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第9話 クランハウス購入

「合計で三十万ゴールドでーす」

「さ、三十万?!」


 耳を疑った。

 Fランク冒険者の初任給の倍近い額だ。

 薬草収集だけなら一万ゴールドにも届かないはずなのに。


「ダイヤウルフの牙と爪、それに皮ですね。

 それと他のクランが討伐に失敗したため、依頼金が全て上乗せされ……あとは諸々です」

「諸々……」


 俺が暗黒騎士として駆け出しだった頃、ダイヤウルフは確かに強敵だった。

 だが、ここまで高額になってるとは――。


「依頼主が高原一帯を治める領主様でして。

 今回は大分お困りだったようで、色を付けてくださったようです」

「なるほど、随分と太っ腹な方だ」


 領主が誰かは知らないが、こちらとしてはありがたい限りだ。

 金銭面は何かと不安だったのだから。


「ありがとうございます」


 革袋を受け取ると、ずしりとした重みが腕に伝わった。

 そのとき、壁越しのクエストカウンターから、言い争う声が耳に入る。


『ダイヤウルフを倒したのは進撃の雷鳴よ! 何度言わせるの!』

『ですが、討伐証拠として素材を提出いただかないと……』

『横取りされたのよ!

 私たちが倒したのに、オッサン冒険者たちが素材だけ盗んでいったの!』

『……では、牙を抜き、皮を剥いでいる間、あなた方は見ていただけですか?』

『ぐ、ぐぬぬ……』

『もういいだろ。Dランクの俺らが無理して受けた依頼なんだ。Cランクの討伐は無理だったんだよ』

『あんたらは黙ってなさい!』


 ……ああ、揉めているのはあいつらか。

 しかも今の会話からすると、受けたのはCランクの依頼だったようだ。


 受付嬢が言っていた「諸々」には、どうやら上位クエスト分の報酬も含まれていたらしい。


「ギリアム様、お隣が騒がしくて失礼いたしました」

「いえ、お気になさらず。それより一つ伺いたい。

 アクアヴェルムで一番安いクランハウスはご存知ですか?」

「格安クランハウスですか……正直あまりおすすめはできませんが」


 受付嬢は苦笑を浮かべながらも、詳細を教えてくれた。

 

++++++++++++++++++++


「ここが紹介された格安クランハウスだ」


 目の前に現れた建物を前に、アイリスもリリィも言葉を失っていた。


「最寄りのアクアヴェルム北門まで徒歩三十分、一番近い露店まで二十分。

 庭付きだが、周囲は高い建物に囲まれていて日当たり最悪!

 3LDK、風呂トイレ別、築三百年のレンガ造り平屋建て――お値段十万ゴールド!」


「ギリアム様……アイリス様を犬小屋より狭い家に案内するとは、到底感心できません」

「い、いや待て! ただのオンボロ物件じゃないんだ」


 慌てて弁明する俺を、リリィが鋭い目で射抜く。

 下手な一言を返せば、命の一つ二つ持っていかれそうな気迫だ。


「あの伝説のSSS級クラン『クロノ・クロノス』が、まだFランクの頃に初めて拠点にした場所なんだ」


 その名を聞いた瞬間、放心していたアイリスの体がピクリと震えた。


「伝説にまで語られる彼らが……ここに。

 それでは十万ゴールドなどで買えるはずがありません」

「リリィの疑問はもっともだ。だが、どうやら《《訳あり》》らしくてな」

「訳あり……? それならなおさら――」


 リリィが言葉を継ごうとしたとき、アイリスが小さく呟いた。


「ここにいたしましょう」

「ん?」「え?」


 普段の明るさとは違う、穏やかで落ち着いた声が空気を支配する。

 その青い瞳は、先ほどの戦いで見た朱色を帯びた輝きを思わせた。


「これも運命です。我は賛成いたします。

 ……リリィも、良いですね?」

「……え、ええ。承知しました。ギリアム様、私も異存ありません」

「あ、ああ。二人がそう言うなら」


 気圧されるような空気に押され、俺はそのまま冒険者ギルドで契約を済ませ、比較検討もせず即決で購入してしまった。


 数時間後に戻ると、アイリスはリビングで紅茶を片手に、すでに我が家のようにくつろいでいた。


「……どこから持ってきた、この家具一式」

「私が購入いたしました。清掃も既に完了しております」

「でかした、リリィ」


 できるメイドはやはり違う。

 とんとん拍子で拠点を得られたのは喜ばしいが、胸の内には別の引っかかりが残っていた。


 ――アイリスの変化だ。

 姿勢や所作は気品に満ち、笑みさえも別人のように見える。


「どうかなさいましたか、ギリアムおじ様?」

「いや……雰囲気が変わった気がして」

「ふふ。目に映るものが全てとは限りません。

 それは剣の道も、実生活も同じです」

「あ、ああ……」


 まるで達人のような言葉だ。

 この人格の変化は受付嬢が言っていた、《《訳あり》》の件とは無関係なのは間違いないのだが、だとすれば、何が起こっているのか。


「ギリアム様、後ほど少しお時間を」


 リリィがそっと耳打ちしてくる。選んだ言葉の最後は――。


「……アイリス様のご病気についてです」


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