第43話 クランランク昇格
誰もが寝静まった真夜中でも、木槌の音が街にこだましていた。
再建の灯がそこかしこに揺れ、ロイズ氏の采配によって生活の基盤は目に見えて立ち直りつつある。
「かなり増えたから、状況を整理しないとな」
カンテラの灯がゆらゆらと揺れ、手帳のページに淡い光を落とす。
俺は庭先に布を敷き、胡坐をかいて現状を書き出していた。
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■クラン名
□F級黎明の鷲
■メンバー(計8名+魂1人)
□片手剣士のアイリス(グランヴェルム第三王女の影武者)
┗武器に宿る魂のみのリンナ=アーデライト(伝説のクランの剣聖)
□メイドのリリィ
□シノビのユウヒ(伝説のクランのメンバー)
□治癒師のアイテール
□聖騎士のエメラダ
□魔術師のドロシー
□偽聖女のセラフ=ノクス(仮加入/人格二つ)
■クランハウス
□リビング、キッチン、ダイニング、三部屋(個室)、日当たり最悪の庭
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当面の課題はクランハウスの拡張か。
地面に枝で間取りを描きながら、寝室の割り振りを思い出す。
「ええっと、ヒマワリ部屋がアイリスとリリィ、アイテールで……」
本当は部屋番号でいいと思ったんだが、彼女たちに押し切られて、ずいぶんと可愛らしい名前になったものだ。
「……ヒガンバナ部屋がユウヒとドロシー」
名前の響きだけは妙に重々しい。
ユウヒが知っている花らしいが、どんな花なのかは知らない。
「で、花部屋が、エメラダとセラフか」
花の名前を何も知らないと言っていたので、安直すぎる名付けがエメラダっぽいとは思う。
俺はといえば、相変わらず庭で寝ている。
ここに落ち着くまでにも、ちょっとしたドラマがあった。
ノクスに無理やり部屋に連れ込まれそうになったり、ユウヒの罠ロープに引っかかって部屋に拉致されかけたり、アイリスとアイテールが、お話ししようと両腕を取ってきたり、と散々だった。
「まあ、何はともあれ、仲良くやれてるならいいか」
頬を緩めながらつぶやく。
明日は冒険者ギルドで報酬金の受け取りだ。
バフォメット討伐の金で、当面は食いつなげるはず。
大所帯になった以上、財政管理もしっかりやらねばならない。
夜空を見上げると、三日月が雲間に浮かんでいた。
アベルのクランでは一人部屋を与えられていたが、仲間の気配がこんなにも安心できるものだとは思わなかった。
「不思議なもんだ……」
静かな夜風にまぶたを預けながら、
これからの日々に思いを馳せ、知らぬ間に眠りへと落ちていった。
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「おめでとうございます。
F級クラン『黎明の鷲』は、Dランクへ昇格です」
ドスン、と大判が書類に押され、鮮やかな赤文字で“D”の印が刻まれた。
「やったね、ギリアムおじ様!」
「アイリス様がいるのですから当然です」
素直に喜ぶアイリスと、満更でもなさそうに胸を張るリリィ。
二人の声が、朝のギルドに小気味よく響いた。
「ですが、あれほどの悪魔を討伐してもD止まりとは……」
リリィの疑問はもっともだった。
アベルの『黄金の剣』に在籍していたときは、討伐のたびにトントン拍子でS級まで上り詰めた記憶がある。
「基本は冒険者を取りまとめている冒険者ギルド協会が認定してるはずなんだが――……」
受付嬢がちらりと俺の顔を見て、周囲をきょろきょろと確認する。
そして小声で、こっそり手招きをした。
「……ほ、ホントは言っちゃだめなんですけど、街の恩人なので」
声はかすかに震えていた。
「領主様はBランクで協会へ報告したんですが……戻ってきた回答はDだったらしいんです。協会の上層部で何かあったみたいですよ」
「上層部――?」
リリィの瞳がナイフのように光を宿す。
「まあいいさ。昇格はしたし、報酬も受け取れた。今はそれで十分だ」
「で、ですがギリアム様――」
「ありがとう、受付嬢さん。助かったよ」
俺はリリィの手を軽く引き、ギルドを後にした。
アイリスも、不思議そうに小走りでついてくる。
「どうしたの、ギリアムおじ様」
「強い視線を感じた。
あの場で揉めても得はないさ」
リリィが振り返るが、もうギルドの扉の向こうには人影すらなかった。
「な……なぜ、私たちが?」
「理由は色々想像できるが――今はまだ、気にするな」
「……ギリアム様がそう仰るなら」
渋々うなずくリリィ。
その表情には、まだ釈然としない色が残っている。
――だが、今はまだ彼女たちに伝える必要はない。
冒険者ギルド協会は、大陸が統一される以前から続く古い組織だ。
長い歴史の中では、必ず“腐る部分”が出る。
そして――コネも血筋も金もない新クランが成果を上げれば、潰されるのは常だ。
見ていたのは大方、上層部の誰かだろう。
リリィが唇を噛み、アイリスが珍しく静かに歩いている。
その二人に向け、できるだけ柔らかく笑いかけた。
「一つ一つ、積み上げて行けば問題ない。
それほど確実なことはないからな」
大きな仕事をすれば冒険者ギルドも対応せざるを得ない。
ならば堅実に進むのみだ。
「積み上げていく……か。
とっても大事だね、うん、頑張ろう。
もっと……強く」
アイリスは愛剣光放つ百舌鳥の柄を撫でながら、静かに決意を灯した。
「そうですね、アイリス様。
流されず、脅かされぬよう――私たちは強くなる必要があります」
二人の真っすぐな眼差しを見て、俺は一つの考えにたどり着く。
今は“仲間の力”を鍛える時だ。
「よし、クラン強化訓練でもするか」
何気なく呟いた瞬間、アイリスの瞳が青から朱に染まる。
リンナが表へと現れた。
「――ほほう、楽しそうじゃないか。
丁度、退屈していたんだ、我は。」
不敵な微笑みだけ残して、リンナは再び沈む。
伝説の剣聖が、あえて今、顔を出した――。
百舌鳥の爪でもちらつかせた笑いが気になり、訓練内容に一抹の不安が過るのだった。
【カクヨム】
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