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第24話 朝焼け

『――ほどけぬ、だと?』


 鮮血の鎖に縛られたまま、バフォメットは驚愕の色を宿した瞳で俺を睨みつける。

 暗黒装備もない。

 準備も万全とは程遠い。


 ならば――暗黒騎士の禁忌スキルを使うしかなかった。


『《《以前とは違う》》、なんだこの力は――?』


 俺が立っていた場所には、黒い影だけが染みのように残っている。

 説明してやる義理はない。


 赤黒い鎧が、音もなく俺の身体を覆っていく。

 鉄と血を溶かしたかのような質感。

 手を差し伸べると、大地を裂いて巨大な両手剣がせり上がった。


 刃渡りは二メートルを優に超える。

 鎧も剣も鎖に巻かれ、まるで封印の象徴だった。


「封印したまま追い返してやるよ。

 二度とこっちに出てくるなよ――」


 柄を掴んだ瞬間、全身に重みがのしかかる。

 それを力任せに振り抜くと、刃は地を擦り、火花が幾重にも走った。

 最後の一撃が、空気を裂いてバフォメットへ叩きつけられる。


 ――ガキィン!!!


 轟音が響き、閃光が散った。

 剣は逸れたものの、バフォメットの半身を鎖ごと切り裂き、黄金の欠片が宙を舞った。


『……ちぃ。ここまで追い詰められるとはな』


 バフォメットは苦悶に顔を歪めながらも、口元には僅かな笑み。

 その視線は俺ではなく、背後の虚空へと向けられている。


 ――誰かが、ヤツを助けた?


『役に立つ者もいたものだ。

 覚えておけ、老戦士――この借りは必ず返す』


「逃がすか!」


 俺が追撃に踏み込むより早く、闇が裂け、バフォメットの身体を包み込んだ。

 視界を覆う黒霧に呑まれ、気配は一瞬で消える。


 残されたのは、黄金の血痕と、確かな手応えだけ。


「……逃げたか。いや、逃がしたと言うべきか」


 握る剣にまだ熱が宿っている。

 この力なら――必ず討てる。


 そう確信した瞬間、俺は大きく息を吐いた。


+++++++++++++++++++


 ブラッドメイルを解除すると、全身にどっと疲労がのしかかり、そのまま膝をついた。


「……やはり禁忌スキルはまだ不完全か」


 村で使ったときは暴走したが、今回は理性を保てた。

 だが右腕の感覚がない。

 握ってみれば動くので、どうやら代償として感覚だけを奪われたらしい。


 神経は繋がっている。

 時間が経てば戻るはずだ。


 左腕だけで立ち上がり、周囲を見渡す。

 邪教グノーシス教団の隠れ家は崩壊し、壁には大穴が空いている。

 もはや拠点としては使えまい。


「ギリアムさあああん!!!」


 泣きじゃくる声が響き、アイテールが駆け込んできた。

 子犬のような勢いで胸に飛び込んできて、思わず内臓がきしむ。


 ――いててて、これ、内臓もずたずたっぽいな?!


「あ……ありがとう、アイテール。

 連続ヒール、助かった」


「ギ、ギリアムさん、無事ですか、怪我はないですか、どこか痛むところは!?」


「アイテールも治癒術が上達したな。

 さすがはS級クランの一員だ」


 褒めると、普段なら顔を赤らめるはずの彼女は、それどころではない様子で俺の体を支えた。


「そ、そんなことは良いですから、早く戻りましょう。

 血が、止まりません……!」


 俺の体に潜り込むように肩を貸し、出口へと歩き出す。


「あの、それで、あれはいったい何だったんですか。

 ギリアムさん、途中で真赤な鎧に……」


「ああ……暗黒騎士のスキルだ。

 まだ数秒しか持たないから、もっと修業が必要だな」


 上手く歩けない。

 あれ……もしかして片足の感覚も持っていかれてるな。


「診療所へ――あ、でも、メンバーと合流するために、クランハウスで休んだ方が良いでしょうか?」

「そうだな、俺のクランハウスへ向かおう。

 作戦を立て直す。次こそ、バフォメットを逃がさない」


 信者たちは散り、バフォメットも致命傷を負った。

 だがバフォメットは栄養を欲するために信者を動かすはずだ。


 まだ休むわけにはいかない。


「ギリアムさん……」


 アイテールが涙目で俺を見上げる。

 

「もうあの赤い鎧は使わない方が……いえ、使わないでください。

 あれは、良くないものです」


「……考えておく」


 そう答えると、彼女は頬を膨らませて抗議する。


「ダメです。暗黒騎士は息の合った専属の治癒師がいないと危険なんですよ?!

 なのに、独断であんな無茶をして……!」


「あー……そうだアイテール。

 俺のクランに向かうなら、ちょっと頼みがあってな」


「……なんですか?」


「実は俺、今は治癒師で通ってるんだ。

 話を合わせてもらえると助かる」


「え、ど、どうしてですか。

 あんなにみんなを守ってくれた職なのに……」


「歩きながら話そう。追放されてから今日までのことをな」


 ぽつぽつと語り始めると、アイテールは黙って耳を傾けた。

 時折、涙を流し、鼻をすする。その手は俺を支える力を強めていた。


 水路を抜け、街へとたどり着いたころ。

 東の空に朝焼けが差し込み、夜明けが訪れた。

【カクヨム】

https://kakuyomu.jp/works/16818093086666246290

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