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第50話 連携スキル

「離れろ、アイリス!」

「え……?」


 全てのゴーレムが沈黙し、アイリスが片手剣を収めたその瞬間――異変は起きた。


「くっ、アイリス様――!」


 リリィが右腕を大きく振り抜く。

 袖口から閃光のように飛び出したのは、隠し武装【袖下の銃(スリーブガン)】。


 光と音が交差する。

 乾いた銃声が鈍い衝撃音に飲まれた。


 弾丸は重騎士型ゴーレムの肩を撃ち抜いたが、かすり傷に過ぎない。


「【ダークアーム】」


 俺は息を潜め、低く呟く。

 アイリスの足元から闇の腕が伸び、彼女の体を後方へと突き飛ばした。


「きゃっ」


 刹那、炎をまとった大剣が横一線に薙ぎ払う。

 アイリスの髪が数本、宙を舞った。


 俺は地を滑るように飛び込み、彼女を抱きかかえて転がる。


「リリィ、ノクス、援護を頼む!」


「お任せください!」

「は~い!」


 リリィがメイド服の裾を翻す。

 隠し持っていたマスケット銃が地面に落ち、熟練の手つきで再装填、即座に発砲。

 閃光が風すらも裂いた。


 ノクスは小脇の聖書を開く。

 ページに描かれた逆さまの天使が、淡く光を放つ。


「逆聖書16章29節――人の罪は魔物の罪を凌ぐだろう」


 唱え――黒い光が地面を走る。

 禍々しい輝きがゴーレムたちの脚を絡め取り、一瞬だけ動きを鈍らせた。


「ギ、ギリアムおじ様ありがとう!」

「すぐ反撃に移るぞ――!」


 小柄なアイリスを抱きかかえたまま、すぐに距離を取る。


「リ、リンナに変わった方が良いかな?」

「彼女に頼るべきじゃないさ」


 クランハウスに住んでからリンナとの繋がりが強くなったせいか、アイリスはリンナと意思疎通ができるようになっていた。


 リンナに頼れば一瞬だがそれは本当の強さじゃない。


 ――マキナの視線が突き刺さる。

 まるで俺たちを試すような冷たさを帯びて。


「大丈夫だ。俺たち『黎明の鷲』だけで太刀打ちできる。

 自身を持て、相手を見るんだ――仲間のスキルを思い出せ。

 お互いに支え合うように動けば、道は開ける」


 言い終えるより早く、風の魔力が渦巻いた。

 無数の風矢が豪雨のように降り注ぎ、地面を穿つ。


「散開!」


 誰もが声を待たず、互いの意図を読み取って動く。

 視線が交わるだけで、理解が伝わる。

 

 矢の雨は途切れることなく降り注ぎ、死神の指先のようにリリィを追う。

 だが、彼女の表情には焦りひとつない。

 その冷静な瞳が敵を測り、次の瞬間、俺と視線が交わる。


「リリィ、お前になら任せられる!」


 短く告げると、彼女は頷き、大きくバックステップを踏む。

 俺はすぐにノクスへと目を向ける。


「セラフ、こ~たい!」


 鋭い瞳の目尻がふっと下がり、ノクスは小さく息を吸い込む。

 胸元から取り出した宝石を掲げ、唇が静かに詠唱を刻み始めた。


「【ダークミスト】」


 低く唱えると黒い靄がゴーレムの群れを包み込む。

 その色味に、見物していたエメラダが首を傾げ、慌ててアイテールが説明を始めていた。


 暗黒騎士がほぼ存在しないからこそ、暗黒スキルはあまり知られていないのだが、エメラダは違和感を感じたようだ。


 ……すまん、アイテール。

 あとで甘味でも持っていくからな。


「主よ、彼女に身軽な天使の翼を与え給え」


 セラフの手の中、エメラルドグリーンの宝石が柔らかく輝き、粉のように消える。

 その瞬間、リリィの身体が風を纏った。

 ステップひとつで地を滑り、次の瞬間には遠距離型の攻撃をすべて引きつける。


 ――陽動は完璧だ。

 あとは主戦力、アイリスに突破口を託す。


「アイリス、遠距離型に切り込め」


 短い指示。

 頷いたアイリスが、まっすぐ重騎士型へと突進する。


 外から見れば無謀に見えただろう。

 だが、俺には確信があった。


「【ダークエンゲージ】」


 背筋を冷たい感覚が走る。

 力が抜けていく――俺の能力を削り、その分をアイリスへと送る暗黒スキル。


「うわっ――こんな支援初めて――!?」


 驚く彼女の足取りが、たちまち軽くなる。

 そこへセラフがさらに支援魔法を重ねた。


「主よ、彼女に熾天使の剣を貸し与え給え」


 光が収束し、アイリスの左手にもう一振りの片手剣が生まれる。

 右手には光放つ百舌鳥(ルミナスシュライク)、左手には魔術剣――。

 二つの輝きが交差し、戦場の空気を一変させた。


 リリィの援護射撃が響く。

 ノクスの詠唱による残響。

 ――アイリスが二刀流で踏み込んだ。


 刹那、誰もが悟った。

 勝敗は、すでに決している。

【カクヨム】

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