第8話 ダイヤウルフ討伐戦
「ギリアム様、ダイヤウルフの群れです!」
リリィが素早くアイリスの前に立ちはだかった。
その表情は普段の冷静さのまま、氷のような鋭さが増している。
森の茂みの間から黒い影が複数せり出し、牙をむき出しにした五匹のダイヤウルフが、こちらを睨みつけていた。
「一、二、三……五匹はいるようだな」
俺は革のグローブを握りしめ、足元を踏みしめる。
治癒師の装備は杖だが、今の俺は手ぶらのまま。
――暗黒騎士としてのスキルを隠し、普段通りの立ち振る舞いで二人を守らねばならない。
というか、金がないから杖も買えていないのが実情だが。
「そ、そこの冒険者たち、た、助けて……!!!」
『進撃の雷鳴』の三人が、慌てて後ろに倒れ込むように逃げてきた。
猫背の男が肩を押さえ、弓の女は足を震わせ、盾役は体を震わせながら盾を抱えている。
「子猫に助けを求めるつもり?」
リリィが冷たい視線を彼らに向ける。
その姿は、氷河期のように獲物を凍らせる圧を放っていた。
「ひ……あ、あなたたちは……こ、こんな奴らに助けてもらうなんて……!」
「て、てめぇらに出来るはずもねぇ!」
傷を押さえながら吠える猫背の男。
盾役も頷き、弓の女は狼狽えたまま立ち尽くす。
「剣士と盾は前に出て私を守りなさいよ!」
「む、無理言うな! お前が弓で援護しろよ!」
やれやれ、お互いに守り合うのが仲間の役目じゃないか。
仕方ない、俺が前に出るしかない。
一陣の冷たい風が森を駆け抜けた。
「アイリス様!」
「疾――!」
細身の長剣を鋭く構えたアイリスが、一匹目のダイヤウルフの眉間を正確に突いた。
普段の笑顔は消え、冷徹な殺意に満ちた目で敵を見据える。
その動きは、Fランクの冒険者とは思えない速さだ。
瞳の色が朱色に染まっているようにさえ見える。
続けざまに二匹目も仕留める。
口元で何かをつぶやきながら、アイリスの長剣は正確に獣の動きを斬り裂く。
「二匹……三匹……」
しかし残り二匹は左右に分かれ、アイリスを狙って飛び掛かる。
このままでは狙いが分散し、彼女が不利になる――その瞬間、俺は咄嗟に手を振った。
「【ダークグラビティ】」
手をかざすと、二匹の獣の体がふわりと宙に浮き、重力の力で地面に叩きつけられる。
周囲に散る草の葉が、一瞬の衝撃を物語る。
覚醒したアイリスはその隙を逃さず、残り二匹を次々に斬り伏せる。
宙で舞う剣の軌跡と、滴る血が、短い間にまるで舞踏のような光景を作り出す。
「四匹、五匹――!」
最後の一撃を放ち、ダイヤウルフは地面に崩れ伏した。
あまりの速さと正確さに、『進撃の雷鳴』の三人は目を見開き、瞬きすら忘れていた。嫌味も文句も出せず、ただ倒れ伏すのみ。
俺は息を整えながら、アイリスの元へゆっくり歩み寄る。
「大丈夫か?」
「ええ、ギリアムおじ様……本当に、すごいです」
アイリスの目には驚きと敬意が入り混じっていた。
普段の明るい笑顔を少し戻しつつも、短く息をつき、少し照れたように俺を見上げる。
「いや、俺は……治癒師として二人を守っただけだ」
暗黒スキルを使った事実は伏せ、あくまで“治癒師の支援”に見えるように振る舞う。
駆け寄ったリリィは、アイリスの乱れた服の裾や肩の革鎧をさっと整えながら、感嘆の声を漏らす。
「ギリアム様、治癒師なのに……あのような魔術を扱えるとは、さすが私たちのクランマスターでございます」
「そうだね、頼りになるマスターだよ!」
二人の声に俺もつい笑みがこぼれる。
戦闘の緊張感はすぐに和らぎ、三人の間にほのかな余韻と安堵の空気が流れる。
一方、『進撃の雷鳴』は悔しそうな顔を浮かべ、荒れた草むらを後にして撤退していった。
肩を震わせ、額には汗を浮かべ、ちらりとこちらを振り返りながら去っていく様子から、敗北の屈辱が伝わってくる。
あいつらにも回復スキルを使ってやろうかと思ったが、先に行ってしまったか。
俺は気を取り直し、二人に微笑みかける。
「さあ、薬草を取り終えたら、ゆっくり帰ろうか」
「はい、初クエスト大成功ですね!」
森に静かな風が吹き抜け、昼下がりの光が三人を優しく包む。
初めての正式任務――『黎明の鷲』としての初めての外出は、まさかダイヤウルフの討伐まで経験するとは思いもしなかった。
しかしこの討伐が俺たちにとって、そこまでプラスになるとはその時は誰も予想していなかったのだ。
【カクヨム】
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