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第32話 暗黒騎士と聖騎士

「人の気配がない」


 領主邸の庭園には、剣戟の痕跡こそ残っていたが、人影はひとつとして見当たらなかった。

 街の喧騒に比べて、屋敷の中はあまりにも静かすぎる。


「……闇の気配が濃すぎて、追うこともままならないか」


 水路で試したように敵の位置を探ろうとしたが、屋敷全体が闇の魔力に覆われ、何も感じ取れなかった。


 気配を殺し、いくつかの部屋や広間を確認して回る。

 だが領主ロイズ様の姿はなく、アザレア様すら見つからない。


「……地下があるな」


 足元にかすかな振動が伝わる。

 俺は刀身のない柄に手を掛け、心の中で領主様に謝罪した。


 ――すみません、急を要する。破壊します!


 闇の刀身を地面へと突き立てる。

 

「せいっ!」


 刀身に溜めた闇力を爆ぜさせると、床が砕け散り、俺は衝撃とともに地下へと落下した。


「な、なにごとです――!?」


 落ちた先ではすでに戦闘が行われていたらしい。

 広々としたワイン貯蔵庫だったはずの空間は、棚が薙ぎ倒され、瓦礫が散乱している。


「くっ、バケモノ化した信者たちもいるのに増援……!?」


 床には多くの冒険者が倒れ伏していた。

 生死は分からない。

 その中で、巨大な聖盾を支えに必死に立ち上がる少女が一人。


 ――あの真面目そうな少女は……水路にいた聖騎士の姉さんか。

 

 視線を前へ。

 天井の低さに背を丸めながらも、なお圧倒的な威圧感を放つ巨躯が立ちふさがっていた。

 両手に構えた斧から、荒々しい呼吸が響き渡る。


 ――ミノタウロスだと、こんなところに?

 しかし、よくよく目を凝らすと迷宮の番人じゃない――頭は山羊だ。

 

『邪教徒のやつら――!』


 血が沸騰するような怒りが胸を満たす。

 奴ら、死んだ狂信者の死体を集め、肉と内臓を無理やり繋ぎ合わせ、ツギハギのモンスターを生み出したのか。


 死霊術師ネクロマンサーの領域。

 そんな奴まで潜んでいたとは、死者を冒涜するなど――。


 脳裏にかつて助けられなかった村人たちの姿がよぎる。


『――俺に任せて撤退しろ』


 煉獄から響くような声が地下室に反響する。

 怒りを押し殺しているからこそ、なお重々しく響いた。


「奴らの仲間ではないのか……?」


 聖騎士は驚愕し、そして目を見開く。


「まさか、暗黒騎士!」


 ぎり、と強く唇を噛み、血を流しながらも立ち上がる。


「ならば、助けられる義理はない――!!!」

 

 山羊頭の一撃をまともに浴びたのだろう。

 聖鎧は砕け、肩口からは赤黒い血が滴り落ちている。


「聖騎士が暗黒騎士に救われるなど、断じて――あり得てたまるか!!!」


『無理をするな』


「ほざけ……!!」


 ……なるほど、相当嫌われてるな。


 師匠から聞かされていた聖騎士と暗黒騎士の長き確執を思い出す。

 俺には縁のない話だと思っていたが、向こうからすれば常にこの調子らしい。


『好きにしろ』


 だが、あの身体では満足に戦えるはずもない。

 俺は両手剣に闇を流し込み、刀身を生み出す。


 天国へ連れて行く術は持たない。

 だから、せめて静かな闇に沈めてやる。


「がぁぁぁ!!」


 山羊頭の巨人が咆哮を上げ、斧を振り下ろしてくる。

 

『ふんっ』


 闇の祝福を受けた両手剣は、本来なら振るうたびに生命力を代償とする。

 だが暗黒鎧と共にある今は、その代償を払う必要はない。


「か、片腕であんな大剣を……!」


 火花が散り、激突の衝撃が地下を揺らす。

 山羊頭は短剣のような速さで斧を振り回し、連撃を叩き込んできた。


「【ダークパリィ】」


 すべてを受け止め、同じ速度で弾き返す。

 怪物の重い一撃はそのまま反転し、反動で奴自身を切り裂いていく。


「が、が、がぁぁ!!」


 返せば返すほど、山羊頭の身体から鮮血がほとばしった。


「な、何が起きてる……防戦なのに」


 聖騎士の驚愕をよそに、俺は両手剣を構え直す。

 両手で握ると刃が左右に割れ、中央に空洞が生まれた。


「【ダーク――ファング】」


 分かたれた刃が形を変え、巨大な竜の顎となる。

 黒き顎はワイン棚も壁も天井もろとも、山羊頭の怪物を噛み砕いた。

 

「わ、わずか数秒で、狂信者が造り出したバケモノを倒したというのか……!?」


 聖騎士は失血で崩れ落ちる。

 それでも意識を繋ぎ止めようと必死に抗っていた。

 

「くっ……ここで気を失うわけには……ここで起きたことを……皆に伝えねば……!」


 やれやれ。

 己の身体を犠牲に無茶をする、その愚直さは――暗黒騎士と大差ない。


『【ダークヒール】』

 

 ふわりと灰色の光が聖騎士を包む。

 俺の体力を少し分け与えた。

 これで多少は動けるはずだ。


「回復魔術……暗黒騎士風情が、聖騎士に施しとは気でも狂ったか?」


 どうせ素直には受け取らない。

 俺は肩をすくめ、背を向けた。


 バフォメットはいない。

 領主様たちも見当たらない。

 ならば、ここに留まる理由はない。


「――待ちなさい」


 その声が、俺の足を止めた。


「暗黒騎士に借りを作ったままでは目覚めが悪い。

 情報を教える」


 振り返ると、聖騎士は血を止め、背筋を伸ばしていた。

 先ほどより顔色も戻っている。


「……屋敷は既に落ち、狂信者たちの巣窟と化し、罠に嵌められた。

 突撃した冒険者の大半が――おそらく我がクランのマスターも」


 悔しげにうつむき、拳を震わせる。


「ダークエルフの女が、奴らを追った。

 彼女が言うには――ねぐらは大通り沿い。

 時計塔の路地を曲がった先にある廃屋だと」


『そうか、ありがとう』


 破壊された天井から差し込む光は、すでにオレンジ色に変わり始めていた。

 暗黒スキルで身体を強化し、俺は跳躍して地上へと戻る。


 取り残された聖騎士は、俺の返答が気に入らなかったのか――予想外だったのか。

 数秒遅れて、その後を追ってきた。

【カクヨム】

https://kakuyomu.jp/works/16818093086666246290

※最新話 毎日 7:17 に更新中!

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