第40話 いまさら言われても、もう遅い
「そうか?
彼女のヒールは大したもんだ。
行く場所がなければ、うちは皆、大歓迎さ」
「オッサンは黙ってろよ。
追放されて行き場もないんだろ?
何が歓迎だよ、クランも作れねぇくせに」
アベルは勝ち誇ったように鼻を鳴らした。
まるで自分の世界だけが続いているかのように。
だが、その幻想を打ち砕く声が響いた。
「おーい、ギリアムおじ様ー!!」
ヒマワリのような笑顔で民を連れ、駆け寄る自称・偽王女アイリス。
「ギリアム様、バフォメット討伐、お疲れさまでした。
お怪我はございませんか?」
リリィは汚れたメイド服のまま、微笑を浮かべる。
今回ばかりは氷の女王のような冷たさは消え、柔らかな春のように笑っていた。
「……ギリアム様、無事?
じゃあ仕置きちょうだい?」
ユウヒは肩に包帯を巻きながら、頬を桜色に染めている。
痛みよりも、何か別の妄想に浮かされているようだ。
「お、おい……なんだこいつら」
俺は夜風に舞った誰のローブとも知れぬ治癒師の外套を拾い、羽織った。
さすがに布の服のままでは締まらない。
俺の後ろには剣士のアイリス、メイドのリリィ、シノビのユウヒが並ぶ。
その後に――治癒師のアイテール、魔術師のドロシー、聖騎士のエメラダ。
最後尾には、ちゃっかりノクスまで陣形に加わっている。
まったく、喰えない少女だ。
「俺のクラン『黎明の鷲』のメンバーだ」
「は、ありえねえ……?
俺のクランは戦術も戦力も、イメージすら、全てがS級だぞ……?」
クランメンバーが全員抜けた事実を前に、アベルの顔色はみるみる蒼くなる。
「何が不満なんだ、頼れるクランマスターなら、誰だってついてくるはずだろう」
さすがのエメラダもついに首を振った。
「戦局も見れず、独りよがりな戦術……。
ですがそれは、多くのクランでもあることでしょう」
「な、なら、うちのクランでもいいだろ!」
「でも、あなたは“人”を人と思わなかった。
感謝も、信頼もない。
――そんな場所に、誰が残りますか?」
「う、うるさい!
寄ってたかって、俺を虐めて楽しいか?!」
誰も答えない。
この場に、彼を庇う者はもう一人もいなかった。
バフォメットを通して暴かれたのは、アベル自身の心。
もう、誰もその声を聞こうとはしない。
「そ、そうだ、ギリアム。
また俺がクランマスターになってやるよ。
だ、だからお前が、全員連れて戻ってこい。
それで、全部丸く収まる……そ、そうだろ? な?」
アベルは俺にすがるように手を伸ばす。
だが、俺はその手を取らなかった。
「追放したことは水に流してやるから。
なあに冗談だったんだよ。
ほんと全部冗談、本気にするなよ、なあ」
「もう、全ては遅いんだ――アベル」
その言葉で、アベルの手は力なく落ちた。
乾いた音が、石畳に小さく響く。
「ふ、ふははは……ふははは」
笑い声だけが、夜に虚しく響いた。
アベルはよろめきながら立ち上がり、誰にも振り返らず、街の外へ歩き出す。
「後悔させてやるよ、俺を寄ってたかって虐めたことをさあ!!
もう二度とこんな街、来ねえよ!
知ったことか王の勅命なんてよお!!
俺は故郷ではすげえんだ、すげえんだからな!
クランに残らなかったこと、一生後悔しろ!
絶対にゆるさねえ、許さねえからなぁぁ!」
狂気じみた笑い声が夜風に消える。
――それで、ようやく静寂が戻った。
俺は深く息を吐いた。
ようやく蹴りがついたのだ。
過去にも、そして、クランにも。
「さあ、皆も疲れただろうが、もうひと踏ん張りだ」
領主ロイズの声が響き、場の空気が和らぐ。
人々は再び動き出し、夜を徹して死者を弔った。
幸いにも、多くの住民は早期の避難で生き延びていた。
アベルを告発する声もあったが明確な証拠が残っておらず――それどころか、《《どこからの圧力》》により、この日の噂話すら、もみ消されることになる。
その後、アクアヴェルムの街は、静かに――けれど確かに、再生を始めていく。
しかし、終幕の雰囲気によって、バフォメット戦の裏で動いていた影を、俺はすっかりと忘れていた。
――新たな足音はまだ遠く、だが確実に近づいている。
【カクヨム】
https://kakuyomu.jp/works/16818093086666246290
※最新話 毎日 7:17 に更新中!
※カクヨムが先行して配信されています。
小説家になろう様をはじめ、カクヨムでも感想、レビュー、★評価、応援を受け付けておりますので、お気軽にいらしてください!




