2‐06‐11 村の収穫祭
─夜─
村の広場では収穫祭が行われていた。
通常、巡回班は祭りに参加することはない。
徴税業務や治療等、必要なことが終われば次の村へと移動する。祭りが嫌いとかそういう話ではなく、物資の問題だ。
巡回班の人員は多い。祭りに参加すれば村の大切な食糧を消費してしまう。収穫直後で気が大きくなっている村人達は「気にせずともよい」とどの村でも言ってくるのだが、足りなくなってからでは大変なのだ。
だが、今回は魔力溜まりの後始末がある。
浄化したことでそのまま大神殿へ帰還できればよいのだが、呪われたままの魔獣や、その死骸。そのまま放置すれば再び、それもかなり早い段階で魔力溜まりが発生してしまう。
それを防ぐためには今日も日中行っていた死骸の浄化に埋葬、もしくは解呪と必要であれば討伐と、この辺り一帯をあと数日は廻らないといけない状況なのだ。
そのような状況で祭りの参加を断るわけにもいかず、珍しく巡回班の者達は祭りに参加しているのだ。
食料問題は自分達が予備で運んできたものを提供。あとは大神殿へ戻るだけであるし、実際距離も近い。予備を渡してしまっても、余程のことがない限り大丈夫であろうという判断だ。もちろん村長達からは不要であると遠慮されまくったのだが、これから必要になるかもしれないからと、かなり強引に押し付けた。
神官達や騎士達も参加しての収穫祭。村出身の者たちは久しぶりの雰囲気に故郷を思い出し、街出身のものは物珍し気に周りを見回している。
祭りといっても何か特別な催しがあるわけではない。
ただ、どの村でも大まかな流れはあって、駐在する神官が祭りの進行を司る。
一番最初に行うのは、このヴィルディステ聖国の守護神である《女神》への感謝の祈り。あとは実りを感謝して大地の神ケーレスや太陽神リュクシュリオーサスへ感謝をささげる。最後に炎の神フラマに祈りを捧げ、広場中央に用意された木組みへと火を灯すことから祭りは始まる。
この感謝を捧げる神々が村によって増えたり減ったり変わったりといろいろで、駐在神官達もそこはかなり気を使うようだ。
それらの一連の儀式めいたものも終わり、今は中央の火を中心に人々が踊ったり歌ったりと楽しんでいる。広場の一角には食事や飲み物が用意され、皆が好きに飲み食いしている。
まだ本調子ではないアースターとサクスムはそんな祭りの様子を広場の隅に座って眺めている。
「意外に皆、踊っているな。騎士連中も見張りの交代があるから酒は入っていないようだが、かなりはしゃいでいるし」
アースターは不思議なものを見るかのように、中央の火の周りで踊る人々を見ている。
「そりゃあ、お前、騎士はともかく今回の神官は大半が駐在経験がある奴ばかりだぞ。どこの村でも似たような祭りがあるんだから、懐かしいだろ。お前だって駐在していたとき参加しただろ?」
「いや、わたしは最初の祈りの後は神殿で......」
「すまん、聞いた俺が悪かった。そういえば、あいつは元気か? 馬大好き君は」
「その言い方は...... ファイヌムなら相変わらずだし、元気だな。厩舎に籠って居住区へはあまり戻ってきていない気がするが」
「あいつ、本当に馬しか興味がないんだな。よく神官でいられるよな」
「それに関してはわたしは何も言えないよ。気にかけているけど、あの性格だからね」
アースターにとって、サクスムとファイヌムは学舎時代からの友人、いや悪友といってもいい。性格はまったく異なる3人であるが、何故か馬が合う。神官見習い、神官と進んでいっても、その関係は崩れることなく続いている。
「よし。俺がこれで今回戻るから、久しぶりに飲みに行こう」
「わたしは構わないが、ファイヌムを厩舎から引き離すのは任せるよ」
そう、ファイヌムは厩舎から離れることを好まない。そのせいで、普段も居住区へ戻らずにそのまま厩舎の執務室で寝起きしている。周りへ示しがつかないからやめろと言っても、流されてしまっている。
そんなファイヌムを街へ連れ出すのは毎回とても骨が折れる。
「おう、任せておけ!」
だが、サクスムの返事は自信たっぷりである。
「お二人とも、お体の調子はもう大丈夫ですか? お祭り、楽しんでいます? お料理、あまり食べていませんよね?」
その声にアースターが顔を上げると、セラスが料理を手に2人の前にかがんでいた。
「ああ、ありがとう。楽しんでいるよ、お嬢さん」
サクスムがそつなくセラスの問いかけに答え、差し出された皿を受け取る。
「久しぶりに会ったものだから、つい話し込んでしまってね。俺もこいつも十分休んだから大丈夫だよ」
「そうですか、安心しました。何か問題でもあってお話されているのかと...... お友達だったのですね、お二人は」
「ファイヌムって覚えているかい? 乗馬で一度は顔を合わせているとおもうが。そいつと俺たちで学舎時代からの腐れ縁さ。今はちょうどファイヌムのことを話していたところさ」
「ファイヌム様って厩舎の? ちょっと驚きです」
「だろう? ま、そんなことはどうでもいいが、お嬢さんこそ楽しんでいるかい? 大神殿にいると、こういう祭りは貴重だから、楽しんでおけよ」
「はい、ありがとうございます! お二人も楽しんでくださいね!」
セラスはそう言うと、踊りの輪に戻っていった。
「お~い、アースター。話せよ! せっかくのお嬢さんと会話する機会だったんだぞ」
、
「いや...... 仕事以外で話すことが思いつかなくて......」
(ダメすぎるだろう、こいつ......)
親友の言葉に呆れたサクスムは黙って料理を口に運ぶのだった。
ナギサの物語にお付き合いいただいてありがとうございます。
「秋の歴史2024」に『この煌めきが手に入るのなら ~焦がれる想いの行く先は』(https://ncode.syosetu.com/n5640jo/)という短編で参加しております。魔力溜まりの浄化の辺りで少しだけ触れた、聖国の南国境から南方方面についての昔語りです。
お読みいただけると嬉しいです!




