第十二話:悪夢の余波
エリック王子の誕生日パーティーは、誰もが予想しなかった形で幕を閉じた。
事件の後、リゼットは自室に戻り、一人静かに膝を抱えていた。また夢が現実になってしまった。予知夢が、愛する弟を危険に晒したのだ。その事実に、彼女の心は深く傷つき、絶望に打ちひしがれていた。
「また…私のせいで…」
しかし、今回の予知夢は、最悪の結果は回避された。ディオンが、毒が仕込まれたケーキを阻止してくれたからだ。彼の無表情な顔が、脳裏に浮かぶ。
(ディオンは…どうして危険を察知できたのだろうか)
彼女の胸には、安堵と同時に、新たな疑問が浮かんでいた。
その日、王宮内は犯人探しの騒動で持ちきりだった。近衛兵団が、厳戒態勢のもと、捜査を進めている。リゼットも、その真相を知りたいと強く願っていた。しかし、彼女は王女という立場上、直接捜査に乗り出すことはできなかった。
そのことに、リゼットは歯がゆい思いを抱いていた。
「王女様、あまりお気になさらないでください」
紅茶を運んできたイヴェットが、優しい声で囁いた。
「ですが、イヴェット。犯人が誰なのか、知りたいのです」
リゼットは、イヴェットにそう訴えかけた。すると、イヴェットは、悲しげな表情を浮かべた。
「お気持ちはわかります。ですが、王女様。そのお力は、決して安易に使うべきではございません。その力に、王女様ご自身が、傷つけられてしまう」
イヴェットは、そう言って、リゼットの予知夢の能力を、再び「呪い」であるかのように語った。その言葉は、リゼットの心を揺さぶり、彼女を、犯人探しから遠ざけていった。
イヴェットの言葉は、リゼットを心配する優しい言葉のように聞こえた。しかし、それは、彼女の正体を知るイヴェットによる、巧妙な妨害だった。
また同時に王宮内は厳戒態勢が敷かれ、犯人探しが始まった。陣頭指揮を執るのは、近衛兵団長のアルフレッド・ハワードだった。
彼は、事件の重大性から、外部の関与を強く主張し、内部の人間である料理人や使用人への疑いを晴らすべく動いた。合わせて、事件の証拠が外部に流出することがないよう、最新の注意を払った。
王太子毒殺未遂事件の現場にあった毒、そしてディオンが切り裂いた毒の飾りを部下たちに命じて、即座に回収させた。その成分の解析は魔法省に任されたが、なぜかアルフレッドがその場に立ち会うことになった。また、関係者である厨房の料理人や会場にいた使用人たちに、厳重な口封じを命じた。彼らは何も知らなかったのだと、強く言い聞かせたのだ。
ディオンは、アルフレッドの動向に不信を抱き、事件の真相を突き止めるため、騎士団を離れ、単独で捜査しようとした。しかし、それを妨害するかのように、アルフレッドは「これ以上危険にさらしてはいけない」という名目で、王太子と王女の護衛を命じた。
ディオンが単独行動を取ろうとするたびに、彼に良くない噂が飛び交うようになる。
「王女への過剰な忠誠心から単独行動を行い、事件の捜査を撹乱しているぞ」
「あのパーティーでの行動は、自作自演だったから、毒だと分かったんじゃないか」
誰が発端なのか、噂は王宮中に瞬く間に広まっていった。ディオンは、真相を知る唯一の人物でありながら、誰にも信じてもらえず、孤立していくことになった。




