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第48話 エメラダ班の弱点

 それからの数日は、朝日とともに起床して五キロのマラソン。

 戻れば腕立て伏せと腹筋。

 基礎体力の底上げにひたすら時間を費やした。


 初めは息も絶え絶えだった術師系のメンバーも、今では最後まで走りきる者が増えてきた。

 その姿に全体の士気も少しずつ上がっているのが分かる。


 そして――今日は、初の実戦訓練だ。


「駆け出しのクロノ・クロノスでも使用していたゴーレムたちだ。

 好きに使いたまえ、リンナ君」


 庭先で一升瓶を抱えながら、マキナが酔ったような笑みを浮かべる。

 しかしその目だけは、鋭く俺たちの動きを見逃していない。


 借りたゴーレムたちは人型だが、岩を組み上げて造られた無骨な姿。

 顔はなく、頭の中央に埋め込まれたコアが、瞳のように不気味な光を放っている。


「ありがたく借りるぞ、マキナ。

 実戦ではメンバーは分断されているだろう。

 そこで班を分ける」


 アイリスが手際よくメンバーを組み分け、各自がいつもの武装を手に取る。


「……あれ、軽くなってます」


 久しぶりに両手杖を握った治癒師アイテールが、不思議そうに杖を何度も握り直した。


「頑張ったな、アイテール。マラソンと筋力トレーニングも様になってきたもんな」

「えへへ、太ももを持ち上げると痛いですけどね……」


 筋肉痛に顔を歪めながらも、どこか誇らしげに笑う。

 他のメンバーもそれぞれ、成長の実感を確かめるように目を輝かせていた。


「では第一班、前へ出るがよい!」


 リンナの号令に、聖騎士エメラダ、シノビのユウヒ、魔術師ドロシー、治癒師アイテールが一歩前へ。

 ――戦力バランスが整った理想的な構成だ。


 エメラダが前衛で敵を引きつけ、ユウヒが撹乱と奇襲。

 アイテールが回復を担い、ドロシーが魔術でとどめを刺す。

 それぞれの役割が明確で、連携さえ取れれば高難度の敵にも十分通用する。


「では、実戦――開始!!」


 号令と同時に四体の訓練用ゴーレムがうなりを上げて動き出した。

 盾を構えた重騎士型、片手剣の近接型、弓を引く遠距離型、そして回復を行う支援型。


「さて、どう動くか、見ものだな。

 ギリアムおじ様なら、どう動かす?」


 リンナが隣に立ち、口元を上げる。

 まるで試すような眼差しだった。

 

「そうだな……回復型を狙いたいが、重騎士が壁になる。

 前に出れば近接型、離れれば遠距離型。

 ――ユウヒの阻害術をどう活かすか、そこが鍵だな」


「正解だ。

 第一班では、アイテールが補助魔術を苦手としている。

 ドロシーも魔術師としては平均的。つまりこの班の戦闘力は低い。

 だからこそ、元クロノ・クロノスのユウヒをどう動かすかで、戦局は大きく変わる」


 開始と同時に、エメラダが前に出て指揮を執った。


「ドロシー、すぐに詠唱開始!」


 彼女の声が響きドロシーがすぐに詠唱を始める。

 だが、詠唱の途中で鋭い矢が飛来した。


「矢は私が! 反撃!」


 ドロシーが頷くと、【アイススピア】を放とうとした、その瞬間――。


「少し遅れたな」

「ほう、目が良いな、ギリアムおじ様」


 俺の言葉どおり、刹那、踏み込んできた接近型がドロシー目がけて剣を振り抜く。


「――させない」


 音もなく剣を受け止めたのは、ユウヒのクナイだった。

 受け流しと同時に反撃を放つが、敵は素早く離脱し、後方からの連続矢でカバーする。


「ゴーレムの連携が見事だ。

 それに比べると、うちは……」


「これが明確な弱点だ、ギリアムおじ様」


 エメラダの指示が少し遅い。

 狙うべき敵をドロシーに任せ、的確に伝達できていない。

 たった数秒の遅れが、ドロシーの攻撃を遅延させている。


 さらに、元同じクランメンバーへの指示は早いが、ユウヒへの指示は明らかに遅い。

 そしてアイテールは、戦力に組み込まれてすらいない。


「これが、信頼関係の不足ってことか」


「それが分かっただけでも、大きな収穫だろう。

 ユウヒへの理解を含め、アイテールの苦手意識を克服すること――それがこの班の強化に繋がる」


 リンナが「やめ!」と指示を出すと、ゴーレムたちは瞬時に元の待機陣形へと戻った。


「はあ……はあっ……ありがとうございました。

 ……何か、歯車が合わないような、くっ……」


 エメラダが珍しく膝に手をつき、息を切らしている。

 リンナがアドバイスを与えている間、マキナが酒瓶を片手にこちらを見てきた。


「次はミスターギリアムの番だね。

 実に楽しみだ。あれほどの大口を叩いたんだ。

 よっぽど腕に自信があるんだろう?」


 悪気はないのだろう。

 だが、この人の言葉はいつも棘がある。


「治癒師では出来ることも限られているだろう。

 ミスターギリアムの班は――片手剣士アイリス、メイドのリリィ、偽聖女のセラフ=ノクスか……剣聖リンナに頼れば君の出る幕もない」


 その瞳はまるで俺を試すようだった。

 確かにリンナに頼れば簡単に勝てる。

 だが、それでは強化訓練の意味がない。


「まあ、やるだけやってみます」


 伝説の人形使いの魔女の前だ。

 緊張してドジは踏みたくない。


 俺は肩と腰を回しながら、開始の合図を待った。


 ノクスが「おじさんっぽ〜い♡」と笑いながら背中を揉んでくるせいで、緊張感の欠片もないが。

【カクヨム】

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