第二十三話:騎士団長の壁
ディオンの全速力での突入は、地下通路の終端、広大な空間へと続く扉の前で、冷徹に止められた。そこに立っていたのは、一分の隙もない鎧をまとい、剣を構えたアルフレッド・ハワードだった。
「ディオン、そこから動くな」
アルフレッドの声は低く、感情を押し殺していた。その瞳に、かつての師としての優しさは微塵もない。彼は、ゾラが儀式を完了するまでの時間稼ぎ、そしてディオンの信念を打ち砕く最後の壁として立ちはだかった。
ディオンの剣が、鋭い音を立てて鞘から抜き放たれる。
「アルフレッド、あなたの『大義』は、リゼット様を犠牲にする言い訳にすぎない。道を開けろ!」
「黙れ!」アルフレッドは剣を構えた。「お前の浅はかな行動が、ヴァルガスとの同盟、そしてこの国の未来を潰す! 私は、この国の秩序と安寧のために、お前を止める!」
「秩序だと!」ディオンの無表情な顔に、初めて怒りの色が浮かんだ。「秩序とは、守るべき人々があって初めて成り立つものだ! あなたはそれを踏みにじった!」
二人の剣が激しく衝突した。キンッ!キンッ! 地下通路に騎士の剣戟が響き渡り、火花が暗闇を切り裂く。アルフレッドの剣術は、ディオンに教え込んだものだ。すべての動き、すべての型が、ディオンの体に染み付いている。
しかし、ディオンの剣には、アルフレッドの剣にはない熱量があった。それは、リゼットへの揺るぎない愛と、彼女を救うという強い意志。師の教えを忠実に守るのではなく、愛する者を守るために、ディオンは師の剣術を、自らのものとして昇華させていく。
ディオンは、アルフレッドの得意とする致命的な一撃を、予測を超えた身体能力と、リゼットから与えられた「守る力」の意志で打ち破った。
ギィン!
激しい一撃が交錯し、アルフレッドの剣が弾き飛ばされ、壁に突き刺さった。アルフレッドは、膝をつき、信じられないという表情でディオンを見上げる。
「まさか……お前が……私を越えるとは」
ディオンは、師に背を向けたまま、折れた剣先を地面に向け、静かに告げた。
「俺は、あなたの教えを忘れてはいません。ですが、俺の忠誠は、王女の命にあります」
ディオンは、師との決着に時間を割くことなく、リゼットの悲鳴が聞こえた大広間の扉を蹴破った。その先には、青い光を放つ魔法陣と、真のヴィランの姿があった。




