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ヴィルディステの物語  作者: あるかな
【第2章】

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2‐10‐5 苦手な講義

 

 週初はあまりにも情報量が多い一日だったが、その後は普通に日々が流れていく。錬金学に魔法陣学も順調にこなせているし、薬草学も秋冬の薬草をいろいろと学べている。

 自身の中で思い描く“魔女”には程遠いが魔法と錬金に魔法陣、順調に魔女っぽくなっている気がして少し嬉しかったりする。


 そう、順調にこなせている学科はいいのだ。やはり向き不向きというのがあるのでは、と思ってしまうのが“音楽”の講義である。セラスに『とっておくべき』と言われて受講したのだが、これがなかなか手強い。


 週に2回講義があり、声楽と楽器を習っている。この世界で生まれ育ったわけではない為、耳覚えのない音楽を0から覚えることになりかなり苦戦している。そういう意味ではセラスの助言はありがたかったのだが。


 講義では講師が歌ったり演奏したりするものを聞き、楽譜を見ながら歌ったり演奏することになる。なんだろうメロディーラインが微妙に違和感がある。クセが違うといえばいいのか。音階はありがたいことにほぼ同じで、ここは違和感がなくこなせている。


 今は随分慣れたが、声楽では合唱時にナギサだけがずれて悪目立ちすることが多かった。少し慣れたとはいえ、また異なる合唱曲を歌い始めれば最初はきっと同じことになるだろうと、今から既に気分が滅入っているのも事実だ。


 そして楽器である。元の世界では何一つまともに習っていない。授業でハーモニカとリコーダーぐらいか? 一度憧れてアコースティックギターを手にしたことがあるが、弦を抑える指が痛すぎて諦めたという悲しい記憶しかない。


 講義では楽器はいくつか候補があり、好みのものを選ぶことができた。しかも楽器は貸与される。自室ならば防音結界が施されているので練習しほうだいである。

 他の学生達はどうするのかと観察していたら、大半の学生は既に得意楽器があるようで、自前で楽器も用意していた。どうも初等科や自宅で既に習っていたようである。


 ナギサを含めて初めて楽器を手にする者たちは講師である神官にいろいろ尋ねたり試したりしつつ楽器を決めた。笛ならばリコーダーがなんとかなるので横笛をとも考えたのだが、やはり幼少時よりの憧れが表に出てきてしまい、所謂竪琴めいた楽器を選択してしまった。子供用の小さ目なものを貸与されたのだが、憧れで奏でられるわけではない。指が痛い問題はコーマという最強のズルができるので解決できるのだが、どうしても手指が器用に動かない。神官は十分上手く扱えていると褒めてくれるが、絶対にお世辞であろうと少し悲しい気分に毎回なってしまう。


 そして今さっきその講義が終わったところなのだ。

 やはり竪琴は手強いし、慣れぬ歌やメロディーは体にまだ馴染まず、心の中がモゾモゾする。そんな気分をなんとかしようと学舎寮へまっすぐ戻らず寄り道することを決めた。


 一日の講義が終わると既に外は薄暗い。カンテラ片手にナギサは薬草園へとやってきた。

 馴染んだものが懐かしい、歌いたいと思ってしまったのだ。


 元の世界ではそこまで音楽に拘っていたわけでもないし、好きで歌っていたこともない。だが、こちらにきて馴染みがないリズムとメロディーにさらされ続けたせいか少し精神的に疲れてしまっている。別にこちらの世界の歌が嫌いとか苦手というわけではないのだが。


 魔道具の盗聴防止を起動させる。歌声を聞かれることが恥ずかしい以上に、こちらの世界ではまったく馴染みのない歌を聞かれない為に。


 いつものお気に入りのベンチに座り、よく口ずさんでいた歌をうたう。アニメの主題歌だけど、透明感があって歌詞も好き。まだ覚えていて歌える自分に満足しながらもう一度と繰り返し歌う。


 陽も落ちて暗くなった中、カンテラの灯りで歌っているなんて、傍から見たら変な奴だろうなぁと思うが、こんな時間にここに来るような酔狂な学生や神官はいない。この盗聴防止も念のため程度。何度も来ているが、本当に暗くなると大神殿の人達は出歩かない。特に禁止されていないので余計に不思議に思ってしまう。


「あちらの世界ではそういう音楽が流行りなの?」


 !!!


 真横から声がした。


 いつの間にか拳一つほど開けた隣に神官姿の女性が座っていた。

 まったく気配も感じなかったし、同じベンチに人が座った時の振動めいたものもなかった。いや、なかったどころか、今真横にいるはずなのに気配を感じない。本当にここに実在しているのか? と疑いたくなるレベルだ。


「あの、失礼ですが神官様はどちらから?」


「あら、ごめんなさい」


 ぐにゃりと視界が一瞬歪んだような気がする。頭を振って視線を横に戻すと、そこには神官服姿ではなく、キトン姿の女性が座っていた。


(えっ! 寒くないの?)


「っふ。面白い反応ね」


「! すみません。あの、あなたは......」


「わたしはウーラニア。そうね、平たく言えば神々の一柱ね」


 なんの躊躇もなく返されたその言葉に、ナギサは妙に納得してしまう。

 身にまとう純白のキトン自体が神聖さを醸している。ゆるく結い上げた髪は夜空の群青色。ナギサを見つめる双眸は吸い込まれそうな漆黒で。キトンにも勝る肌の白さはこの暗闇に光輝くようである。まさしく女神、元の世界で好んでみていた絵画からそのまま抜け出してきたような雰囲気だ。


 確かに神ならば真横に気配を消して現れることも可能かもしれない。


 神々が人界に気軽に降りてきて、そこらで割と見かけるものだ、と散々聞かされてはいた。だがナギサは今まで一度も見かけたことがない。ましてや真横に現れて声をかけられるなど、どう反応してよいのか......


 反応に困っているナギサを気にすることなくウーラニアは、

「さっきの歌、綺麗な旋律よね。もっと聞きたいわ」と気楽に声を掛けてくる。


 どうすれば? とも一瞬考えるが、素直にもう一度歌い始めた。




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