第5話 第一目標はクランハウス
F級クラン『黎明の鷲』のメンバーは三人。
王女の影武者を自称する剣士のアイリス。
その身の回りを世話するメイドのリリィ。
そして、暗黒騎士――を隠して治癒師として新たに旅立つ俺、ギリアムだ。
「う~! おいしいー!」
「クラン結成のお祝いだ、好きなだけ食べて良いぞ」
酒場の定番、鶏の唐揚げをリスのように頬張りながら、アイリスは目を輝かせていた。
フードを外した彼女の顔は、予想以上に整っている。
ふわりと揺れるクリーム色の長髪、健康的な肌。
王女の影武者として申し分ない、華やかさを秘めていた。
「アイリス様、お水をどうぞ」
「ありがとう、リリィ、大好きー!」
水を差し出しながら頬の汚れを拭い、食器をきれいに重ねていく。
気配りの一つひとつが板についていて、まさにメイドそのものだ。
水色の髪をボブに切り揃えたリリィの瞳は氷のように冷たいが、アイリスを見る目だけは太陽のように温かい。
「仲がいいな」
「私たちは生まれたときからずっと一緒だからね!」
「ええ、そうでございます。レモンは絞りますか?」
「たっぷりかけちゃって!」
「かしこまりました」
リリィは背筋を伸ばし、まるでバーテンダーのように腕を振ってレモン汁を垂らした。
「それにしても、二人はどうして冒険者になろうと思ったんだ?」
俺も唐揚げをかじりながら、なんとなく尋ねる。
「それは――決められたレールを走りたくないから!」
「決められたレール……影武者って、転職できないのか?」
「う、あ……ええっと」
自信満々に答えた割に、アイリスはすぐにリリィへと視線を送った。
「アイリス様は生まれた頃から剣士を志しておられます。
ですがご実家は由緒ある《《定食屋》》でして、跡を継ぐかどうか……と。
もっとも三女でございますから、このように気ままな生活も許されているのです」
「分かる分かる。俺も農家の生まれだからな。
家業を継げって言われるのはよく分かる」
結局は冒険者の道を選んだが。
「リリィもそんな感じか?」
「私の命はアイリス様のものですから」
「……そ、そうか」
愛が重くないか?
いや、最近の仲良し娘たちってこんなものなのかもしれん。
「ギリアムおじ様は、どうして冒険者に?」
「ああ、俺は――夢だから、かな」
改めて問われると答えに迷うが……もし一番近い言葉を選ぶなら、夢だろう。
田舎の農家の息子として生まれ、冒険者に憧れる――それは自然なことだと思う。
「クランを立ち上げて、信頼できる仲間と世界を巡る。
金銀財宝を手にすることもあれば、困った村を助けることもある。
……そんな当たり前のことを、たった一度の人生でしてみたいんだ」
そう思って、アベルのクラン『黄金の剣』に加入した。
夢を信じ、仲間を信じ、毎日己を鍛え、クランのために尽くしてきた――。
「ギリアムおじ様?」
考えに沈んでいたせいか、アイリスが不安げに覗き込んでいた。
「いや、少し昔を思い出していただけだ。
……さて、クランのランクを上げるには素材納品や討伐が基本だが、やり遂げるには目標が必要だ」
俺の信条は謹厳実直。
誠実に、一つずつ積み上げていけば、いつの間にか望む場所にたどり着けるはずだ。
「目標?」
「ああ。我ら『黎明の鷲』は、当面の目標を“クランハウスの購入”とする」
「クランハウス!? Fランクでも手が出るの?」
「値段に応じて大きさも変わる。
まずは三人で拠点にできる規模のものを探そう」
「うん、そうだね、頑張ろう、私! リリィ、そしてギリアムおじ様!」
テーブルの中央にアイリスが勢いよく手を伸ばす。
何のまねか分からず、俺は白い手を見つめたまま固まってしまう。
アイリスがリリィの手の上へ、ゆっくりと手を添えた。
「さあ、ギリアム様も」
「お、おう」
どういう儀式か分からず、オッサンなんかが触れて良いものかと戸惑いつつも、手を乗せた。
「『黎明の鷲』、いくぞー!」
「おー」
「お、おお!」
ヒマワリのように天真爛漫な声音と、雪解けが近い冬朝のような声が酒場の喧騒に負けず、俺の心を揺らした。
【カクヨム】
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