★第4話 ギリアムが抜けたS級クラン
「本当にこのメンバーで、討伐クエストに行くんですか……?」
二つ結びの治癒師アイテールは、長杖を両手で抱きしめるように握りしめ、薄暗い森を恐る恐る歩いていた。
「このS級冒険者アベル=ウィングが率いるS級クラン『黄金の剣』に、不足などあるものか」
先頭を行くアベルは、片手剣を得意とする剣士だ。
その後ろには、身の丈を越えるほど大きな盾を背負い、白銀の鎧に身を包んだ美しい少女が辺りを警戒している。
「今日は我がクランの新人――S級聖騎士エメラダに、オッサンの穴埋めをしてもらう」
「オッサンとは?」
絹のようにしなやかな金髪を揺らし、エメラダが訝しげに眉をひそめた。
「俺の人生最大の過ちであり、汚点だな。
語るだけでも呪われそうだ。
強そうだからって理由で暗黒騎士のオッサンを仲間に入れたが、サボってばっかりだったのさ」
「それは災難でしたね。
ですが聖騎士は暗黒騎士とは対極の存在。
豊富なスキルに加え、新たなる聖なる加護を得た私なら、誰も傷つけさせません」
「頼もしい限りだ。
……今日はギルドからの特別要請、サイクロプスの撃破だ。
サクッと片付けて、クランハウスで歓迎パーティーでもしようぜ」
――そんなにうまくいくのかな。
治癒師アイテールは肩を落とす。
隣に立つ魔術師の少女ドロシーも、どこか浮かない顔をしていた。
「おいおい、アイテールもドロシーも暗いな」
「だ、だって……サイクロプスって、S級クランですら苦戦する相手ですよね……」
「はっ、知らないのか?
『黄金の剣』は一度、サイクロプスを討伐してるんだぜ」
「え、ええ!? 本当ですか?」
「攻撃力も防御力も大したことのないウスノロだったぜ。
オッサンがいたのに勝てたんだ。
あんな見掛け倒しに負けるクランがあったら、むしろ見てみたいもんだ」
「そ、そうなんだ……よかったね、ドロシー」
ドロシーは小さく頷いて見せた。
「しかも今回は、俺たちを名指しで指名してきた特別クエストだ。
この森で暴れるサイクロプスを仕留めれば、王から直々に褒美がもらえる」
アベルはすでに報酬のことで頭がいっぱいなのか、口元をだらしなく緩ませながら歩いていた。
その時――森の空気が一変した。
木々をなぎ倒す、不気味な音が響き渡る。
「……来ます。サイクロプスです」
森が開けた場所に、三メートルはあろうかという一つ目の巨人が、木々を相手に暴れ回っていた。
腰みのと棍棒を持つだけの原始的な装備だが、その巨体から繰り出される一撃は、太い樹木すら容易く叩き折る。
「厄介なのは攻撃力だけではなく、鋼のような肉体に刃が通らないことです。
……魔術による攻撃が最良かと」
「クランマスターは誰だ? お前か新人?
違うだろう、俺だ!
――さあ、各自、自由特攻だ!」
「え、ええっ!? それじゃ、いつも通りじゃないですか!」
「《《いつもと同じ》》だから勝てるんだろうが――!」
アベルは腰の剣を抜くと、真っ先に突撃した。
「我が剣は、一度貴様を斬り伏せている!!」
かつてはステーキにナイフを入れるように、刀身が容易く筋肉へと食い込んだ。
だが――。
ガキンッ!!
「か、かてえッ!!」
ダメージを与えるどころか、アベルの剣は逆に刃こぼれしていた。
怒りを覚えた巨人は、圧迫感を伴う拳をアベルめがけて振り下ろす。
――グワァン!
その一撃を受け止めたのは、聖騎士の象徴たる聖なる盾だった。
エメラダが、土壇場で滑り込み、アベルの命を救ったのだ。
「今のうちに下がってください!」
「来るのが遅ぇんだよ、このクソが!!」
悪態を吐きながら後退するアベルは、次の矛先をドロシーに向ける。
「いつからそんなに詠唱がノロくなった!? さっさと魔術を撃ち込め!」
ドロシーは唇を噛み、必死に詠唱を続ける。
だが、なぜか集中できない。
胸の奥に不安がこびりついていた。
「だああ! 守ってばかりで何してんだエメラダ! 仲間に補助魔術をかけろ!」
「そ、そんなことできるはずが――!」
サイクロプスの棍棒は速度を増し、エメラダですら防ぐだけで精一杯だ。
アベルの視線が治癒師アイテールに突き刺さる。
「おい、てめえ!
何で治癒魔術も補助魔術もかけねぇんだ!」
「で、でも……いつもはギリアムさんが、私の苦手なところをカバーしてくれて……!」
「知るか、言い訳ばっかりしやがって!」
アイテールに拳を振り上げん勢いだが、アベルはすぐにエメラダに矛先を戻した。
「聖騎士だろ、なんで防御しながら詠唱もできねぇんだよ! エメラダァ!」
「守りながら……さらに魔術で他人をサポート……!?
そんな繊細な芸当、できるはずありません!」
「な、なんだと……!?」
アベルの顔に焦りが浮かぶ。
状況を悟ったエメラダが声を張り上げた。
「ここは引きましょう!
ドロシーさん、当たらなくてもいい、撃って時間を稼いで!」
ドロシーは大きく頷き、未完成の詠唱で切り上げた。
「――【アイススピア】」
魔力と空気中の水分が反応し、氷の槍が次々と形作られる。
練り込み不足で小さなナイフ程度だが、それでも数で押し、サイクロプスの周囲へと撃ち込んだ。
「グガアアアアアアアアアアアッ!!」
怒りが爆発したかのように、サイクロプスは大地を踏み鳴らした。
地面が揺れ、全員の心臓を震わせる。
「ううう、ギ、ギリアムさんがいた時はこんな事なかったのに……」
アイテールが涙目で、あの優しい暗黒騎士を思い出していた。
彼は前に出ず、いつも未熟なアイテールを手助けしてくれていた。
「なんだと――!!」
「な、何でもないです!」
ギリアムの名を聞いたアベルは怒りで体を震わせる。
アイテールからしてみれば、知らぬ間にギリアムが追放されていたので、今日のクエストは不安だらけだった。
「いいか、絶対ぶっ殺せ、ギリアムなんかいなくてもな! 俺の命令だ!」
「皆さん、撤退します!!」
「「はい、エメラダさん!」」
エメラダの咄嗟の判断により、クランメンバーは一斉に駆け出した。
ただ一人、アベルだけが、悔しげに唇を噛みしめていた。
【カクヨム】
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