〜堕ちし王子〜
人というのは騒音がある中で、慣れてくるとずっと眠ることが出来る。しかし、その騒音が消えると違和感で飛び起きるのだ。
そう彼は、レイグスはその現象で飛び起きた。
「······、」
しばらく思考能力の低下の後。徐々に記憶と意識がしっかりしてくる。
「みんな······ッッ!?」
立ち上がろうとして、体が打ち付けられる。どうやら、木の枝で引っかかっていたようだが、体を過剰に動かしたせいで、落ちてしまったようだった。
「くっ、早く行かないとっ」
とはいえ、体を打ちつけられた痛み、無理に意識を奪われたせいで万全ではない脳機能。だが、そんな関係ない。動きづらい体を無理矢理起こす。
「なんだ、この生臭い匂い」
と王国の外壁の外まで投げられていたらしい。思ったよりも端っこの方で事件が起きてたんだな、と少し楽観的な感想を思う。
手から炎を出して、外壁を飛び越え、中に入る。
「あっ······?」
と疑問が浮かぶ。
というよりもそう思わざるを得なかった。
レイグスの目に映ったのは。
木の柱が3本立ててあり、それにそれぞれイジス、ディーズル、マリアーナの首が額に刺さった釘で留められていた。
なぜ、胴体と顔が切り離されている? そして、なぜこんなにも喫茶店のような静けさが包んでいる?
「······、」
レイグスは知らない内に若干のふらつている足で、磔られた家族のもとへ向かう。
「·····っ、父様。母様······っ」
唇を噛む。涙を流す。縋り付く体もなく、磔の木の柱にもたれかかる。
「······?」
遠い場所から和気あいあいとした声が聞こえてくる。
その場所へコソコソと歩み寄るに連れて、生臭さが増していく。悪い予感が全身に駆け抜けた。
瓦礫の山に隠れて、匂いの漂う場所に視線を向ける。その先には、鍋のようなものの周りを人々が囲っていた。
それをスプーンですくったものを、フォークで刺した物を凝視してみると、だ。
人の指だった。目玉だった。
心臓。肝臓、膵臓。大腸、小腸。人の内臓が煮込まれていた。
「······うおぇ······ッ!?」
と胃がひっくり返るほど胃酸が噴き出した。一周回って、叫ぶことすらレイグスの身体は拒否した。
そして、再度だ。再度、目を向ける。
鍋にばかり目線を向けていた。が、その奥で炊飯を炊いている羽根の付いた仮面に、黒と白の混じった羽衣を着込んだ長身の人物であった。
「あの仮面の奇天烈人間、さっきまでは居なかったぞ。まさか、あいつが?」
そう顎に手をやって呟いて、顔を再び上げると、だ。そこには仮面をした奇天烈人間が口を裂くように笑みを浮かべて居たのだ。
「~~~ッッッ!! !? ??」
反射的に蹴りを食らわせる。
だが、相手は無抵抗で蹴られた。
そして、
「居たぞ!! 大量虐殺者の家族だ!! 穢れた人間の血だ!! こんなヤツを許すつもりかぁッ!?」
とみんなに聞こえるように叫んだのだ。その顔には面白そうに、笑みが顔が張り付いてた。
レイグスが目を向けると、そこにはまるで獲物を獣のような顔をして、荒い息を吐いてる集団が、こちらに飛びかかってきていた。
『ぐるァァァァ!! !!』
それをレイグスは飛び上がって避ける。
「何のためにこんなことを!! あがっ!?」
飛び上がったのも束の間。身体強化的な何かでも付与されているのか、数メートル上まで飛びかかってくる。
その張り付くために爪が鋭く鉤爪のようになっていた。それが、体を突き刺す。
それにより、ドンッ、と地上へと突き落とされる。その音と同時に何人ものニンゲンが襲いかかる。
「やめ、······ろォォォォォォォォ!!!!」
と大剣で鍛えられた振り抜く力で思い切り大回転する。
その体中は血だらけになってる。ポツポツと小さな穴が空いてる。爪で突かれた痕だ。
その満身創痍に近い体にニンゲンが飛びかかる。
それを近くにあった捨てられた剣を使って、薙ぎ払う。
薙ぎ払う。薙ぎ払う。薙ぎ払って、また薙ぎ払う。
その先に、仮面の奇天烈クソ野郎がいた。
「てめぇ、今すぐにでもそっちに行ってやる、待ってろよ」
今、この場で起きてる惨状を見て、怒りを通り越して、無感情に近くなってしまった。
「かっ、カッカッカッ!!」
しかし、仮面クソ野郎はそのレイグスを見て、嬉しがっていた。
「『獅戎眼』か!! まさか、こんなところにも眠っていたとは!! 計画とは外れてしまったが、これはこれで楽しめそうだァ!!」
彼の眼は紫色のアメジストのような色になっていた。
「だが、妙だな。歴代の『獅戎眼』の持ち主は紫の眼しか持っていなかったというが。魯鈍、貴様どうもそれとは違うみたいだな」
顎に手を当てる。
「何をブツブツと······」
とレイグスが言いかけて、
「自覚はない、か。まあ良い」
と顎を押さえる仮面に殴りかかる。
「考え事してるんだから、手を出すんじゃねぇよ」
と顔を若干歪めて、手を手刀の形にして、肩の辺りを貫く。
「がっッ!!?」
肩を押さえて、崩れる。
「やべっ、やりすぎた」
軽い調子で言う。
「どちらにせよ、魯鈍。貴様は楽しめるほどじゃないな。殺し甲斐もない。まだ、父様と母様の方が楽しめた」
レイグスはその言葉を聞いて、せめてもの抵抗をしようとして、力が全部抜ける。
視界が狭窄する。
狭まる。
「テメェはぜってぇ、ころ、し······る」
最後に仮面は笑って、
「じゃあねー♪」
意識が暗転する瀬戸際で、彼は落下する感覚を味わった。
80年代、90年代とかのテンポのいい作品目指してます。