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ヴィルディステの物語  作者: あるかな
【第二章】

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2‐11‐4 既に雪景色では

 

 夜、久しぶりにセラスが部屋へ来てくれた。

 収穫祭から戻った後、セラスはとても忙しかったようであまりゆっくりと話す機会をもてないでいた。


「ナギ、最近はどう?」


「ん...... 普通かな?」


「何それ、ナギったら」


 今日はセラスが収穫祭で回った村で手に入れた珍しいお茶を持っての来訪だ。故にそのお茶を早速入れて、二人で静かに味わっているところである。


「セラスこそ、収穫祭は大変だったんだよね? 予定が伸びての帰還だもの」


「う~ん、そうね。大変だったけど、アースター様がいろいろ気を配ってくれたから大丈夫だったかしら」


「何があったの?」


「ごめんね。緘口令が出ていて細かいことは言えないの。でも、ほんとにアースター様にいろいろ助けてもらったから」


「アースター様って、帰還時に声を掛けてくれたあの神官様だよね?」


「そうそう。気配りもできて、あの若さで副神官長をまかされているのよね。巡回の班員内では一番魔力と技量があって、実際大活躍だったわ。なのにどうしてかわたしに親切にしてくださって......」


 セラスは緘口令が出ていると言ったが、今の発言は十分何があったかを推測させるものではとナギサは考える。魔力も技量もあり大活躍とは、そういうことが確認できる事象があったということだ。それはかなり危険なことであったはず。先日の《女神》やクラーヴィア達との話から推測すれば、恐らく浄化や解呪が必要な何かがあったのだろう。


 だが、大変なことがあったと言う割にセラスの表情は明るい。特にアースターのことを口にする時は。


「セラス、アースター様のことが好きなの?」


「──! 何を...... 憧れてはいるけど......」

 頬を染め、薄青の瞳をそっと伏せるセラスが妙に乙女に見えてきた。




「ああ、そういえば。以前セラスが言っていたとおりだった。神様ってほんとに人界にいるんだね」


 自身で振っておいてなんではあるが、恋バナは苦手。ナギサは妙な間に耐えかねて話題を変える。


「何方かにお会いできたの?」


「ん、ウーラニア様。薬草園で偶然」

 流石に歌を歌っていたことは恥ずかしくて言えないので、そこはぼやかしてセラスにその時のことを話す。


「ウーラニア様か。お優しい方よね。いろいろと助言をくださるからとても助かったりするわ」


 セラスも面識があるのか、何か思い出すかのような表情でウーラニアについて話してくれる。星学せいがくの神で、神託を授けてくれることもある。星を視る力で予知めいたことを告げることもあるらしい。

 だが、このような神様らしい面を見せることはまれで、普段は気安く話せる先輩神官といった雰囲気だそうだ。大神殿内で見かけるよりも街中で見かけることが多いという。


「なんだか神様っぽくない......」


「あら、他の神様もそんな感じよ。《女神》様は一度もお会いしたことがないから、雰囲気はわからないけど。ミラクルゥム様も似た感じね。というかもっとサバサバした女神様よね、うん」


「ミラクルゥム様?」

 確か講義で魔法に秀でた神と習った。いやそれよりも、最近どこかで聞いた記憶がある。どこでだったか......


「あら講義で習わなかった? それとも忘れてしまったかしら。魔術を司っていらっしゃるわ」


「ぁあ、思い出した!」

 そう、先日マグナルバが口にしていた女神の名前だ。確かこの女神から“寵愛”を受けていると話していたはず。


 突然の大声にセラスが瞳を大きく見開き、茶器を手に固まっている。


「なに? ナギ、どうしたの?」


「大声を出してごめんなさい。ねぇセラス。わたし、ウーラニア様から盗聴防止の呪文を教えてもらったの。こういうことってよくあるの? 今の話だとウーラニア様は別に魔術の神ではないんだよね?」


「あら素敵。神様から直接教えていただけるなんて。頻繁にはないけどたまに聞くわね。得手不得手はあるらしいけど、ミラクルゥム様以外の神から魔法を伝授される話は普通に聞くわよ。どちらかというと、ミラクルゥム様から、っていうほうが滅多に聞かないかな」


 突然の話題の切り替わりに戸惑いながらもセラスはナギサの質問に答えてくれる。なんでもミラクルゥムは魔術の神というわりには魔術についてあまり相談に乗ってくれることがない。では取っ付きにくい神なのかと言えばそうでもなく、どちらかというと非常にさっぱりした性格で、知らなければ頼れる年上のお姉さん、といった雰囲気だという。街で見かける姿も神官姿ではなく、街の一般女性と変わりがないため、名乗られないと最初は気づけないらしい。

 ウーラニアは街中、大神殿内、どちらも神官姿が多いので慣れればすぐに気づけるという。もちろんウーラニアも話しやすい神なので、街中ではまわりに人々が集まっていることが多いようだ。



 その後もセラスがこれまで街や大神殿内で見かけたり話したことがある神々について教えてくれた。また、ただ見るだけであれば“年越しの祭り”に大抵何柱かの神がやってくるので、遠くからになるが見ることができるとも教えてくれた。ここ数年はウーラニアとミラクルゥムは顔を出している。他は毎年異なる神々が顔を出すので、神官達はそれはそれで楽しみにしているという。




「セラス、話は変わるけど」


「何かしら? 改まって」


「改まって聞くことでもないのだけど......」


 ナギサはモリスの不機嫌の原因である“12の節から2の節の間”生徒だけで街の外に出れない理由が知りたかった。特にこの学舎寮に入る時の注意事項にもなかったと思う。生徒と言われたので、学舎寮生徒だけでなく、学舎の生徒についてだろうが、市井の者なら出れるのに何故だろうと不思議なのだ。


「単純に危険だからだと聞いているけど。雪の季節は何かあってもすぐに助けにいけないし、そもそも逃げれないでしょ? 若干過保護だとは思うけどね。街の中等部の子供達は制限がないのだから」


「なるほど。でも、雪って、まだ降ってもいないよね?」


 確かに最近は冷え込む。基礎鍛錬や乗馬の講義は屋外なので寒さがかなりこたえている。だが、雪は一度も見ていない。初雪後でもよいのではないかと不思議に思う。


「ああ、それは」

 何故かセラスが頬を緩めた。


「?」


「街全体に結界が張ってあるの。少しだけ寒さと暑さを和らげてくれているのよ」


 国境結界だけでなく、街自体にも結界で覆われていることはナギサも知っている。だがそれは防御結界的なものだと勝手に思い込んでいた。まさか気候を制御するようなものが張ってあるとは。というか、そんなことが出来てしまうこの世界の魔法技術が恐ろしい。


「それに、恐らく、だけど、もう街の外は雪景色だと思うわ」





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