第7話 黎明の鷲の初クエスト
アクアヴェルム高原は街から数キロ離れた場所に広がる、穏やかな丘陵地帯だ。
森を抜けると日差しに輝く薬草の群生地帯が広がっていた。
「うわあ、薬草取るの初めて、楽しい!」
アイリスは小さく跳ねるように駆け寄り、草むらにしゃがんで手を伸ばした。
薄紫色の花がついた小さな薬草を、一つひとつ丁寧に摘む。
「お召し物にお気を付けください」
リリィは周囲を警戒しつつ、アイリスの後ろに控える。
その視線は鋭く、草むらに潜む危険を瞬時に察知できる目をしていた。
アイリスが手にする薬草の動きは、まるで舞踏のように滑らかだ。
脚の揃え方、腰の入れ方、手の動き――すべてが美しく、見る者の目を奪う。
「影武者ってのは、動きも姫様に寄せるんだな……大変そうなバイトだ」
リリィの服装はワンピース姿の上に革の軽鎧をまとった剣士の装備。
隣のリリィは動きやすいメイド服だ。二人並ぶと、まるで小さな姫とその侍女のようだ。
――まあ、こんなところに本物の姫がいるわけもないか。
俺も薬草を一つずつ手に取り、葉の形や色を慎重に確認する。
ふと受注書を読み直すと、群生する薬草の中に、よく似た姿の毒草が混ざっていることに気付いた。
だからギルドへ依頼が出ていたのかもしれない。
というか、毒草が生えているなら前もって言ってくれても良かったのでは。
「【ダークアスピル】」
気付かれないよう、暗黒スキルを二人にそっと放つ。
二人の身体に潜む微細な毒や疲労の兆候を、俺が代わりに受け取るのだ。
リリィは眉をひそめ、アイリスは楽しそうに薬草を摘む。
しかし二人の体調や毒の影響は、俺の手の中で静かに緩和されていた。
「本来なら盾役が使うスキルだが、【ダークドレイン】と合わせれば、なんとかなる」
俺の頭の中でスキル効果を計算しながら、回復のタイミングを見極める。
ダークドレインは、対象に与えたダメージの一部を俺の回復に回せる。
敵対する毒草の影響を逆手に取り、微量のダメージで自分の体力を維持する――地味だが確実な戦術だ。
「この程度なら、なんてことはないな」
二人の楽しげな声を耳にしながら、俺は心の中でほくそ笑む。
このクエストが表向きは単調でも、二人が嬉しそうならばそれでいい。
クランの仲も深まり、幸先の良いスタートに思えた。
――ん?
遠くの草むらがかすかに揺れた。
自然の風か、それとも――。
「きゃああ!! な、なんで倒れないのよ!」
薬草畑を囲む森から逃げるように転がってきたのは、冒険者ギルドで別れた『進撃の雷鳴』の面々だった。
追ってくる狼たちの群れが鋭い牙で彼らへと向かう。
「やばそうだな……!」
俺は反射的に戦闘態勢を整えていた――。
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