2‐06‐7 サクスム
村の広場は先ほどの慌ただしさは消えていた。普段の巡回時に行われる徴税業務等が淡々と進められているのがわかる。アースターが帳簿らしきものを確認し、村人や神官が納めるべき農産物を転移陣へ置いていくのが見える。いつもの作業風景である。
転移陣といえば、村には転移陣は設置されていない。では、今使っているものは何だというと、設置型ではなく、持ち運び型のもの。
巡回班の班長が持参するタペテ(小さめの絨毯)に転移陣が仕込まれているのだ。その転移先は大神殿内のある場所。このタペテが悪意あるものに使用された場合、大変なことになるので普段は宝物庫に厳重保管されている。
巡回時や重要な行事がある時のみ、宝物庫より持ち出さる。とても大切で重要なものなので、各巡回班の班長が巡回中は常に管理している。
セラスは前回、この光景を初めて見た時、転移陣が持ち運べることにひどく驚いた。転移の危険性が理解できるだけに、このようなものが持ち運べるという事実がかなり衝撃的であった。各班長の人選を見れば、いらぬ心配であると思うのだが、どうしても不安を覚えてしまうのである。
広場では何か手伝いを頼まれることもなく手持ち無沙汰な状態が続いた。
セラスは先ほど騎士達が村の外へ出て行ったことを思い出し、怪我人が運び込まれる場合を考え、治療院へと足を運ぶ。
そこには駐在神官が2人。今回交代要員として一緒に旅をしてきた神官が一人、と3人の神官が言葉もなく机を囲んでいた。
「ああ、セラスさん。どうかしたのかい?」
交代要員の神官がセラスに気付き、声をかけてくれる。
「あの、皆さん、大丈夫ですか? とても顔色が悪いようですが。わたしは怪我人が運び込まれたら...... と考えてお手伝いに来たのですが、お邪魔でしたでしょうか?」
セラスが言葉にしたとおり、3人の顔色はとても悪かった。駐在神官はわからないが、交代要員の神官はついさっきまで一緒にいたのだ。顔色の急変具合は一目でわかる。一体何があったのか。
「ああ、心配をかけてすまない。さっき村長が言っていただろ? 戻ってこない者がいるって。そのうちの一人がね......」
そう、戻ってこない内の一人が今回大神殿へ戻ることになっている神官だという。治療系魔法の腕もさることながら、武術にも優れており、村の外へ護衛代わりについていくことが多いという。
今回も村人が仕掛けた罠の確認に行くというので、薬草採取を口実に護衛代わりに一緒に行ったというのだ。
「普段はここまで遅くなることはないんだ。罠の場所もあまり遠くないし」
「ああ、向かった場所はここからなら午前中であれば二往復はできるほど近い場所なんだ。それが朝早くに出て、午後のこの時間になっても戻ってこない。今日はこうやって巡回が予定されているから、必ず午前中には戻ると言って出発しているんだ」
2人の駐在神官はセラスに向かって不安を口にする。確かに帰還予定の神官が今日村にいない、という状態は普通ではない。戻ってくる前提で出掛けているはずであるし、罠を確認に行ったというなら、獲物の処理があっても既に戻ってきている時間帯だ。
4人が不安な気持ちを共有していると、何やら外が騒がしい。戻ってきたのかと4人が立ちあがるとほぼ同時に、扉が開け放たれ騎士が走り込んできた。
「「「サクスム!!」」」
騎士の肩には人が、神官服をまとった男性が力なく担がれていた。
3人の神官を見るにこの男性が心配されていた当人のようだ。
「急いで解呪を!!」
騎士はそう叫ぶと神官を診療用のベッドへと横たえた。
「一体何が!?」
神官達が騎士に詰め寄るが、騎士は解呪を頼むと再度言い残して、足早に部屋を出て行ってしまう。
セラスは状態を確認するために、サクスムと呼ばれた神官が横たわるベッドに近づいた。
サクスムの表情は蒼褪め、どこか傷むのか苦悶の表情を浮かべていた。神官服を纏っている為、どこかに異常があるのかパッと見ただけでは判断がつかない。
セラスは脈を確認しようとサクスムの手を取った。
(これは...... 呪いなの?)
指先から手の甲、返してみれば手の平も、茨のような赤黒い模様が浮き出ている。よく見れば、指先が酷く黒ずみそこから伸びていくように茨模様が浮き出ている。
そっと袖口から腕を確認すると茨模様は腕にまで進んでいるように見える。
セラスが状況を確認していると、その様子に気付いた神官が
「まずい! すぐに解呪と体力回復を!」と、大声で叫ぶ。
その声にセラスが驚き戸惑っている間にも、3人の神官はそれぞれが解呪と体力回復の呪文を唱え始める。
セラスは自分も加わるべきか迷ったが、まずは魔力ポーションや治療系ポーションを確保してこようと、馬車まで取りに走った。




