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第22話:王



次の瞬間。


地面を蹴った。


最初は、

遅い。


だが、一歩ごとに、速くなる。


距離が、

一気に詰まる。


拳を握る。


太い腕が、

振り上がる。


骨の装飾が、

鳴る。


俺は槍を取らない。


弓も、

ナイフも。


必要ない。


武器を使えば、ただの殺し合いになる。


そうなれば周りの連中も動き出す…それはダメだ。


これは俺とコイツの勝負だ。

だから周りは動かない。


動かさせないために。



拳を――握る。



来る。


真正面。


避けない。


リーダーの拳が、

振り下ろされる。


俺も同時に、

踏み込む。


拳を振る。


次の瞬間。


ごきっ、と。


鈍い音が重なった。


骨と骨。

肉と肉。


視界が揺れる。


だが――倒れない。


俺も。

相手も。


互いに一歩、踏みとどまった。


息が、

荒い。


痛みが遅れて、

来る。


だが――楽しい、なんて感情はない。


これは――殴り合いだ。


どちらが、

立ち続けられるか。


それだけ。


リーダーが、

にやりと笑う。


血まみれの歯。


次は連打だ。


拳が、

飛んでくる。


一発。

二発。


俺は――受ける。


逸らす。

受ける。


あばらが軋む。


だが下がらない。


俺も返す。


腹。

顎。

胸。


当たる。


骨が鳴る。


それでも――倒れない。


周囲のゴブリンが、

声も出さずに見ている。


これは――儀式じゃない。


見せ物でもない。


王を決める――殴り合いだ。


次に倒れるのは、どっちだ。


―――――


鈍い音が周囲に何度も響いた。


殴る。

殴られる。


その間他のゴブリンは、誰も動かない。


割り込む者はいない。


拳が当たるたび、


視界が――跳ぶ。


白くなる。

黒くなる。


一瞬、意識が遠のく。


だが。


視界の端で、

動くものがあった。


ルゥだ。


ダックを抱え上げている。


暴れるアホ鳥を、

ぎゅっと押さえつけて。


「……はっ」


喉で、

笑いが漏れた。


ちびに心配されるほど、


俺は――やわじゃねぇ。


踏ん張る。


足を、食い込ませる。


体勢を、立て直す。


そして――前に出る。


次は、拳じゃない。


「オルゥア!!」


頭。


づつく。


ごつっ。


首が――沈む。


だが、

相手も引かない。


同時だ。


向こうもづついてくる。


ごん、と。


脳みそが――揺れる。


二度。

三度。


頭と頭が、

ぶつかり合う。


鈍い音。

骨の音。


それでも――どちらも、倒れない。


だが変化は、出た。


相手の足が、

わずかに――下がる。


一歩。


呼吸が、

乱れている。


力ってのは鍛えれば、確かにつく。


だが。


大小の差ってやつは、

そうそう、消えない。


奴は、

爪がある。


筋肉も――確かに、化け物じみてる。


だが。


わずかに――俺の方が、でかい。


そして。


ここまで来たら話は単純だ。


全力で、

ぶつかり合えば――重い方が


勝つ。


踏み込む。


全身で――当たる。


相手がよろけた。


その腕を――掴む。


「まだだ!」


逃がさない。


引き寄せる。


顔と顔を無理矢理、向かい合わせる。


そして――さらに、づつく。


ごきっ。


骨の――嫌な音。


相手の体が崩れかける。


だが、

まだだ。


更に……。


両腕を掴んだまま。

距離を離さない。


最後に――全力。


互いの頭が正面から、ぶつかる。


がしゃん、と。


骨兜が――割れた。


破片が飛ぶ。

血が散る。


その衝撃で

相手の体が、崩れ落ちた。


地面に叩きつけられる。


俺は――まだ、立っている。


息は荒い。


頭が割れるほど、痛い。


目に何かが入る。

(血だな……)


だが。

立っている。


周囲が――静まり返った。


次に誰も、動かなかった。


俺は、

地面に落ちた槍へ歩いていった。


背中は、

無防備だった。


だが――誰も、動かない。


槍を拾う。


柄を握った瞬間、

重さがしっくり来た。


「終わらせるのは、勝者の義務だ……」


振り返る。


リーダー格は、

まだ生きていた。


口から、

血を垂らしながら、

息をしている。


俺は、

その肩を掴んだ。


血で滑る。


力を込め無理矢理、引き起こす。


膝立ち。


頭が、

垂れる。


だが――目は、まだ死んでいない。


俺は、

何も言わない。


言う必要が、

ない。


槍を突き出す。


狙いは、

迷わない。


グサッ。


胸。


心臓の位置。


一息。


そして――貫いた。


手応え。


骨。

肉。

その奥。


槍が、

止まる。


リーダー格の体が、

びくりと跳ねた。


息が抜ける。


音にならない声。


俺は、

槍を抜かない。


そのまま、

両手で持ち上げる。


体ごと。


血が、

槍を伝って落ちる。


周囲が、

完全に静まった。


俺は、

ゆっくりと――掲げた。


見せる。


これが、

答えだと。


それから腕を振る。


槍を、

投げ捨てた。


放物線。


どさり、と。


やつが最初に立っていた場所。


血と、

骨と、

誇りの残骸。


そこに――突き刺さる。


誰も、

声を出さない。


誰も、

動かない。


俺は胸いっぱいに息を吸い、


喉の奥から――

叫んだ。


「――――――ッッッ」


勝ちどきでも、

怒号でもない。


獣みたいな、

生の――咆哮。


空気が、

震える。


森が、

ざわめく。


別種のゴブリンたちが、

びくりと体を強ばらせた。


俺は、

腕を伸ばす。


指を向ける。


生きている、

そいつらへ。


そして――

もう一度、指を動かす。


槍。


地面に突き立ち、

動かなくなったリーダーの死体。


骨兜。

血。

折れた誇り。


言葉は、

要らない。


意味は一つしかない。


「次は、どっちだ?」


空気が、

張りつめる。


数瞬。


誰かが膝を折った。


一人。

また一人。


地面に落ちる。


視線は、

上がらない。


俺は、

それを見下ろし…吠えない…。


もう、必要ないからだ。


背後で、

気配が揺れる。


ルゥたちだ。


怯えはある。


だが、

逃げていない。


俺は、

槍を拾い上げる。


血を、

一度振り払う。


それだけで、

場は決まった。



ここに立つのは――俺だ。



そして、

生き残るのは、従った者だけだ。


―――――


俺はまず、縛られていた奴らの前に行った。


言葉は、使わない。


ツタを掴み、

引き裂く。


手首。

足首。


順に解いていく。


助け起こさない。

抱えもしない。


立てるなら、

自分で立て。


それだけだ。


次に的にされていた個体。


腹。

腿。

顔。


石が当たった痕。

内出血。


死なないようにきっちり、狙われていた。


俺は、

膝をつく。


骨の鎧を外し、

布を裂く。


血を拭き、

圧をかける。


何も言わない。

慰めもしない。


それが終わると、

俺は死体の方へ向かった。


倒れている…もう動かない…。


俺は、一度蹴り飛ばす。


骨が鳴る。


それだけだ。


興味は、

もうない。


だが――そのすぐそば。


転がっている個体が、

目に入った。


胸が空いている。


心臓を、

抉られた跡。


血はもう、乾きかけている。


近づく。


若い。


体が、

まだ――細い。


筋も、

完成していない。


……子供だ。


俺は、

一瞬だけ――動きを止めた。


それから、

抱え上げる。


軽い。


驚くほど――軽い。


背後で、

気配が揺れる。


別種のゴブリンたちだ。


誰も止めない。


俺は、

そのまま――リーダーの頭の前に立つ。


見下ろす。


そして…


踏み潰した。


ぐしゃ、と。


終わりだ。


俺は、

若い死体を下ろさない。


抱えたまま、

周囲を見る。


枝。

倒木。

枯れ木。


集める。


誰にも指示はしない。


それでも、動き出す者がいる。


一本。

また一本。


火が、

組まれていく。


俺は、

中央にその体を横たえた。


静かに。


火を点ける。


炎が――上がる。


肉が焼ける匂い。

骨が鳴る音。


俺は、

一歩下がった。


腕を下ろす。


言葉は、

一切発しない。


それでも全員が、見ている。


俺が、

何をしたか。


誰を――殺し。

誰を――弔ったか。


火は、

燃え続ける。


命令は出さない。


だが。


ここで、

勝手なことをすれば、

次は誰の番か。


それは、

もう――

全員、理解していた。

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