第六話:優しい侍女頭
ある夜、リゼットの予知夢の能力について考えながら、イヴェットは過去を思い出していた。
それは、彼女がまだ幼いリゼットの侍女になったばかりの頃のことだった。
「イヴェット……怖い」
リゼットは、怯えた様子で目を覚まし、ベッドの上で震えていた。
彼女は、王宮の他の子供たちとは違い、いつも一人でいることが多かった。
彼女の予知夢の能力が、周囲に不気味な噂を広め、彼女を孤立させていたからだ。
「大丈夫でございます、リゼット様。私がそばにおります」
イヴェットは、リゼットの小さな手を握り、優しく語りかけた。
彼女がリゼットの侍女になったのは、ヴァルガスとの裏取引のため。没落した家を再興するため、リゼットの予知夢の情報をヴァルガスに流すことが、彼女に課せられた使命だった。
だが、幼いリゼットは、そんな打算的な思いを持つイヴェットに、何の疑いもなく慕ってきた。
「イヴェットは、私を嫌いにならない?」
「どうしてです?」
「私、変な夢ばかり見るから……」
リゼットは、そう言って涙を流した。
その涙を見たとき、イヴェットの心は、初めて打算ではない、本物の感情で揺さぶられた。
「リゼット様は、決して変などではございません。その予知夢は、リゼット様だけの、特別な力です」
イヴェットは、リゼットを優しく抱きしめた。
その瞬間、彼女は、自分がどれほど冷酷な人間であるかを痛感した。
「家名」という重圧。ヴァルガスからの命令。
それが、イヴェットの心に重くのしかかる。
彼女は、リゼットの純粋な心を利用し、裏切らなければならない。
その事実に、彼女は、静かに涙を流すことしかできなかった。
(ごめんなさい、リゼット様……)
イヴェットは、その時のリゼットの温もりを、決して忘れることはなかった。
しかし、その温かさこそが、彼女の罪悪感を増幅させ、彼女を裏切りの道へと駆り立てる、大きな要因となることも、彼女はまだ知らない。




