★第29話 エメラダの違和感
「【パラディンガード】!」
エメラダの祈りに応じ、祝福の光が盾へと宿る。
先頭を行くアベルを守るように、聖なる防壁が展開された。
アクアヴェルムの領主邸宅へと続く一本道。
その両脇を埋め尽くすのは、もはや人ならざる狂信者たちである。
「ふははは! こいつら敵じゃないな!」
アベルが振るうのは、ごくありふれた鉄剣だ。
彼は何も語らないが、黄金剣はバフォメット戦からの撤退で失ったのだろう。
「俺たちも続けえ!!」
「うおおお! 悪魔がなんだ!!」
S級クラン『黄金の剣』の名声に鼓舞された冒険者たちが勢いづく。
道は次々と切り開かれていった。
――マスターは戦況を見ることができない人物だ。
自分以外を踏み台か何かだと思っている。
クランをS級へ押し上げたのは、間違いなく既にいない仲間たちの尽力だったのだろう。
「……その名声が、今役に立ってる」
新進気鋭のクランが先陣を切れば、それだけで弱小クランの冒険者たちも奮い立つ。
エメラダは胸の奥でそう実感した。
領主の恩を受け、守り続けてきたクラン。
しかし、バフォメット戦での一件以来、エメラダの心には脱退の二文字が影を落としていた。
「門が閉まってるぞ!
内側から開けろ!
よじ登れええ!!」
「うおおおお!!」
だが、名声に勇気づけられ突き進む彼らの姿を見て、エメラダは思い直す。
――私が守らなければ。
今はアイテールもドロシーも行方不明だが、きっとどこかで戦っている。
アベルの暴走を止められるのは私だけ。
聖騎士として、一度決めた道を疑うなどあってはならない。
これまで『黄金の剣』を作り上げてきた人達の想いを、無下にすることを――してはいけない。
邪念を振り払うように、エメラダは頭を振った。
「ダメだ、門の先にもバケモノたちが……!!」
「領主様もアザレア様も、逃げ出せたのか……?」
弱気に沈む冒険者たちの前に、エメラダが一歩前へ出る。
「私が道を切り開きます。
あなたたちはマスターと共に進軍してください」
戦士や魔術師たちは武器を握り直し、取り囲むようにして元人間の者たちが群れを成す。
彼らの装いは庭師だったり、メイドのそれだったり――すでに狂信者へと堕ちている。
「――せめて安らかに。
【パラディンクロス】!!」
エメラダが巨大な盾を地に突き立てると、彼女を中心に十字の光が天へと立ち昇った。
祈りを形にしたような光柱が、凶信者たちの咆哮を切り裂く。
悲鳴は瞬時に絶叫へと変わり、周囲の空気を震わせた。
「さあ、進んでください!」
「ありがとう、聖騎士エメラダ、行くぞお前ら!!」
「突撃―!!」
――普段冒険者ギルドで様々なクエストに当たっている彼らが一丸となって進む姿は実に頼もしい。
我がクランマスターも見習って欲しいものだ――と、想いに耽っていたエメラダは顔を上げた。
「マスターの姿が、ない……?」
エメラダが最初に耳にしていた作戦はこうだ。
冒険者クラン混成隊が正面突破を行い、狂信者を集める。
手薄になったところで、裏から別動隊が攻める。
安易な作戦ではあるが、狂信者は既に理性は残っていないようなので、エメラダも特に異は唱えなかった。
だが、背中を這い上がるようなこの悪寒は何だ。
本来なら戦況は優勢なはずだ。
狂信者は冒険者たちに抑えられ、街に火の手は上がっているものの、勝利への道筋は見えている。
領主を救い、満身創痍のバフォメットを討てば、この緊急クエストは終わるはず。
「……なのに、この違和感は一体」
気が付けばエメラダはただ一人、庭園に残されていた。
遠くから聞こえてくるのは、アクアヴェルムの戦場の喧噪。
「こんなにも静かだった――?」
昔、聖騎士の先輩が笑いながら言っていた。
聖騎士の勘など当てにならない。
真面目すぎる者が多く、物事を真っすぐに見すぎるせいだ、と。
気づけば汗が頬を伝っていた。
エメラダはそれを拭い、盾を構え直す。
一人、静かな庭園を歩き出した。
「勘が当たらないと良いですね、先輩」
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