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ヴィルディステの物語  作者: あるかな
【第二章】

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93/285

2‐11‐3 拗ねる

 

「ナギサ、少しいいか?」

 講義が終わりカエルと食堂に向かおうとしていると、マグナルバから声が掛かった。カエルの表情がまたもや曇る。


「カエル、悪いけど先に行っていて」

 と一言カエルに声をかけ、ナギサはマグナルバの後に続いた。




 着いた先はマグナルバの執務室。先回までの講義場所だ。

 中に入ると室内が様変わりしていた。

 先回までは教室風に机が並べられていたが、今はいかにも執務室然とした部屋になっている。

 奥の応接室への扉は相変わらず閉じているのでその中は窺えないが、この一週間で奥の部屋がこちらにも浸食してきたかのようだ。つまり、雑多なものに溢れている状態なのである。たった一週間で......


「まぁ、座れ」

 と、簡易な応接用のソファーを勧められた。


「マグナルバ先生、何か?」

「ああ、先日教えた解呪と浄化のことだ。魔導書なしでも問題なく使えそうか?」

「はい。呪文は覚えました。今ここでやってみましょうか?」

「魔力量は問題ないか、と聞くまでもないか。まだまだ余裕そうだな」


 苦笑いしつつマグナルバが小箱を取り出す。


「この中に浄化が必要なものが入っている。蓋を開けると周りが汚染されるので、この箱ごと浄化魔法をかける必要があるのだが。できそうか?」


「実際に試したことがないので自信はありませんが」


 目の前の小箱は一見すると何の変哲もない掌サイズのものだ。だが鑑定をしてみれば「状態:箱内汚染」とある。少し多めに魔力を注げば箱内の汚染されたものを浄化できるのだろうか。


 胸の前に両手を組み合わせ、小箱へ意識を集中させる。呪文をつぶやき小箱へ魔力を注ぐ。小箱自体は浄化の必要はない。故に見た目の変化がわからないが、小箱がぼんやりと輝いているように見える。しばらく魔力を注ぎ続けていると、そのぼんやりとした光が一際明るくなり弾けるような感覚を覚える。


「上等だ」


 どうやら無事浄化できたようだ。マグナルバが小箱から何かを取り出し、ナギサに見せてくれた。


「綺麗......」


 それは美しい石だった。魔石ではなく、普通の石。つるりと卵状のまるみを帯びた形、薄桃色の艶やかな石である。自然にできた形状なのだろうか? コロンとした形も可愛らしく色も好みだ。


「特にいわくがある石ではないのだが、たまたま魔力溜りの近くにあって汚染されてしまった石だ。調査のために持ち帰ったものだ。もう必要がないから浄化しようと考えていたのだが、ちょうどお前の練習用によいと思ってな」


「お気遣いありがとうございます。でも、わたしの練習用に使うより、神官見習いの方々のほうに回したほうがよかったのでは?」


「まぁ、そこはこちらの都合だ。とりあえずお前は問題なさそうだな。その石、随分と気に入ったようだが、欲しければ持っていってもかまわないぞ」


「本当ですか! では遠慮なく」


 マグナルバの用件はナギサが浄化を問題なく使えるかの確認だけだったらしく、そのままナギサはマグナルバの執務室から退出した。




 △▼



 手早く食べれるものを選び、カエル達がいるテーブルへと歩を向ける。

 いつもなら陽気に声をかけてくれるモリスの声がない。

 見ればモリスがひどく不機嫌な様子で、それをカエルが宥めているようだ。


「モリス、どうかしたの?」

 席につきながら問いかけると、

「雪の季節は街の外へ出れないと言われて怒っているの」

 ゴリツィアがㇵの字に眉を下げながら説明してくれる。


 なんでも先週ゴリツィアとウルサスとモリス、この3人で街の外へ素材探しに出たという。

 街のすぐ近くの森にそこそこ薬草が自生していて、これは良い場所を見つけた、今週もまた行こうと話していた。そして、外出の為の足として馬の予約をしておこうと手続きに行ったところ『12の節から2の節が終わるまで、学生のみで街の外へ出ることは許可されないよ』と断られてしまったそうだ。


 モリスとしてはやっと素材集めに希望の光がさしてきたと思った矢先にそれが閉ざされてしまったわけだ。ゴリツィアとウルサスはそこまで錬金に入れ込んでいないので、まぁ雪解けの季節までは仕方がないよね、と素直に納得した。だが、モリスは......


 カエルが必死に機嫌をとっている。対してモリスの雰囲気はかなりのお怒りモードが継続中である。


(あぁぁ、これは当分モリスの機嫌は直らないね)




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