぐわらばっ!?」


 開けようとしたら、千鶴ちゃんの親父に思いっきり蹴とばされた……

 俺はそのまま掃除が行き届き綺麗な為ツルツルとなっている廊下を、ボウリングの玉の様に滑って廊下あいてゴールにシュゥウウウウウウウウウウウウウト!!

 超エキサイティングっ!!


 って、ちげぇよ!!


「行き成り何するんですかっ!?」


「おう、千鶴の部屋に無断で入ろうとは良い度胸じゃのう……ぐわらばっ!?」


「アンタァ? 夏亀君は千鶴ちゃんを起こす様に頼まれてるのよ?」


 何度目だろうこの夫婦漫才……

 不毛な言い合いに突入しかけた所、万鶴さんの鶴之一声げんこつで強制終了。

 というか、なんで万鶴さんは俺が千鶴ちゃんを起こす事を頼まれてたのを知ってるんだ?


「ま、万鶴っ!? ち、違うんじゃ!! この餓鬼が、千鶴の部屋の前で不審な行為をしてたからワシは!?」


「言い訳は後で聞きますわ♪ じゃあ、夏亀君宜しくね?」


「違うんじゃぁ~~~!! 覚えていろよ、糞餓鬼がぁああああああああ!!」


 万鶴さんに廊下を引き摺られつつ俺への怨嗟にドップラー効果を付与しつつ、千鶴ちゃんの親父はフェードアウト。

 まぁ良い、障害は取り除かれた。俺は気を取り直し襖に手をかけようと……


「おひゃようございます」


 おうふ……部屋の前で大騒ぎした所為で、千鶴ちゃんが眼を覚ましちゃったよ……

 襖に手を掛ける前にスライドし、部屋の中で眠気眼を擦り、髪の毛をあちらこちらに跳ねさせたパジャマ姿の千鶴ちゃんが目に飛び込む。

 ふむ、パジャマは水色を基調に、あちらこちらに黒猫の絵を散りばめた物で、非常に女の子らしく可愛いのだが、ゴスロリを好んで来ていた千鶴ちゃんだけに寝巻はネグリジェとかそんとかなぁ~って少し期待じゃなくって、予想してたんだけどなぁ。


「おはよう、千鶴ちゃん。ほら、髪を整えて顔を洗っておいで」


「ひゃい……」


 返事して頭も体もふらふらしながら洗面所へと向かう千鶴ちゃんなのだが、何時廊下から隣接した中庭に落ちるか非常に心配なのでゆっくりと千鶴ちゃんの後を追いかける。

 寝殿造りに似た旧家屋独特の廊下と中庭が隣接した作り故に産まれた不安である。中庭で掃除をしている組員の皆さんも同様の心配をしていたみたいだが、俺が後を心配そうに付いて行ってるのを見ると安堵の溜息を吐き、再び掃除へと意識を戻す。

 ただ、中庭を挟んで向こう側の廊下に千鶴ちゃんの親父の姿が見えた気がしたが、気の所為だと信じたい……うん、きっと幻覚だろう……


「ふにゃぁ~」


 洗面所に着いたら着いたで鏡の前で目を瞑ったまま頭を左右にふらふらさせているので、先に進まないと判断した俺は近くに有った櫛を手に持ち、千鶴ちゃんの長い髪を梳いてあげる。

 妹の秋美が小さい頃は良くこうやって髪の毛を梳いてやってたっけ?

 そんな感慨にふけつつ、髪の毛を綺麗に整えてあげる。


「ほら、千鶴ちゃん。今度は顔をしっかり洗って」


 洗面台の蛇口を捻り水を出して顔を洗うように促すと、千鶴ちゃんは小さな手で水を掬い顔をじゃばじゃばと洗う。


「はい、タオル」


 千鶴ちゃんが顔を洗い終わったのを確認すると、近くの籠に山積みにされていた純白のタオルを一枚手に取り千鶴ちゃんに差し出す。

 千鶴ちゃんは俺からタオルを受け取ると、顔を拭きながら……


「毎日、ありがとうございます。キンジ、ギンジ」


 御礼を言って来るのだが……何故か出て来た名前は、昨夜俺を拉致ってくれたスキンヘッドの御二方。

 どうやら寝惚けてた所為で、世話をしてくれてた人間が俺である事に気付いてないようだ。

 しかし、スキンヘッド+スーツの厳つい人間が千鶴ちゃんの髪の毛を梳いてあげてるイベントシーンなんて想像したくもないんだが……


「あははは、ごめんね。今日の担当は俺だよ。ちゃんと髪を梳いてあげれたか分からないからチェック御願いね」


「ふぇっ!? 夏亀様っ!? な、なんで!? というか、何時の間にですか!? もしかして、アッカリンみたいに透明になる能力とか持ってるのですか?」


「いや、残念ながらそんな能力は無いし、アッカリンは透明というか空気化するだけだよ?」


 \アッカリ~ン/

 やったね、アッカリン!! 新verの\めっかり~ん/も出たよ!!


「そ、そうでしたね……私とした事が動揺してしまって……その、夏亀様……ありがとうございます……」


「どういたしまして。それじゃ、俺は黒服ベスの元に戻って次の支持を仰がないとな……」


「黒服ベス? 黒服なのに橙色ベスなのですか?」


「あっ、いや。千鶴ちゃんは気にしないで良いよ」


 黒服なのに橙色という矛盾に不思議がる千鶴ちゃんに対して笑って誤魔化し、俺は黒服ベスに千鶴ちゃんを起こした事を連絡しにまた長い廊下を戻る。

 来た道を戻り、俺の部屋の前に戻ると、黒服ベスは既に廊下の掃き掃除を終え、ニコニコ笑いながら俺の部屋の前に立っていた。


「千鶴ちゃんを起こして来ました」


「ありがとうございます。御嬢、中々起きられなかったでしょ?」


「あははは……」


「御嬢は本当に朝が苦手で、何時もキンジとギンジがどうやって学校に遅れないように朝を起こすかで頭を悩ませてるんですよ」


 スキンヘッドの御二方の日頃の苦労を可笑しそうに話す黒服ベス。

 意外と彼は話すのが好きな気さくな人というのが分かったので、今後困った事が有ったら彼を頼ろうと心に決める。


「さて、私の方も仕事が終わりましたので朝御飯でも御一緒にどうですか?」


「朝食ですか? えっと、御一緒しても大丈夫ですか?」


「えぇ。実は奥様より夏亀様に規則等を御話しするように御願いされてますので。それに、私自身も夏亀様には興味が御座いますので」


 あぁ~、そういうことか……まぁ、初日早々のボッチ飯は免れただけ良いかな……

 しかし、俺に興味ってどういう事だ?


「俺に興味ですか?」


「えぇ。まぁ、食堂へ歩きがてら話しましょう。先ずは規則からにしましょうか? 食事しながら規則云々の固っ苦しい事を語るのは趣味じゃないので」


 食堂へ歩を進めながら黒服ベスは語り始める。

 先ずは規則の事なのだが、現時点での俺の組内での扱いは『食客』と呼ばれる物らしい。

 客として優遇し組内で養う代わり、俺は千鶴ちゃんに勉強を教えたり、次期和田組組長でありその一次団体じょういそしきである神代一家の幹部の一人になる千鶴ちゃんの補助をする為に色々と極道の帝王学を学ぶ必要があるらしい。

 つまり、完全に逃げ道は無くなったって事だ!!

 なんてこったい \(^o^)/

 まぁ、完全に後戻りは出来なくなった代わり、俺の将来は組長補佐という名の『幹部』という輝かしい役職が待っているらしい。

 黒服ベス曰く、和田組は構成員は280人でその中でも幹部や組長直々の舎弟、若中となれるのはホンの一握りで、出世街道まっしぐらの羨ましい話らしい。

 ましてや、組長を常に補佐する役職故に千鶴ちゃんが組長になると同時に実質和田組のNO.2になったも同然らしい。 

 次々とフリーターには実感の湧かない話を聞かされるので俺は途中から考えるのを止め、別の事を考える事にした。


 そう、主にアニメとかそっち関係の事である。

 例えば、「一旦アパートに帰って、テレビの録画をセットして来ないとな~」とかである。

 特に今日は『毛利元奈の野望』の放送日だしな。毛利元奈の野望とは、戦国時代に未来からタイムスリップした戦国時代マニアの少年が迷い込み、女性化した毛利元就もとい毛利元奈に拾われ一緒に戦国時代を駆け抜ける大人気ライトノベルのアニメ化した物である。

 先週は主人公が未来からの知識を利用し、太陽光を収集しレーザー光線宜しく放射して攻撃する装置『天照アマテラス』を開発し、武田に乗り込み、真田幸村と戦闘に入って良い感じだったんだよなぁ~。

 あとは、ノートPCやラノベとかをこっちに持って来ないと。寝る前とかにラノベを読まないと中々寝付けないしな。

 活字を見ると本当に眠たくなって良いんだよなぁ~。


 あぁ、あとは先日購入したばかりのゲームも携帯ゲーム機ごと持って来ないとな。

 いやぁ~、実に二次元は落ち着くなぁ~♪


「夏亀様、こちらが食堂です。一応、夏亀様は食客ですので料理は幹部と同じ物が振舞われる事になってますので、こちらに来て下さい」


 どうやら某極道ドラマ等で良く目にする組員が揃って食事を取ると云う事はしてないらしく、各自が空いた時間に食事を取ると云うシステムらしい。

 既に食堂の中には組員の皆さんがワイワイと賑やかに食事を取られている。他にも御飯茶碗の中にサイコロを投げ込んでる方々も目に入る。

 だが、俺と黒服ベスが食堂に入るや否や、ワイワイと話す方やチンチロをされてる方も一斉に視線を俺へと向けヒソヒソ話を開始する。


「なんか、俺……注目されてません?」


「あははは、それはされますよ。カタギから行き成り次期組長補佐ですからね。和田組の規模でしたら下積みをしても幹部の舎弟になれるかどうかも分からないのですから。そう云えば、キンジとギンジの時もそうでしたね」


「えっと、あのスキンヘッドの二人ですか?」


「はい。彼等は元々は土木関係の仕事に勤めてたのですが、会社が潰れてアパートの御金も払えず露頭を迷ってる時に御嬢が可哀そうだと言って自分の舎弟にしたのです」


 あぁ~、そう云えば俺のアパートで話してた時に千鶴ちゃんが『舎弟』という極道ワードを漏らしてたっけ?

 まさかあの二人が千鶴ちゃんの舎弟だったとは……その上、千鶴ちゃんと漫画並みに運命的な出会いをしたから、あそこまで千鶴ちゃんの事を大切に思ってるのかぁ……


「あの二人も行き成りカタギから次期組長の舎弟になった為、今の夏亀さんの様に1週間くらいは注目されてましたよ。まぁ、直に納まりますので安心して下さい。あっ、噂をすればなんとやら。今日の食事当番はキンジとギンジでしたね」


 噂をすればなんとやら、組員達に朝食を提供するカウンターの向こう側にはサングラス、スキンヘッドの二人組が白いエプロンを付けて他の食事担当の組員と一緒に忙しなく動いていた。

 今朝、千鶴ちゃんをスキンヘッドの二人組が起こしに行けて無かったのは、この為なのか……


「キンジ、ギンジ、今日は大盛りで御願いします」


「「はいっ、兄貴っ!!」」


 えっと……次期組長の舎弟よりも偉い黒服ベスって何者……

 俺の中での暴力団の役職の偉さが合ってるかは分からないけど、次期組長の舎弟よりも偉いって事は現在の組長こと千鶴ちゃんの親父の舎弟か何か?

 というか、暴力団のヒエラルキーってどうなってんの? まぁ、帝王学云々学ばされるらしいのでその時に知る事になるだろうから、今は気にしなくて良っか。


「「あっ、夏亀さん。昨日はスンマセンでしたっ!!」」


「いや、別にもう気にしてないので……それに、キンジさんもギンジさんも千鶴ちゃんの事を大事に思っての行動ですし、主犯は……」


「おうっ、キンジ、ギンジ。ワシは何時も通りハクマイマシマシメンタイモリモリな」


「「おはようございます。組長っ!! 直ぐに準備しますので御待ちください」」


 並んでる俺を順番抜かしし、謎の呪文を唱えるコイツの所為だから……


「おはようございます組長」


「おう、おはよう。で、糞餓鬼はワシに挨拶一つないのか……」


「おはようございます、千鶴ちゃんの御父さん」


「誰が御義父おとうさんじゃぁああああああああああああああああああああああああ!? 千鶴はやらんぞ小僧ぉおおおおおおおおおおお!!」


 千鶴ちゃんの親父のシャウトに一斉に食堂に居る組員の方々が体をビクッと震わせ、内緒話を中断し何事かとこちらを再び向く。

 あぁ、更に目立っちゃってるよ……


「えっと、なんか義理の義が付いてませんか?」


「おっと、ワシとした事が……取り乱してしもうたわ……そうそう、小僧。後でワシの部屋に来い。色々と真面目な話もせんといかんからな……」


「千鶴ちゃんの事についてですか?」


「それとは別件で組の事じゃ。まだ飽く迄御前は千鶴の補佐の候補だが、候補となった以上は他の組に顔見せをせんといかん。特にワシら和田組の一次団体である神代一家や、組同士の取り決めの管理を行う鳳組にはイの一番に顔見せをする必要が有る。だから、それについて話しておこうかと思ってな。特に用事とかは有るか?」


「昼からコンビニのバイトが入ってるくらいです」


「次期組長補佐候補がコンビニバイトとはのぉ~、片腹痛いわ。おぉ、そうじゃ。給料の話もしとかんといかんのじゃった。まぁ、良い。手短に済ましてやるから食事が終わり次第ワシの部屋に来い」


 そう言い残して千鶴ちゃんの親父は漫画飯宜しく茶碗に徹底に盛られた白米と、小鉢から溢れるくらいに入れられた辛子明太子の乗った御盆を持ち食堂の奥の方に有る小部屋へ入って行った。


「夏亀さんは御飯の量はどうされますか?」


「あっ、俺は普通に御願いします……えっと、キンジさん?」


「いや、自分はギンジです。双子し揃って同じ髪型なんで見分け辛いっすよね? 左耳にピアスをしてるのが俺キンジ、右耳にピアスをしてるのがギンジって思ってくれれば大丈夫。キンジ、みギンジってゴロ合わせで覚えて下さい」


 うん、そのゴロは非常に覚えやすいね。一発で頭に入ったよ。

 昨日のアパート襲撃や拉致の一件とは違い、今日のキンジさんとギンジさんは非常に友好的である。

 彼らも話せば良い人だと云う事がこの短時間で理解出来た。人間は見た目じゃないんだよ、見た目じゃ!!

 だから、目が細いからキツイ人とか、デブだからとかガリだからオタクとかそんな偏見は捨てされ!!


「夏亀さん、何か食品アレルギーとか有りますか? もしも有るなら別のオカズを代わりに御出ししますよ」


「普通にアレルギーとか無いんで大丈夫です。御気づかいありがとうございます」


「じゃあ、夏亀さんと兄貴、どうぞ」


 そう言って、右耳にピアスをしているスキンヘッドだから……ギンジさんが御盆を二つカウンターテーブルの上に置く。

 御盆の上には電子レンジでチンッのパック飯とは違い米の角がしっかり立った真っ白のホッカホカ御飯、スーパーで大安売りされてる物と比べ大きく御腹が膨れ子沢山なのを強調するししゃもが5匹、ひんやりした涼しい青色をした御椀には温泉卵、そして具沢山御味噌汁、辛子明太子、味付けのり、沢庵の御漬け物。

 どこぞの旅館の朝食ですかと、一人暮らしでは有り付けないような御馳走が俺と黒服ベスの前に出される。

 

「「ありがとうございます」」


 俺と黒服ベスは御盆を受け取り、近くのテーブルに置かれたポットから冷たい麦茶をコップに汲んで、適当に空いてる席へと座る。


「なんか、意外と朝からガッツリ皆さん食べられるんですね」


「まぁ、工事等の力仕事をする方も多いですし、私のように島の見回りをする人間も人間で結構体力を使いますからね。しっかり朝食と昼食は取らないことには夜まで体力が持ちませんよ」


 千鶴ちゃんの親父の様に超山盛りとまではいかないが、茶碗に2合近く盛られた白米を辛子明太子でパクつきつつ、俺の疑問を返す黒服ベス。 

 俺も辛子明太子をオカズに御飯を一口。ピリッとした辛さの中にプチプチとした食感が実に御飯と箸を進める。

 また、御飯も御飯で米の一粒一粒に甘みがしっかりと詰まっており、これがまた辛子明太子と合うったらありゃしない。


「自分は力仕事とかあんまりしないんで、朝御飯を抜かしたところで問題もないですし、一人暮らしもあってか何時も朝食は抜かしてる所為か、久し振りにまともな朝食を食べた気がします」


「あははは、普段はここまで多くは無いですよ。実は福岡の頭木一門かしらぎいちもんから御中元で100キロくらい辛子明太子を貰ってるので一品多いんですよ。多分、来週くらいには普通の家庭でも見られる朝食に戻りますよ」


「100キロって凄い量ですね」


「まぁ、人数が人数なので。確かに数人でしたら凄く多いですが、300人近くは居るので一人300グラム程度ですよ」


 その一人300グラムというルールをガン無視し、自身の好物だからなのか知らないがハクマイマシマシメンタイモリモリを注文する我儘組長の所為で組員一人に渡る明太子の量は如何に……

 そんな下らない事を思いつつ、辛子明太子と御飯をもう一口。

 しかし、御中元用しかも辛子明太子の本場福岡の極道が選んで送って来た物と聞くと、さらに辛子明太子が美味しく感じる。

 本場直送とか御中元用とかってワードを聞くと不思議と美味しく感じるよね?


「そう云えば食堂に来る前に俺に興味が有るとか言ってましたけど、それってどういう意味ですか?」


「あぁ、その事ですか。いえ、単純な事ですよ。人見知りの激しい御嬢様が夏亀様のことを御好きになられたので、夏亀さんの人柄や本質とかに興味が湧いただけですよ」


「と言っても、俺は何処にでも居るような平凡な人間ですよ? そんな興味を持たれるほどではないと思います」


「極道の御嬢に好き好まれる平凡な人間が何処に居られましょうか? 確かに御嬢の趣味と共感できる人間だとしても、御嬢は決して接触はしません。これまでも、接触すると相手を傷つける可能性が有るからと自分に言い聞かせ我慢していました。ですが、その御嬢が話して見たい、遊んでみたい、好きになってみたいと思われた方です。そんな方だからこそ、私は興味を持ってしまったのです」


「アレ、千鶴ちゃんの趣味の事は御存じなのですか?」


「勿論。組の者全員が存じてますよ。極道の次期組長として、このような趣味はどうかと思いますが、実質御嬢がこの様な趣味に走られたのも私達の所為故に、今は組長の自覚を持たれるまでは見守るしかないと云うのが組の所存です」


 千鶴ちゃんがオタクになった訳が極道だから?

 色々と聞いてみたいけど、これは他人から聞くべきではないよな?

 何時か千鶴ちゃんの口から話してくれるのを待つべきだよな。


「どうです、夏亀さん。御嬢がオタクになった理由を知りたいですか?」


「いえ。何時か千鶴ちゃんの口から話して貰うので良いです。こう云う事は、プライバシーとかの問題も有りますし、何より千鶴ちゃんの事は千鶴ちゃん自身から話して貰って知りたいので」


「変な方だ。おや、またもや噂をすればなんとやら。御嬢が来ましたよ。御嬢、今日はこちらで御一緒に御食事でもどうですか? 夏亀様も一緒に居ますよ」


「本当ですか」


 黒服ベスは可笑しそうに笑ったと思うと、今度は別の場所に目移りをし、発見した千鶴ちゃんに向かって声を掛け手を振る。

 俺の位置からは確認できないと云うか、俺自身が御盆の配膳場所に背を向けてるため、振り向かないと見れない状況というのが正しい答えなのだが、千鶴ちゃんの嬉しそうな声と共にカチャカチャ音を立てて人一人が近づいてくる音がするので振り向くまでもないとそのまま待機。

 そして、俺の隣の席に御盆が置かれたので、俺は初めて首を動かし……


「夏亀様、今朝はすみませんでした」


 千鶴ちゃんの姿を目に……


「いや、別に良いよ。俺自身も人の髪の毛を整えてあげるのとか好…き…だし」


 入れて……

 世界が、思考が、全てが今まで以上に凍結した……


「あれ、夏亀様? 豆鉄砲を喰らったような顔をされましたけど、どうかされましたか?」


「ちょっと千鶴ちゃん聞いて良いかな?」


「なんですか?」


 その原因は……


「千鶴ちゃんって、今……何歳?」


「小学三年生で、今年で9歳になりました。えへへ」


 俺の目の前で赤色のランドセルを背負い、紺色の可愛らしい制服に胸元には『3年2組 和田千づる』と書かれた名札バッチ……

 黄色の帽子を被った千鶴ちゃんが居たからだ……




用語説明

そんな、安易な考えで大丈夫か? 大丈夫だ、問題無い!!

人はこれをフラグという。

やっぱり、また駄目だったよ。あいつは人の話を聞かないからと上司っぽい人に言われるのがオチである。

<オトウトノカタキヲトルノデス>


廊下あいてゴールにシュゥウウウウウウウウウウウウウト!! 超エキサイティングっ!!

バトルなドームのCMで大人気のあの名台詞。

超エキサイティングかどうかは分からないけど、あの当時のCM出現率は異常だった気がする。

<T●UKUDAオリジナルから!!>


毛利元奈の野望

戦国時代に一人の歴史好きのが少年がタイムスリップして、毛利元就に拾われる話。

しかし、少年がタイムスリップした時代では、毛利元就は全身緑色のオクラっぽい甲冑を身に纏う美少女毛利元奈と名乗った。

少年はそんな元奈に惹かれ、彼女の願い戦国統一を叶えるため、未来からの科学技術を使って大暴れする恋愛ラブコメディー。

<吉龍『ワシの側室として(ry』YESロリ、NOタッチ>

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