2‐08‐1 参事達
「─以上が今回の魔力溜まりの浄化についての報告となります」
「ご苦労だった、アースター。もう少し付き合ってもらってもかまわないか?」
今、アースターがいる部屋にはこのヴィルディステ聖国のお偉方が集まっている。
クラーヴィアは当然として、この聖国の運営を司る面々、参事に副参事といった人々の集まりだ。
そんな中、アースターは先日の聖国南部地方で行った浄化作業、そして続けて行われた秋の巡回業務中に遭遇した魔力溜まりの浄化について報告を終えたところである。
その報告を聞き、神官長であるウォーリはアースターを労いつつも退席を促さず、このままこの参事会に残るよう告げる。
「畏まりました」
ここでアースターに拒否権があろうはずもない。素直に同意し、示された席へと着いた。
「南部地方で報告があがった魔力溜まりの浄化はこれで問題はないでしょう。報告を聞く限り、素早く動いたかいがあったのか、育ち切ったり迷宮化したものもなかったようです。これらに関しては安心しました」
ウォーリが報告内容についてひとまずの感想を述べる。
「そうだな。これで安心して聖都での収穫祭を迎えられるというものだ」
参事会の誰かが安堵の言葉を口にする。その言葉に幾人かの参事会の面々も同意するように頷いている。そのせいか場の雰囲気も若干穏やかなものとなっていた。
「ええ、確かに分かり易いものは対処を終えたのですが、まだ肝心の問題が解決しておりません」
穏やかな空気が流れる中、ウォーリは改めて問題提起ともとれる発言をする。
「ウォーリ殿、それはどういう?」
参事の一人が問いかける。他にもウォーリの言葉に何故という疑問の表情を浮かべた者が幾人もいた。
「今回は浄化という作業を優先させました。実害が恐ろしいですから。しかし、わたしは今回、この南部地方での集中的な発生と、聖都イス近郊で迷宮化寸前の魔力溜まりが見つかったこと、そして一部の魔獣について、これらの原因が何であるかを早急に調べる必要がある、と考えております」
「わたしも同意する。発言ついでにアースターに聞いておきたい。最初の村で少年が呪いを受けたのは“黒蜘蛛”で間違いないのか?」
ウォーリの言葉にマグナルバが同意を示しつつ、アースターへと問いを投げる。
「確かか、と問われますと断言はしかねます。あくまでも村人の話と駐在神官からの聞き取りの範囲ですので。ですが、呪いで獲物を弱らせている。その獲物を糸で拘束している場面に遭遇。蜘蛛と獲物に触れようとしたところ、蜘蛛から呪いを受けた。特徴は一致、かつ聞き取った外見も黒蜘蛛のものと一致しておりました。まず間違いないかと」
「なるほど。ではもう一点。砂狐だが、遭遇したのはこの地点で間違いないか?」
マグナルバはアースターに地図を示しながら再度問いかける。
「そう、ですね。恐らくそのあたりかと。第一目標近くでしたので」
「そうか。また疑問点があれば聞かせてもらおう」
マグナルバはそういうと一人考えに耽りだしてしまう。
二人のやり取りを聞いていたウォーリは、何か疑問が湧いたのか続けてアースターへと質問を続ける。途中で浄化や討伐した魔獣の詳細や、南部地方の気候、それ以外にもかなり細かいことを聞き取り始める。
「ウォーリ殿。そのような些末なこと、あなたがアースター神官と個人的に後で確認すればよろしいのでは? それに先程の調査すべきと言われていたことも、今日ここで話し合うには情報が足りないのではありませんか? 参事会としては直近に迫った聖都での収穫祭の最終打ち合わせに時間をとりたいと考えておるのですが」
と、古参の一人がまた口を挿む。
(──だから、情報を今聞き取っているのだ! わからないのか......)
ウォーリは古参の発言に一瞬眉を顰めるが、
「ああ、失礼致しました。そうですね、わたしの興味だけで時間を費やすのはよくないですね。アースター、すまないが、どこかで時間をもらうと思う。今日はこれで退席してくれても問題ない。よろしいですよね、クラーヴィア様?」とそれまで静かに話を聞いていたクラーヴィアへ許可を求めた。
「ウォーリが良いのであれば。アースター、今回の働き、とても感謝しております。今回の件では関係した者達へ後ほど報奨を用意させましょう。本当にお疲れ様でした」
クラーヴィアの言葉にアースターは深く一礼し、他の参事達へも礼をしつつ退室した。
「ウォーリ殿、収穫祭へ話を移しても問題ないかな?」
「ええ。アースター神官の報告内容はわたしの方でまとめて、後ほどクラーヴィア様へ提出させていただきます。収穫祭についての最終確認を行いましょう」
アースターが退室することで場の雰囲気はさらに緩む。間近にせまった収穫祭へ参事達の関心が向いているためだ。ウォーリは心の中でため息をつきつつも、場の進行役をそのまま務め続けた。




