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ヴィルディステの物語  作者: あるかな
【第二章】

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2‐10‐2 馬のドヤ顔?

 

 今日の講義はこの乗馬が最後。

 練習馬の手入れを終われば丁度時間も講義終了の刻限あたりになるであろうと考える。


 11の節になり乗馬の講義で外へ出ていると、寒さがかなり気になるようになってきた。乗馬の講義は一日の最後の時間帯に設定されている為、講義が終わる時間帯にはかなり冷え込んでくるのだ。


 元の世界であれば厚着をしないと風邪を引きそうな寒さなのだが、この世界ではコーマの技という便利ものがある。気づけば自然に手先足先にと寒さを防ぐようにコーマの技を使っている。


 コーマの技は秀逸だ。慣れてみれば生活魔法と言えばいいのか、自身で気づかないうちに使っている。

 水仕事をするのであれば手指に薄いバリアを張り巡らせているし、重いものを持つのであれば力むより先に筋力補助を自身に施している。こんなに便利なものをこの世界で生まれ育っていて「知らない」などと言われたら、誰もが驚くだろうと今ならすごく納得してしまう。


 とはいえ、コーマの技も魔法である。魔力を消費する。魔力量が少ない人にとってはそこまで気楽に使えるものではない。だがナギサはかなり豊富な魔力を持っている故、自覚がないまま今もコーマを使っていた。


「ナギサ君はとても自然にコーマを使っているね」

 そんなナギサを見ていたファイヌムが話しかけてきた。


「? あっ...... あまりよくないですか?」


「魔力量が多いからいいけど、何かで魔力量が厳しくなった時危険だよ」


「何かとは? ファイヌム様はそのようなことがあったの......」


《いた! ナギサ!!!》


「えっ?」


 突然頭の中に声が響く。


 誰の声なのか。周りを見回してもナギサに声をかけている人は見当たらない。とても喜色に溢れた男性の声なのだが、自身の知り合いで思いつく人もいない。


「ナギサ君、どうしたの?」

 急に言葉を途切らせあたりを見回すナギサにファイヌムが首を傾げる。


「あ、あの...... なんて言っていいのか......」

 ナギサはファイヌムへどう説明すればいいのか、説明するにもあの声は何? と考えがまとまらずワタワタしてしまう。


 ファイヌムはそんなナギサを不思議そうに見ていたが、顔を急に上げると、ある方向見つめた。


「あぁ、クラウスが戻ってきたんだね」


 ファイヌムの言葉に、その視線の先を追えば、遠くから駆けてくる一頭の黒馬が見えた。




《ナギサ! 帰ってきたよ! また、一緒に過ごせるね!》

 再び頭の中に声がする。


(これはひょっとしなくてもクラウス?)


《そうだよ、僕だよ。あるじの加護をもらったんだよね。だったら僕の声も聞こえるはずさ!》



 そうこうしているうちに、クラウスはあっという間にナギサの眼前にいた。そしていつものようにひたすら頭をナギサに摺り寄せてくる。

 いつもと違うのは常に頭の中に響く声があること。

《寂しかったよぉ~》《会いたかったよぉ~》と繰り返しクラウスがうったえてくる。


「クラウス、どうしたの? ねぇ、リュークも一緒だったんだよね。わたしに会えて嬉しいって言ってくれるのは、わたしも嬉しいけど。そんなに大変だったの?」


 クラウスの言葉が頭の中に直接響いてくることに戸惑いが大きく混乱しているのだが、クラウスはそんなナギサを一切気にしていない。グリグリと頭を押し付けてくる。


《ねぇ、主の加護ってどういうこと? どうしてクラウスの声がわたしには聞こえるの?》


《ナギサ、主の加護をもらっているのが見えるから。こないだまではなかったから聞こえなかっただけだよ》


(──神祖契約の時か)

 確か万象の狭間から戻ってくる時、何か主が言っていた。聞き取れなかったし、その後も何か問題があるわけでもなかったのですっかり忘れていた。




「クラウス、ナギサ君を困らせるな」とファイヌムが声をあげる。


《ファイヌム、煩いよぉ。僕はナギサと話しているんだよ。ひょっとして混ぜて欲しい?》


《はぁぁ...... そういうことかぁ...... もうすぐ講義時間も終わるから、それまではナギサ君の邪魔をしないでくれないか》


《意地悪だなぁ》


《いやいや。クラウス、ナギサ君を邪魔すると彼女の成績に影響するから》




(ひょっとして今、ファイヌム様とクラウスって念話で話している??)


 ナギサに対してクラウスの念話が止んだと思ったら、ファイヌムとクラウスが視線を合わせ、若干穏やかではない雰囲気を醸している。クラウスの念話は意図した相手にしか聞こえないのか、今ファイヌムと話している内容はわからない。当然ファイヌムがクラウスに何と言って返しているのかもだ。


 ナギサとしてはますますどうしてよいのかわからなくなり、練習馬の背を撫でながら二人?のやり取りらしきものを見守っていた。


 危惧していたほど時間はかからず二人の会話は終わったようで、クラウスは大人しく練習場から厩舎のほうへ歩き出した。


《ナギサ、後でまたね》と一言残して。



「あのぉ、ファイヌム様......」


「わたしとしては今とても興味深く思っていて、ナギサ君とその話がものすごくしたいのだけど、まずは講義。その子の世話を最後までお願いするよ」

 とてもとても良い笑顔のファイヌムはナギサに一言残して、やはり厩舎のほうへと去っていった。




 置いて行かれた感もあるが、今は講義(実習)中。練習馬に視線を戻し、手入れの続きをと考える。が、なんだかナギサを見つめる視線が気になる。


《ひょっとして、あなたともお話ができたりするの?》


《できないとでも?》

 馬のドヤ顔はわからないが、そんな雰囲気が伝わってくる声音が返ってきた。




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