表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/62

★第28話 ユウヒの情報収集

 ユウヒはダークエルフである。


 本来の名は別にあったが、三百年以上前、人間社会に溶け込むために新たに与えられた名――それが「ユウヒ」だった。


 ――クロノ・クロノスは、楽しかった。


 不謹慎きわまりない。

 だが混乱に包まれた街のざわめきを肌で感じ、ユウヒの柔らかな頬は緩む。


 人の姿を捨てた狂信者と、バフォメットを追う冒険者たちが激突し、その余波に巻き込まれた住民が逃げ惑う。

 防具屋の店主が狂信者に襲われ、地に倒れ込んで助けを求めた。


「ッ!」


 次の瞬間、東方の投擲武器――『クナイ』が飛来し、狂信者の頭部を正確に貫く。

 腰を抜かした店主が屋根を仰ぐが、そこにはすでに誰の姿もなかった。


 三百年前は今よりも魔族との争いが激しかった。

 だから、この戦場も「可哀想だ」とは思うが、それ以上でも以下でもない。


 ユウヒにとって、人間も魔族もモンスターも――エルフ以外の命を奪うことに躊躇はなかった。


 ――もう、クロノ・クロノスのマスターにも、お姉ちゃんにも、あの子にも、どの子にも会えない。


 理解したうえで、彼女はクランハウスを守り続けていた。

 寿命が尽きるまで思い出と共に生きていこうと決めていた。


 ――だけど、リンナ様に出会えた。

 しかもアイリスの身体に宿っているなんて、面白すぎる。


「ふふ」


 抑えきれず、笑みがこぼれる。

 その笑みの裏で、彼女の手は無意識に狂信者を仕留め続けていた。


 闇に潜み、街の死角を疾走する影。

 誰に狙われたかすら、敵は気づけない。


 ――リンナ様は言った。

 ギリアム様が新しいマスターだと。


 納得するか否かではない。

 もう二度と戻らないはずだった賑やかな日々が、また見られるかもしれない。


 三百年ぶりの「クラン」。

 忘れられない想いには、新たな想いが必要だと、長い旅で彼女は痛いほど知っていた。


 ――今は、悩むより動くこと。


 ギリアムから与えられた最初の命令――「街の情報収集」を必ずやり遂げる。


 命令を完遂すること。

 それこそが至上の喜び。


 与えられたタスクを埋めていくたびに訪れる快感を思うだけで、脳が痺れるほどの多幸感に飲み込まれそうになる。


 ……いや、まだ早い。

 まずは街の状況を調べ上げ、クランマスターであるギリアム様に報告しなければならない。


 褒めてほしい。

 撫でてほしい。

 できることなら――愛してほしい。


「ふふふ」


 自分が惚れっぽいとは思わないが、今回こそは運命の出会い。

 身体に電撃が走ったのだから間違いない。


 はてさて、頭の中で集まった情報をまとめる。


 ひとつ、信者は既に人の身を捨てた悪魔もどき。

 ひとつ、冒険者たちが信者と戦っているが拮抗している

 ひとつ、姿を偽ったどこかの騎士団が混ざってる、援軍?

 ひとつ、負けた冒険者や捕まった住人は、人気のない倉庫に連れていかれる。


「……ん」


 浅黒い肌と引き締まったボディラインが、跳躍のたびにしなやかに揺れる。

 壁に張り付くその太ももは、【シノビスキル】により研ぎ澄まされた美と機能を兼ね備えていた。


 ――スキル:キツネミミ。


 東方に住む狐――黄色い犬のような獣は、異常な聴覚を持つ。

 それを模倣したこのスキルは、壁越しのわずかな物音さえ逃さない。


『……くそ、くそ、くそ、やりすぎだ!』


 隠れ家めいた狭い倉庫。

 その中で、一人の男が苛立ちに行ったり来たりしている。

 もう一人の気配は静かで、衣擦れの音と共に小さく頷いた気配が伝わる。


『イザベラ、どうする気だよ!!』

『――贄が足りない、血が足りない』

『完全に頭やられちゃってんじゃねえか!

 ああもう、俺たち進撃の雷鳴も、もう終わりなのか、そうなのか?!』


 進撃の雷鳴――それは男二人、女一人のクランか。


『怪しい奴から魔石の運搬なんて受けるんじゃなかった。

 ギルドの真っ当な仕事を受けりゃよかったんだ』

『足りぬからと言って――貴様らを食べては、この身体との契約を破棄してしまう――契約とは面倒だ』


 男が喚き散らす声に構わず、女のようにも男のようにも聞こえる妙な声が淡々と続ける。


『怒るな。今宵、この街の住人は皆、私の信者になる。

 お前らは最強の力と武具を手に入れ、一気に最強クランにも匹敵する力を得るだろう』

『うるせえ、やばいよ。

 殺しすぎだ、街を壊しすぎだ……ど、どうすんだよ、殺されるよ……!!』

『追手すらも殺せる力だぞ?』

『追われ続けるなんて俺には無理だ。

 ああああ、頭がおかしくなりそうだ!!』

『欲が弱いやつばかりだ。

 もっと欲深い者と契約できなかったのか――』

『聞いてねえよ、こんなヤバいことになるなんてよ……!!』


 進撃の雷鳴は違法な闇クエストを受け、魔石を運んだことで、仲間の女の身体にバフォメットを呼び寄せた。


 願いは自分たちの強化と武装の獲得──愚かで短絡的な望みが、彼らを破滅へと導いたのだ。


 ――人の世は醜い。

 けどエルフもダークエルフもハーフエルフも、いつだって互いに刃を向けてたか。


 ユウヒはその真実を冷ややかに受け止めるだけだ。

 必要な情報を得て、ユウヒは壁から音もなく跳び立つ。

 敵の巣は見つかった。


「……あそこ、なんか言ってる」


 戻ろうとした矢先、広場から冒険者たちの声が高まっていた。

 鼓舞するように、群衆が名を連呼する。


『黄金の剣、黄金の剣!!』

『アベル、アベル、アベル!』

『エメラダ、エメラダ、エメラダ!!!』


 異様に熱を帯びた空気に、ユウヒは唇に人差し指を当てて首を傾げた。


「領主様を助けに行けるのは誰だ!!」


 誰かが叫ぶと、群衆は『アベル!』と応えた。


 黄金の鎧を纏った青年――アベルが、剣を高く掲げ先陣を切って走り出す。

 彼のあとに苦々しい面持ちで続くのは、整った顔立ちの少女だ。

 背負った巨大な盾が、彼女が聖騎士であることを物語っている。


「エメラダァ、今度はヘマすんじゃねえぞ。

 俺の婚約者候補を助けるんだからな」


「……分かっています」


 小声で交わされるやり取りを聞き、ユウヒは再び闇へと溶けていった。

 雑魚に興味はないが、領主の動向を報告すれば、ギリアム様はきっと喜ぶ。

【カクヨム】

https://kakuyomu.jp/works/16818093086666246290

※最新話 毎日 7:17 に更新中!

※カクヨムが先行して配信されています。


小説家になろう様をはじめ、カクヨムでも感想、レビュー、★評価、応援を受け付けておりますので、お気軽にいらしてください!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ