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ヴィルディステの物語  作者: あるかな
【第二章】

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2‐09‐1 街の収穫祭が近づいて

 

 モリスの化粧水販売計画は、ある意味わたしのせいで棚上げになった。


 だが、彼女はわたしを責めるのではなく、驚くことにトランキリタにそのモヤモヤをぶつけた。トランキリタは元の世界でいうわたしの保護者という立場である。なんとモリスはわたしの街の外への外出許可を出して欲しいと直接交渉に行ってしまったのだ。


 後でその話をモリスから聞き、その後トランキリタと会った時、もうどうしていいのか本当に困ってしまった。


『トランキリタ先生ったら酷いのよ。「許可できません」の繰り返しで理由も教えてくれないんだもの』といきなりモリスから言われた時は血の気が引く思いだった。

 その時はモリスに『外出許可が出ないのは、トランキリタ先生のせいではなくて、わたしが記憶を失っているからで......』と説明を繰り返し、納得させるのにとても苦労した。


 その後は、トランキリタのところへモリスの件で謝罪にと顔を出せば、

『ナギサさん、良い友達ができたようですね。でも、あなたの外出許可はわたしではねぇ、ごめんなさいね』と申し訳なさげな、かつ困った表情をされてしまった。

 こちらもトランキリタが悪いわけではない。友人が大変ご迷惑をおかけしましたとひたすら平謝りだった。


 でも、こんな日常生活が送れている自分自身がとても不思議だ。元の世界では小説やマンガの中でしか見たことがないような友人達との何気ないやり取りを今自分がしているのだ。それがとても新鮮でそして楽しい。

 この姿になって再び学生生活を送らなければならないとわかったとき、元の世界での暗く辛い学生生活が頭に浮かび、暗澹たる気持ちになった。それが実際はこうだ。こんな日常を送れていることが未だに信じられない。


 モリスには申し訳ないのだけど、化粧水の件もなんだかんだとちょっとしたイベントのように感じていたりする。保留状態だけど、わたしが街から出れるようになればイベントが進むんだよね、ってちょっとゲーム感覚もあったりして。

 《女神》に会えていない、ということを考えれば、こんなに浮かれた気分でいてはダメなのかもしれない。

 だけど、それでも少し気分が高揚してしまうのは、大神殿内にも少し街の浮かれた雰囲気が漂っているからかもしれない。




 来週末はここ聖都イスで収穫祭が行われる。

 大神殿では特別な祈りの時間が設けられ、わたし達学舎寮の生徒達も含めて参加する。夕べの祈りの時間がそれに当てられるのだ。


 街では個々それぞれにお任せなのだが、基本は住民全員が身近な神殿で祈りを捧げる日となっている。そしてその祈りの後はお祭りだ。まぁ、祭りといっても単に街の中央にある市場がいつもと異なり、夜遅くまで開いていて、普段と少し違うお店が多く、賑わっているという程度のものなのだが。


 普段、街の市場の営業は“陽が出ている間”という決まりがあるのだが、この日は夜遅くまで店を開いていることが許されている。実際は飲食以外のお店はいつも通りに店じまいし、空いた場所を借りてその日限りの飲食や土産物めいたものが売られる。そして翌日の聖の曜日もその日限りの屋台が出て、陽が沈むまで賑わいが続くという。


 村の収穫祭は収穫物を国へ納め、その後の解放感を祭りで楽しむ形。

 街の収穫祭は無事に各村々が収穫を終えたこと、街やその他の徴税や収穫が終わったことを《女神》へ感謝し報告する祈りを捧げる儀式である。

 ただ、街では儀式の後はやはりちょっとは羽目を外したい、という気持ちが湧いたのであろう。いつの頃からか儀式の後に市場へと繰り出し、お祭りめいたものが行われるようになっていた。


 異世界から来たわたしがこんな知識をどこで得たかといえば、学舎の講義に“大神殿での年間行事”を学ぶ時間があるのだ。それにいくらその本来の目的を説こうとも要は“祭り”である。11の節に入ると友人達が盛んに話題を振ってくる。本来の意味や目的に加えて、実際の祭りの様相もしっかりと耳学問ではあるが身についているわけだ。


 収穫祭への期待からくる賑わいが街から大神殿内にも伝わってきていて、皆が少し浮かれ気味。わたし自身もセラスが無事に帰還したこともあって余計に浮かれた雰囲気に呑まれているというか、影響を受けている気がするのだ。




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