第五話:記憶の欠片
その日の夕刻、リゼットとディオンは王宮の庭を散策していた。
まだ幼かった弟王子エリックが、庭に咲く花を摘んでリゼットに手渡した、平和な日常だった。
その瞬間、リゼットは予知夢を見た。
それは、庭の木々に隠れる複数の影と、鋭く光る刃だった。エリックを狙う、暗殺者たちの姿だった。
「だめ! エリック!」
リゼットの叫び声に、暗殺者たちは一斉にエリックへと襲いかかった。
だが、その一瞬の出来事を、ディオンは反射的に察知した。
彼は、リゼットとエリックを庇うように、自分の身体を盾にした。
ディオンの剣が、暗殺者たちを切り裂く。
だが、その一人から放たれた毒を塗られた短剣が、ディオンの頭部に深々と突き刺さった。
「ディオン!」
リゼットの悲鳴が、庭に響き渡った。
「リゼット様……お逃げください……!」
ディオンは、血に染まった剣を握りしめたまま、その場に倒れ伏した。
彼の瞳は、リゼットの姿を追うように、ゆっくりと閉じていった。
その事件の後、ディオンは命を取り留めたものの、頭部の傷が原因で、過去の記憶をすべて失ってしまった。
その日から、ディオンはリゼットを「守るべき唯一の存在」として認識するようになった。
彼にとって、リゼットを守ることが、彼の存在意義そのものになったのだ。
しかし、その記憶を失うきっかけを作ってしまったのは、自分自身。
リゼットは、その事実に深く苦しみ、ディオンに強く当たることができなかった。
ディオンの記憶が失われたこと。
そして、その原因が、自分の予知夢にあること。
それが、リゼットが抱える、拭い去ることのできない罪悪感だった。




