2‐06‐9 魔力触手
セラス達がサクスムへ解呪を始めた頃。
アースター率いる一行は村近くの林の中にいた。
「これは酷いな......」
誰ともなく言葉が漏れる。
彼らの周りには大小様々な魔獣の死骸。ただ、どれも外傷はなく魔力欠乏が死因と思われる。
そう判断する理由は“茨模様”。
毛皮等で判別しづらくはあるが、どれも全身に赤黒く茨模様が浮き出ている。鳥も兎も狐も狼も一様に。
「先ほど我々が入った時はこのような状態ではなく」と、騎士達が口にする。
「迷宮化が......」
「恐らくは」
「どれも時間があまり経っていないようです」
いくつか死骸を確認した神官達が口々に呟く。
「急ぐぞ」
魔獣の死骸を踏みつけぬよう気を配りながら一行は林の奥へと足を進めた。
この奥に村人が仕掛けた罠がある。今朝方それを見に入った二人が戻ってこなかった。
村長から騒ぎの原因を聞いたアースターは騎士を数人捜索に出した。
騎士達がそこで目にした光景は、村人を背に庇いながら結界を張っているサクスムであった。
何から村人を護っているのか、結界は何を防いでいるのか、騎士達の目にはよくわからなかった。
しかし、その何かは騎士達にも襲い掛かってきた。念のためにかけてある結界がそれを弾いたことで脅威を、攻撃者を認識させる。
魔力触手。魔力探知能力が高くないと見えないものだが、恐らくはそれ。サクスム達が見つめる先にあるのは、大きく育った“魔力溜まり”なのだから。
育ち切った“魔力溜まり”の恐ろしさは未知数。それぞれ個性があるといえばいいのか、何をしてくるか、何が起きるのか予測ができない。ただ、魔力触手を使って周辺から魔力を奪う。奪った魔力をため込み、迷宮核に適したものを取り込めば“迷宮”と化してしまうと言われている。
今回の巡回では、こうなることを防ぐ為に南部地方を急ぎまわったのだ。目の前のそれはまだ成長中。だが、ほぼ育ち切ったと言ってもいいほどに禍々しい魔力を纏っている。
現状を認識した騎士達は、その場はいったん撤退という判断を行う。予め用意したスクロールを取り出す。一時的でも“魔力溜まり”の攻撃力を下げる為に浄化のスクロールを、退路を確保する為に結界と隠蔽のスクロールを発動させる。
突然の乱入者と妨害に、“魔力溜まり”の魔力触手が若干大人しくなる。その間にと騎士達はサクスム達2人を回収し、その場を離れ、急ぎ村へと戻ったのであった。
それらの報告を受け、アースターは林に分け入る前に一帯を覆う結界スクロールを発動させた。周囲への影響を遮断するためだ。
入口付近の惨状を目にし、結界を張っておいたことに一先ず胸をなでおろし、先へと進む。
入口付近でも多かったが、先に進むにつれて死骸の量が増えていく。手当たり次第に魔力を持つものから奪い取ったような状況だ。罠の近くまで、“魔力溜まり”近くへ進むと、いきなり視界が開ける。下草や木々までもが赤黒く変色し、木々は倒れてしまっている。
サクスム達が去ってから、急速にその場にあるものから魔力を取り込んだのだろう。
魔力触手は小物相手であれば直接魔力を奪える。そうでなければ呪いの種を植え付ける。植え付けられた種は全身へと茨模様を伸ばしていく。茨模様は被害者から魔力を集めとり、主─魔力溜まり─へと魔力を送り続ける。
この魔力溜まりの周辺、草木が枯れているのは、最初にこれらから魔力を奪ったのであろう。そして次は近くを通った小動物。この時には種を植え付け始めているのだろう。獲物が慌てて逃げても一度種さえ植え付けてしまえば魔力は取り込める。
そして、魔力を取り込むほどに魔力触手が届く範囲も広くなる。もう後は加速度的に被害が増え、魔力溜まりが成長するだけ。
そして今、目の前の“魔力溜まり”は禍々しい力を周辺へと放っている。まだ迷宮化はしていない。まだ成長の余地がある。だがこれ以上の放置は危険であることは誰が見ても明らかであった。




