002_実施計画の共有、未遂
それから3日間、リンは学校の授業を欠席した。
アカネはそりゃそうか、とため息をついた。
あれだけ脅したのだ。もとから気弱そうな子だった。もう登校できないかも知れない。
パソコンもスマホも初期化して、悪さをするソフトは全て削除した。向こうからこれ以上関わってこなければ、これ以上関わることもないだろう。
そう思っていた。
だから、欠席3日目、授業終了後にノートパソコンを抱えて教室に駆け込んできたリンを見て、あっけにとられた。
息も絶え絶えに、アカネに近づく。
リン「ちょっと、話……せる……ですか」
リンの髪はボサボサだった。目も充血して、ギラギラしていた。
アカネ「ちょ、アンタ大丈夫?」
リンは人が少なくなった教室内を見回して、アカネにだけ聞こえる声で伝えた。
リン「あれから、寝ずに計画立ててた……です」
アカネ「……マ?ヤバ」
アカネは驚いたが、心のどこかで抱えていた釈然としない思いが霧散したような気もした。
直感は間違っていなかった。そんな気がした。
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リン「まずやることは3つ、です」
リンはノートパソコンのモニタに大きく「1.」と表示した。
アカネはリンの肩越しにモニタを眺めている。
二人は前回に引き続き、視聴覚準備室に来ていた。ほぼ使われていないこの教室はヒミツの話にはもってこいだった。
リン「資金調達、です。長期的に活動するためには絶対必要になる、です」
モニタに「1.資金調達」と打ち込みながら、リンは言葉を続けた。
リン「具体的な方法は、ボクに考えがある、です。後でまとめて言うです」
アカネ「リンちゃんって、ボクっ娘だったんね」
アカネの言葉に、リンは顔が赤らむのを感じた。
リンにとって、素でアカネと接することは非常に困難なことだった。
キャラを立てて、演じながらでもないと、まともにアカネと会話すらままならないだろう。そう思っての口調だった。
アカネ「いーじゃん。かーいー」
アカネに褒められ、ますますリンの顔が赤くなる。
リン「別に、そんなのどっちでも良い……です」
アカネはリンの頭に手を置いた。そして、髪をなでるとも手ぐしで整えるともどちらとも言えるような手つきで触り始めた。
アカネ「そのですです口調も、わたし的にはアリめ」
リンがアカネに伝えることはないだろう。どもって言葉がつっかかっているのを誤魔化すため、無理に「です」をくっつけていることは。
アカネ「でも髪はちゃんと整えたほうが良いよ。染めてパサパサのわたしと違って、黒くてツヤツヤの……」
リン「……お風呂、入ってない、です……3日くらい……」
アカネ「油かい!」
アカネは弾かれるように手をリンの頭から離した。
リンはさらに赤くなり、ポケットからヨレヨレのハンカチを差し出した。おそらく、これも3日前から洗っていない。
アカネ「大丈夫。ウェットティッシュあっから……」
アカネは、カバンから取り出したウェットティッシュで手を拭こうとして、手を止めた。
じっと手を見つめる。
アカネ「なんか、絶対くさいって思っても、匂い嗅いでみたいって思うとき、ない?」
リン「~~~~~~」
リンは耐えかねて、手をブンブン振り回した。もう恥ずかしさが許容値を超えている。
アカネ「あはは。ごめんごめん。
……わたし、多分浮かれてる」
アカネはリンの肩を引き寄せるようにして、自分の頭をリンの頭に押し当てた。
アカネ「相棒できた。ちょー嬉しー」
恥ずかしさだけじゃない、いろいろな感情が許容値を超えて、リンは顔を両手で隠した。
リン「……もう……ムリぃ……」
リンはその日、何もしゃべれなくなって、計画の発表は、後日に持ち越されることになった。