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選択を一つ、間違えなかっただけ

作者: パーカー
掲載日:2026/01/27

この物語に、

特別な知識はいりません。

正しい選択をしたこと。

間違えなかったこと。

それだけで、報われると信じたこと。

たぶん、あなたも一度はある。

これは、

「間違えなかった人」の話です。

その日、私は自分の死亡記事をレジで受け取った。

深夜二時。

客のいないコンビニで、ホットコーヒーと一緒に、A4用紙が一枚、トレーに滑り込んできた。

「……これ、何ですか?」

レジの奥に立つ店員は、顔を上げない。

名札には【山田】とある。

「レシートです。

あなたが明日の朝、死ぬ理由が書いてあります」

紙には新聞の体裁で、こうあった。

――午前8時12分、女性会社員・佐倉真央(29)、通勤途中に死亡。

原因:選択ミス。

事故でも病気でもない。

選択ミス。

「冗談ですよね」

「信じなくていいですよ」

山田は言った。

「でも、もう一枚、買っていきます?」

レジ横の棚に並ぶ雑誌のような紙束。

『未来新聞/改』

値段は一万円。

高い。

でも、安すぎた。

翌朝、8時10分。

私は駅にいなかった。

有給を取り、ベッドに座り、震える手で新聞を握っていた。

――午前8時12分、佐倉真央、生存。

原因:一つの選択を間違えなかったため。

8時12分を過ぎても、世界は壊れなかった。

私は生きていた。

スマホが鳴った。

「いらっしゃいませ」

山田の声だった。

「次は、誰を助けますか?」

それが、始まりだった。

私は“修正版”を使って、人を救った。

横断歩道で一歩踏み出すのをやめさせた。

一本早い電車に乗らせた。

別れ話を、五分遅らせた。

救われた命は、確かにあった。

でも、新聞は毎回、こう締めくくる。

原因:別の誰かが、選択を間違えたため。

人数は、増えていった。

十人目を助けた夜、私は聞いた。

「……これ、いつまで続くんですか」

「在庫がなくなるまでです」

「在庫?」

山田は、初めて私を見た。

「あなたの未来です」

棚の一番上に、最後の一冊があった。

未来新聞/最終版

価格:無料

嫌な予感が、確信に変わる。

「これを読むと、どうなるんですか」

「もう選べなくなります」

私は、ページをめくった。

――午前8時12分、

未来新聞の編集者・佐倉真央(29)、死亡。

原因:すべての選択を、自分で背負ったため。

記事の最後に、小さな文字があった。

※この未来は、変更できません。

「……私が、元から死ぬ予定だったんじゃないんですか」

「違います」

山田は首を振った。

「あなたはただ、

一番“選ぶことが上手そうだった”だけです」

怒りも、恐怖も、なかった。

ただ、理解した。

未来は、奪われたんじゃない。

渡されたのだ。

翌朝、8時12分。

私は例のコンビニに立っていた。

レジの内側に。

名札には、【佐倉】。

自動ドアが開き、

不安そうな顔の若い男性が入ってくる。

「……すみません。

これ、何ですか?」

彼の手には、一枚の紙。

私は、にっこり笑った。

「レシートです。

あなたが明日の朝、死ぬ理由が書いてあります」

棚の上には、新しい雑誌が並んでいた。

『未来新聞/創刊号』

値段は――

一万円。

終わり

私たちはよく、

「どこで間違えたんだろう」と考えます。

でも本当は、

間違えなかったことが、

誰かの役目になる瞬間もあるのかもしれません。

もし今日、

あなたが何かを選ばなかったのなら。

それは逃げではなく、

まだ順番が来ていないだけです。

選ぶ役目は、

いつも静かに、

一番できそうな人のところへ回ってきます。

――そのときまで。

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