第15話 ギリアムの手料理
鍋の中ではキャベツや玉ねぎ、ニンジンにジャガイモがぐつぐつと踊り、ソーセージやキノコ、ブロッコリーまでが音楽隊のように蓋を小刻みに震わせていた。
肉と香味野菜を煮込んだブイヨンが、濃厚な香りを辺りに満たす。
食欲をくすぐる温かな匂いは、朝の空腹にはあまりに刺激が強い。
テーブルの上では、石窯で焼いたバター香るパンが編み籠に盛られ、まだ湯気を立てている。
――ぐうぅ。
俺が振り返ると、座って待っていたアイリスが顔を真っ赤にして俯いた。
「今、運ぶからな」
「うう……は、恥ずかしい」
「朝からあれだけ動けば腹も空くさ」
ポトフを器によそい、リリィと並んでテーブルに置いていく。
「ユウヒ、一緒に朝食はどうだ」
「……陰に潜む者を、誘ってくれるの?」
音もなく影から姿を現したかと思えば、彼女は目を輝かせて椅子に腰を下ろした。
「人の作った料理なんて、三百年ぶり」
「今まで何を食べてたんだ……」
「魚、山菜、猪」
「……狩猟生活かよ」
さすがはダークエルフ。
森での暮らしに慣れているからこそ、何百年もクランハウスを維持し続けられたのだろう。
「でも今日は、大好きなマスターの手料理……」
もじもじと頬を染めるのは、さすがに早すぎじゃないか。
惚れっぽいにも程がある。
呆れながらも、最後の皿を並べて皆に勧める。
各々が手を組み、簡単な祈りを捧げ、朝食が始まった。
「……美味しい。
ギリアム様、お料理まで出来たのですね」
リリィが目を丸くして口元を押さえる。
メイドの彼女を驚かせたのなら、これ以上ない褒め言葉だ。
「料理を振る舞うことも多かったからな。
口に合ったなら嬉しいよ」
アイリスに至っては、リスのように頬いっぱいにパンを詰め込んでいる。
味を聞くまでもないだろう。
ちなみに剣聖リンナがアイリスの内に潜んでいることは、リリィが説明してくれた。
だがアイリスは特に混乱もなく受け入れていた。
一つの身体に二つの魂。
互いに、なんとなく事情は察していたのかもしれない。
「さて、食べながらでいいから耳を貸してくれ。
クランハウスも手に入ったし、これからの方針だが――」
ポトフを頬張りながら小さく唸るリリィ。
パンを割って両手に持つアイリス。
ユウヒはパンを真剣な顔でスープに浸している。
「財政状況は芳しくない。
だから、まずはクエストを受けてクランを拡大していこう」
「そうですね。
できれば財務担当も欲しいところです」
「だな、非戦闘職も雇っていきたい」
財務に生産職。
仲間に迎えたい人材は多い。
大きなクエストをこなせば金銭面も潤うし、夢は広がるばかりだ。
――俺が憧れるSSS級クラン『クロノ・クロノス』のように。
あんな大きなクランになれたら、どれほど嬉しいだろう。
「だから、朝食が終わったらギルドカウンターに向かうぞ」
「了解です」
「わふぁっふぁ!(分かった!)」
「承知」
それぞれが頷いたとき、アイリスが「あっ」と声をあげた。
「朝食に……デ、デザートはあるかな!?」
「アイリス様、普段の二倍は召し上がっていますが……」
リリィが呆れ顔で口を挟む。
さすがに体調管理を気にしているらしい。
「ち、違うのリリィ。
中のリンナがね、もっと食べろって……ね?」
「……アイリスは、あと三倍くらい食べてもいい」
静かにパンを口へ運んでいたユウヒがそう告げた。
「生前のリンナ様はすごかった」
なるほど、あの剣技は健康的で栄養ある食事から生まれたのかもしれない。
と、俺が納得してたら、アイリスは、自分の胸や太ももを見下ろし――。
「……うう。
ギリアムおじ様、お代わりください!
さっきの三倍で、いや四倍で!」
「む、無理するなよ」
そう言いつつも、ポトフを多めによそい、デザートにリンゴを添える。
何が凄かったのか、勘違いしているようだが、食欲旺盛なのは良いことだ。
――S級クラン『クロノ・クロノス』のハウスを守り続けてきたユウヒが加わり、どうなるかと思ったが、案外うまくやれそうだ。
笑い合う3人娘を見ながら、気づけば俺の頬も自然と緩んでいた。
【カクヨム】
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