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ヴィルディステの物語  作者: あるかな
【第二章】

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2‐06‐3 砂狐



 騎士の先導のもと、魔力溜まりが見つかったという地点近くまで馬を進めていく。魔導馬車での移動とは異なり、馬での移動。ましてやセラスはアースターと二人乗りである。もっと気を引き締めなければと思うのだが、落ち着きなく周りに目がいってしまう。


 普段見慣れた大神殿の中や、聖都イス近郊の村あたりとは若干植生も異なるようで、つい草木に目が行く。ヴィルディステ聖国の南部地方、気候も中央部より温暖なのか野営地でもあまり寒さが気にならなかった。


 ヴィルディステ聖国の南隣りには砂漠というものが広がっていると聞く。乾燥して暑い地域で草花も育ちづらいと。

 聖国を出てすぐに砂漠地帯というわけではないらしいが、そのまま南に下ればその砂漠というものが広がっていると聞いている。そような地域と隣あっている為か、若干このあたりも気温が高めで乾燥しているように感じられる。


「セラスさん、砂埃には気を付けてください。コーマは使っているかと思いますが、念のため布で口周りや目の保護をしてください」

 乾いた空気に砂埃、若干気になるな、とセラスが辺りを見ながら考えていると、アースターが的を得たようなことを言ってきた。


 コーマで自身の周りに薄く防御膜を張っているが、気になるのは事実だ。喉をやられないように気を付けなければと、首に巻いたショールを口元に引き上げた。




 そのまましばらく馬を走らせていると、馬の歩みがゆっくりとなる。気づけば周りの空気が変化している。空気というべきか、この地域一帯が淀んだ感じがする。乾いた空気のはずなのに、まとわりつくような感じがするのだ。


「流石に気付きますよね。小さな魔力溜まりのはずでしたが...... これは少し注意しないといけないようです」

 アースターが視線を前に向けたままセラスに話しかけてくる。他の神官や騎士達も前方を凝視している。


「ここで馬を降ります。これから指定するものはここで待機。残りはわたしと一緒にきてください。待機組は馬番と合図があった場合に野営地に走ってもらうことになります」


 アースターの指示のもと二手にわかれる。待機組に馬を任せ、報告されている魔力溜まりへと向かうべく街道横の繁みへと足を向けた。


 まとわりつくような空気は魔力の淀みのようなものらしく、報告地点へ向かうにつれて濃くなっていく。


 乾燥した地域のせいか、生い茂った下生えもそこまで湿った感じもせず、考えていたほど歩きづらくはない。加えて先導する騎士達が歩きやすくなるよう、危険な枝葉を払ってくれているため左右を気にする必要も少なくて済んでいる。それでも慣れない馬での移動に道なき場所を歩いているせいか、疲れも出てきて皆無口になっている。


 黙々と機械的に足を進めているといきなりアースターの腕がセラスの眼前に伸びる。

 驚いて横をみれば、口元に指を当て、目線は前方を注視している。前方に視線を向ければ騎士が2人、盾を前面に剣を構えている姿が見える。


 その構えた盾の向こう側、何かがいる。その何かに皆が警戒しているのだ。


 防御結界が全員を覆うようにかけられる。それを合図としたかのように、その何かが勢いよく飛びあがる。騎士2人を飛び越え、こちらを目掛けて飛び掛かってくる。が、「ギャンッ」という鳴き声とともに結界に弾かれる。


 間近に見えたそれは狐のよう。ただ見知った狐とは違う。毛色が違うのは見ての通りだが、目が、瞳の様子が異様だった。


「砂狐、ですね。ただ、魔力溜まりの影響なのか、かなり狂暴化しているようです。瞳を見る限り理性を失っているようです」

 横でアースターがセラスに告げるように静かに呟く。


(どうしてそんなに落ち着いていられるんですか! 今、間違いなく、アレはアースター様を狙ってきていましたよ!!)


 セラスは落ち着き払ったアースターに驚き、その横顔を凝視してしまう。そして、周りを見渡してあの砂狐がアースターと自分を狙ってきたことにも気づく。


 しかし、セラスがアースターの落ち着きぶりに驚いている間に、件の砂狐は結界に弾かれてバランスを失ったところを騎士によってとどめを刺されていた。


「アースター、どうするコレ?」とどめを刺した騎士が砂狐を指し示しながら尋ねている。

「ああ、浄化してから魔石を取り出そう。後は埋めてあげましょう」

 アースターが他の神官達に指示を出し始める。


 まだ驚きから立ち直れないセラスはアースターの横で立ち尽くしたままである。その様子に気付いたアースターが

「どうしました?」とセラスの顔を覗き込んでくる。


「アースター様、どうしてそんなに落ち着いていらっしゃるのですか? 先程の砂狐はアースター様を狙っていましたよね?」


「ああ、それはわかっていたことですから...... おや、セラスさん、魔法学で習ったこと、覚えていませんか?」

 疑問を投げかけたはずが、逆に知っていて当然のようなことを言われてしまう。


 戸惑った表情のままのセラスに、

「わたしはこの中で一番魔力量が多い。そして、セラスさん。あなたも多いですよね?」

 困った生徒に教えるように、アースターがヒントを出してくる。


『覚えておくがいい。魔獣は魔力量が多いものを好む。魔力溜まり然り、魔導士や神官も対象だ』

 マグナルバの声が唐突に蘇る。そうだった、魔法学で確かにこの話を聞かされている。だが、それは......


「あの、アースター様...... わたし達、()()() ってことですか?」恐る恐る聞いてみる。


「まぁ、そうともいうかな。狙われる者がはっきりしているほうが、防御も楽だからね」

 まったく悪気のない笑顔で言葉を返される。


(えぇぇっーー!)


「大丈夫。君のことはわたしが護るから」


(え?)


 再び驚きに固まるセラスの肩を軽く叩いたかと思うと、アースターは浄化を行っている神官のほうへと行ってしまった。



ナギサの物語(今はセラスですね)にお付き合いいただいてありがとうございます。

拙い文章ですが読んでくださる方々がいることが励みになっております。


次回投稿は9月17日を予定しております。


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