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国とかもう、いらなくね?~フェイクニュースとハッキングで国境を無くす簡単なお仕事~  作者: 陽々陽


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003_実施計画の共有、今度こそ

 翌日、二人は再び視聴覚準備室に集まる。


リン「改めて、説明する、です」


 リンはノートパソコンを広げた。


 そこにはもう、あらかじめ下のように入力されていた。


●第1段階

 1. 資金調達

 2. 発信力強化

 3. 第2段階で使える切り札探し


アカネ「おー、ぽい」


 アカネは手を叩いた。その顔には、嬉しくて仕方がないとでも言いたげに、押さえ切れないニマニマの笑みが浮かんでいる。


リン「ちゃんと聞くです」


 リンは髪を耳にかけた。昨日はちゃんと風呂に入って、朝シャワーも浴びてきた。


リン「1は二人でやる、です」


アカネ「バイト?」


リン「全然足りないです。遊びじゃないので」


 遊びじゃない、という言葉を聞いて、アカネは心底嬉しそうな笑みを浮かべた。


リン「基本的には株の空売りで利益出すです」


アカネ「から……売り?」


 リンはパソコン上で別のアプリケーションを起動し、そこに「株の空売りについて教えて」と打ち込んだ。


 AIチャットは5秒ほど待機して、空売りについての講釈を始めた。


リン「要するに、これから評価が下がる企業の株を借りて売って、下がった後で買って返す、です。下がった分利益になるです」


アカネ「へえ……でもそれって、上がったら損するじゃん。どうやって下がる企業を選ぶの?」


リン「ボクがコンピュータウィルス仕込む、です」


 アカネは突然出てきた物騒な単語にぎょっとしてリンの横顔を見た。


リン「顧客情報流出して謝罪、とかよくあるじゃないですか。

 実際の顧客情報までは触らなくても、「流出したかも知れない状況」にして、発表させれば勝ちです」


アカネ「マ?」


 本気か、というアカネの問いにリンは顔を向けて小さくうなづいた。アカネが自分の計画を聞き入ってくれている今の状況が嬉しくて、口の端の笑みが抑えきれない。


アカネ「元手は?」


 リンは笑みを引っ込めて目を逸らした。


リン「お年玉が、3……5万くらい……」


 35万ではない。さば読んで5万、実のとこ3万くらいだ。


アカネ「足りねえ!それは足りねえよ、リンちゃん!」


 リンの発言のスケールが急に縮んで、アカネは吹き出した。


リン「そこを、アカネにやってもらいたいん、です……」


アカネ「いいよ、やる!何でも!」


 アカネは、リンの背中を叩いた。


アカネ「わたしは、何すんの?

 動画は収益化まだだけど、すぐバズるからそれ待つ?」


リン「それ待ってたら、おばあちゃんになるです」


アカネ「言うねえ、リンちゃん……こっちは知ってんのよ?

 リンちゃんにフィッシングメールもらう数日前から、一人で動画見まくってるヘビロテファンがついたの……」


 リンは赤面しそうな顔を振った。


アカネ「登録者数二桁なめんなよ?こっちは再生数の動きにビンカンだぜ?」


リン「と、に、か、く!最低、100万くらいは元手に欲しいです」


アカネ「おっけ、おっけ。売りでも何でもやって、集めてやんよ」


 予想外のアカネの言葉に、リンは心底驚いた。


リン「だ、だめなのです!

 そんなの!冗談でも、言っちゃ、ダメなの……です」


 必死の表情のリンを見て、アカネは息をついた。


アカネ「ま、別に冗談のつもりでも、なかったけど……

 分かった。そういうのなしでやる」


リン「絶対、です」


 アカネは苦笑いした。


アカネ「まー、普通にバイトしてっから、40万くらいはあるし。

 ダチから借りりゃ、すぐ行けるかも」


 バイトもダチにもとんと縁の無いリンは、ギャルとの金銭感覚の違いに、目を丸くした。


リン「こほん……

 じゃあ、続いて2、です」


 気を取り直すためにわざとらしい咳払いをして、リンは次の議題に移った。


アカネ「発信力強化?」


リン「アカネのチャンネル、デマゴーグを社会現象の起点になれるレベルまで大きくするです。

 これは当然、アカネ中心で進めるです」


アカネ「……いや、それができれば苦労ないんだけどさ」


 リンは拳を握って力説した。


リン「今の週1ペースを週2に上げれば、絶対、なのです!」


 突然、リンの計画が酔ったみたいに楽天的に浮かれ上がり、アカネは頭を抱えた。


アカネ「もー、だから素人は……そんなに簡単にはいかなくてね、」


リン「絶対!なの!です!」


 アカネは気がついた。酔ったみたい、じゃない、この子は酔っ払っているのだ。わたし、に……


 リンは強い口調で、アカネの動画がいかに素晴らしいかを語り始めた。


 アカネは恥ずかしさ8割、うれしさ2割で赤面した。


アカネ「ちょ、ちょちょちょ、ちょい待ち」


 神に愛された才能を世界が見つけるには……とか言い出したリンの高説を、アカネはやっとの思いで遮った。


アカネ「落ち着いて、ステイ、ステイ」


 リンは一瞬で我に返り、アカネの倍、赤くなった。


リン「ま、まあ?ア、アカネの動画とか?ボ、ボクあんまりちゃんとみてないっていうか、です、ちらっとたまたま目に入ったくらいというか、その……」


 リンの無理がある照れ隠しを遮り、アカネは聞いた。


アカネ「わたし中心ってことは、リンもなんかすんの?」


リン「ボクがやるのは大したことじゃない、です。

 ボット作ったり、スクリプト組んだりして、登録者増やすくらいで……」


アカネ「ダメ。そんなのすぐにバンされるっつーの」


 リンは少し、キョトンとしたが、すぐに重要な箇所を省略してしまっていたことに気がついた。


リン「ボクが作るのは、動画サイトじゃなくて、別のSNSツールのボットとかスクリプト、です。

 当たり障りのない内容をランダムで投稿して、10人くらいフォローして、その10人にいいねとリツイートを繰り返して、たまーにデマゴーグの宣伝するような感じ、です。

 そんなアカウントを1万個くらい……」


アカネ「ヤバ」


リン「律儀な人なら、デマゴーグ見に来るだけじゃなくて、宣伝もしてくれそう、です。

 もしバンされても何度でも作り直す、です」


アカネ「おおぅ……」


リン「あ、フォローするのは、フォロワー少な目で、リアクションに飢えてる人の方が良いかもですね」


アカネ「よくもまあ、そんなセコイ手を……」


 アカネは呆れた反面、可能性も感じていた。

 10万人の隣に入り込み宣伝を繰り返す広告塔……それは巨額の費用をかけた広告を凌駕する効果を生み出すのではないか。


アカネ「分かった。わたしは投稿回数増やす。

 週2回と言わず、3回。ピンポイントニュース解説みたいなショートもやってみたかったし、毎日、何かしら上げる感じにしたい」


 リンの顔がパッと明るくなった。


 絶対、ファン目線で喜んでるやん、とアカネは心の中でつっこんだ。


リン「3はボクがやるです。

 具体的にはもっと詰めるですが、いろんなとこにマルウェアばらまくです。

 それで、影響力のある人間のパソコンを乗っ取れる状況を作りたい、です」


アカネ「で、この第一段階が達成できたら、第二段階?」


リン「です」


アカネ「第二段階は何する?」


リン「日本を、財政破綻させるです」


 アカネは思わず、リンを抱き寄せた。顔を近くで見ようとして、勢い余った結果、額と額がぶつかった。


アカネ「あんた、マジ最高だわ」

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