第44話 伝説のクランの訓練指導官
アクアヴェルムの街門前は、復興用の資材で溢れ、馬車が行き交っていた。
そんな賑やかな門を背に、俺たちは草原に一列で立たされている。
クランメンバーは一部を除いて短パン半袖に着替え、すでに動きやすい服装だ。
「いいか、我が貴様らの訓練指導官、リンナ=アーデライト軍曹である!」
どこぞの王女様のようなゆるふわ金髪は、今日は頭の後ろでひとつに結われ、妙に精悍な印象だ。
自身の魂が閉じ込められている片手剣光放つ百舌鳥を地面に突き立て、両手を柄に乗せるその姿は、まさしく伝説の剣聖そのものだった。
「我が所属するクラン『黎明の鷲』のランクはいくつである、アイテール二等兵!」
なんだ二等兵って……また変な本でも読んだな。
あれでリンナも、肉体側のアイリスも読書家だから、こんなとき妙にノリノリである。
「え、えええ、わ、わたしですか!?」
二つ結びを大きく揺らすほど動揺するアイテール。
勢いに押されて、知っているはずの答えも出てこない。
隣に立つドロシーが、わずかに口を動かした。
「……D」
「さすがドロシー二等兵だ、今日の昼食は1品増やすことを許そう!」
「ふへへ」
ドロシーは長い前髪の隙間から瞳を細める。
口元はローブに隠れて見えないが、たぶん喜んでいるんだろう。
「だが、アイテール二等兵が答えられなかったのは連帯責任である。
腕立て伏せ、五十回、はじめぇ!!!」
リンナは剣を天に掲げ、城門前で鬼軍曹さながらの声を響かせた。
「ふ、ふえええええ!!?」
「……」
お、アイテールは一回で地面に沈んだな。
ドロシーは腕を曲げる前に、もう力尽きてる。
「五十など、息をするよりも簡単ですね」
片腕だけで軽々と上下しているのは、聖騎士エメラダ。
やけに張り切ってるが、筋肉の強化を喜びに感じるタイプらしい。
「さすがですね、エメラダ様」
……ああ、リリィ。
お前は動きやすい服装って言われてるのに、なぜメイド服のままなんだ。
スカートの裾が短くなってるから良いかって話でもないぞ。
それでも額に汗を滲ませながら、軽やかにこなしているあたり、さすがというほかない。
「見て、ギリアム様」
「ん?」
見学してる暇もなく、俺も腕立て中だ。
視線を向けると――ユウヒが胸元ぎりぎりの薄布で、妙に際どいフォームを取っていた。
腕を曲げるたびに、地面に《《とある部分》》が先に着く――。
「……どう?」
こいつ分かって俺に聞いてるな――動揺するわけにはいかん。
「しっかり腕立てが出来て偉いな」
他に言うことはないのか、とでも言いたげな目をしてくるが、ここで乗ったら終わりだ。
ちらりと視線を外すと、ノクトも隣で必死に腕立てをしている。
顔を真っ赤にしているが、口元が笑っているところを見ると、運動は嫌いじゃないようだ。
「やめ!」
リンナの号令で一斉に動きが止まる。
草原の風が心地よく吹き抜けたが、息を切らした俺たちは、その場にぐったりと倒れ込んだ。
リンナは倒れた姿を見下ろしながら、姿勢正しく歩き出す。
まるで騎士団の教官のような足取りだ。
「良いか、我々はS級――いや、SSS級クランを目指す精鋭部隊である!
悪魔の王とも言われるバフォメットを討伐した。――が、街は崩壊した!」
そう言って、突然ユウヒの顔のすぐ前まで迫る。
ほとんど口づけしそうな距離で、鋭く叫んだ。
「――何故か、ユウヒ伍長!!」
「……未熟」
「そうだ! 我々は未熟だ!」
リンナの声が草原に響き渡る。
その目は真っ直ぐで、どこか誇らしげですらあった。
「隊としての連携すらも不十分!
だが、それを補うのがクランだ!
心の結びつき、そしてスキル同士の相乗効果を理解すれば――どんな危険なクエストも乗り越えられる!」
その言葉に、俺は静かにうなずいた。
確かに俺たちは寄せ集めの集団だ。
それでも互いを知り、信頼を積み重ねていけば、人の欲が渦巻く世界でも生き残れる。
「貴様らは、今日まで尻尾を振る愛らしい子犬以下だ」
リンナが拳を握りしめ、声を張り上げる。
「だが――ドラゴンすら噛み砕くフェンリルへと生まれ変わる素質を秘めている!」
熱を帯びた声に、誰もが思わず背筋を伸ばした。
リンナは倒れたままのアイテールに手を差し伸べ、そっと立たせる。
「さあ、SSS級クラン『クロノ・クロノス式』強化訓練合宿の開始を――宣言する!!」
おおっ、と喜びの声が上がる一方、ううっ……と悲鳴混じりの呻きも飛ぶ。
喜怒哀楽の入り混じった光景に、思わず苦笑が漏れた。
その中で、最も目を輝かせていたのはエメラダだ。
天を割るような勢いで手を挙げる。
「発言を許可する、エメラダ上等兵!」
「具体的には何を行うのですか!」
待ってましたと言わんばかりに、リンナは背中で両手を組み、胸を張る。
「手始めに筋トレ、次は合宿だ。
過去にクロノ・クロノスが使用した秘密の合宿所でな」
……そんなものがあったのか。初耳だ。
さすが伝説のクラン、訓練施設まで持っていたとは。
「なるほど。
危険を共有することで信頼を深める――というわけですね」
納得してうなずくエメラダに、リンナは小さく人差し指を振る。
その仕草だけは、妙にアイリスを思わせる可愛らしさがあった。
「半分正解だな。
残り半分は――連携スキルの会得だ!」
連携スキル――耳にしたことがない単語だ。
彼女たちも知らないのか動揺が走る。
俺の胸は鼓動も早くなった。
草原の空気が少しだけ熱を帯びたように感じる。
【カクヨム】
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