2‐07‐2 11の節になって
秋学期が始まって既に一節が過ぎ、11の節である。
まだセラスは戻ってきていない。戻ってきていないといえば、リュークもだ。彼にも会って首飾りの事を聞きたいのに......
「セラスさん、戻ってこないですね。伝令の話から推測して今週中に戻ってくると思っていたんですが」
カエルもセラスが戻ってこないことが心配で、この話題が毎朝の挨拶がわりのようになっている。
「そうだよね。もう第一週が終わるっていうのに......」
ナギサ自身も心配であることには変わらないので、やはり同じようにため息交じりで答えてしまう。
「カエルもナギも二人して心配しすぎ! 大丈夫って伝令だったんでしょ? 遅くなるって伝令だったんだよね? しかも班長ってアースター様でしょ? あの若さで異例の副神官長。すごく優秀だって有名な方よね。そんな方が一緒であれば絶対大丈夫でしょ」
モリスのいうことはもっともで、ナギサもカエルもそれ以上は言えなくなってしまう。
「ほら、先生がいらっしゃったから。講義が始まるよ」
朝、モリスにはああ言われたが、11の節に入り週末にもなろうという今日。未だ戻ってこないセラスが気になることは変わらずで、午前中の講義はあまり身を入れて聞くことができなかった。
今も乗馬の講義が終わり、本来なら厩舎から学舎寮へと向かうべき時間なのだが、そのまま馬達の世話を続けてしまっている。
そんなナギサを見ても馬丁達は特に気にせず接してくれている。秋休暇の時にそれなりに仲良くなったおかげのようだ。
「ナギサちゃん、そこまでブラッシングしなくてもいいよ。そんなに丁寧にやっちゃうと、毎日そうしてくれってせがまれるからさ」
「そうそう、その子ばかりでなくて、他の子も頼むよ」
まぁ、気にせずというよりも体よく手伝わされている、というのが正しいかもしれないが。
「ナギサ君!」
呼びかけとともにファイヌムが駆け寄ってくるのが目に入った。珍しいこともあるものだと、ナギサだけでなく、馬丁達も驚いた表情でファイヌムを見ている。
「あの、ファイヌム様、どうされました?」
「説明は後で。この後、時間がとれるならこのままいてくれ」
ファイヌムはそれだけ言うと、そのまま練習場のほうへ走っていってしまう。どうやら残っている学生にも声をかけるつもりのようだ。
あまりにも珍しいファイヌムの姿に、ナギサや馬丁達は唖然としたまま立ち尽くしてしまった。
しばらくして、こちらに戻ってきたファイヌムは学生を一人伴っていた。
(あっ、魔法学で一緒の......)
見れば、魔法学をこの秋から一緒に受けている学生だ。履修説明で騎士志望だが魔法も、とか言っていた記憶がある。ナギサよりも2年ほど上で、確か名前は...... ユリウスだったはず。
「ファイヌム様、何があったんですか?」
馬丁の一人が戻ってきたファイヌムに尋ねている。
「もう間もなく馬達が戻ってくる。今出ている子達の世話をするものと、戻ってくる子達の世話をするものに急いで分かれて動いて欲しい。それだけでは手が足りないから、この後予定がない学生に手伝ってもらおうと思ったのだが、この二人以外は断られてしまったよ」
眉毛と目尻を下げたファイヌムが困り顔で説明してくれる。
この“馬達が戻ってくる”というのは、最後の巡回班が戻ってくるということらしい。
その説明にナギサは思わず「セラスが帰ってくるんですね!」と大声を出してしまう。
「フッ。ああ、なので君たちにも手伝って欲しいんだよ。戻ってきた馬達を一度に相手するには手が足りなくてね」
(あ、笑われてしまった......)
見渡せば馬丁達も笑いをこらえたような顔をしている......
一人赤面してまごつくナギサをよそに、ファイヌムは今焦っている理由をその場の皆へと手短に説明している。
準備は当然してあるのだが、一気に何頭もの馬が戻ってくる。移動だけでも大変なこと。加えてブラッシングや水の世話と、疲れた馬達を気遣ってやろうにもとにかく人手が欲しい。これがもう少し早い時間にわかっていれば手配できたのだが...... と、ファイヌムが説明の途中からブツブツと一人文句を言い始める。
「ナギサちゃん、悪いけど、その子達、いつもの厩舎へ戻しておいてくれ!」
そんなファイヌムを見て、馬丁達はナギサに一言告げると、慌ててそれぞれの作業を行うべく散っていく。
馬丁達の言葉にファイヌムも我に返ったのか
「ナギサ君は外に出ている子達を戻しておいて欲しい。ユリウス君はナギサ君を手伝ってくれないか?」
と、ナギサ達二人に指示を出し、どこかへ向かっていった。




