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ヴィルディステの物語  作者: あるかな
【第二章】

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2‐05‐3 魔力量

 

「さてと、ここがわたしの執務室。他の神官達と比べられると恥ずかしいぐらいに乱雑だとおもうけど、気にしないでくれ」


 ファイヌムに連れられ、厩舎内の執務室にやってきた。

 その部屋は本当に雑然としていた。部屋の造りはトランキリタや神官長のものと同じに見えるのだが、至る所にいろいろなものが置いてある。

 書類めいたものが多いのだが、馬具や何に使うのかよくわからない道具類、掃除道具っぽいものまで。ちゃんと足の踏み場もあるし、座る為のソファーや椅子は確保されているのだが、やたら物が多い部屋である。


「とりあえずナギサ君はそこで座っていてくれ」

 と、応接セットのソファーと思われるものを指し示された。


 ごそごそと戸棚を探る物音がする。物音がやむとファイヌムが水晶玉のようなものを二つ手に持ち、ナギサの前にあるソファーへと腰を下ろす。ナギサにその水晶玉を一つ、小さいほうを手渡すと魔力を込めるようにと言われた。


 片手で水晶玉を軽くにぎり、そっと魔力を込める。すると(最近やたらと目にするが)空間に文字が浮かぶ。


 魔力量:ランク10超え


(これは身体検査の時の?)

 だが、属性は表示されない魔道具のようだ。


「これは期初にある身体検査で使うものと似ているけど、魔力量だけを確認する魔道具だよ。じゃぁ、もう一つ、こちらの大きいほうも試してみてほしい」


 小さいほうの水晶玉をファイヌムに返し、大きい方を受け取る。ついでにとファイヌムがこんなものを持っている理由も教えてくれた。

 厩舎の従業員はその業務の専門性から外部―街や村から人員を募集している。その採用面接時、魔力量を大まかに確認する為にこれらを使う。ここでの作業は力仕事も多く、水を扱うことも多い。なので四六時中コーマを使うことになる。故に、最低でもランク5、学舎入学レベルの魔力ランクであって欲しい。日々働いていれば、結果的に魔力量は増えていくのだが、最初がキツイと続かないことが多いために確認しているそうだ。そうは言っても、馬を扱う技量等でそのレベルでなくても採用は行うそうだが。


 なるほどと話を聞きながら、ナギサは大きい方の水晶玉を両手で軽く包み込み、魔力をそっと流してみる。


 魔力量:ランク30超え


(おおぉ、よくわからないけど凄そうな値だ)


「ははっ、やっぱり。ナギサ君はかなり膨大な魔力量、ってことだ。これ以上を確認しようとすると、クラーヴィア様に頼んで専用の魔道具を借りないと無理だからね」


 ファイヌムは大きく目を見開いたかと思うと、大きく笑う。


「ん? あのファイヌム様。これで何かわかるのですか?」


「ああ、ごめん、ごめん。ナギサ君、君はとても魔力量が多い。わたしも多い方だがそれでも20だ。魔導士長のマグナルバ様やクラーヴィア様がどれくらいかは知らないが、一般的な神官では15を超える者は少数なんだよ」


 続けてファイヌムがあくまでも彼自身の推論だがと前置きして、恐らくナギサが魔力残量をうまく認識できないのは、魔力量が莫大すぎるからではないかと。

 コップ一杯の水から一口水を飲めばその分減ったのは見てわかる。だが水瓶から一口分水を取り除いても余程注意深く見ていないと気づけない。いや、気づけるほうが珍しい。

 つまりナギサは魔力量が多すぎる為、多少使ったぐらいでは減少分を認識できないだけ。しかもコーマを使い出してからまだ一年も経っていない。魔力を使った後の感覚がまだつかめていないこと。そして、大きく魔力を使った時は単に疲労感としてしか捉えていないのではないか、というのがファイヌムの見立てらしい。


 腑に落ちていない表情のナギサを見て、ファイヌムが

「じゃぁ、少し実験をしてみよう」と言いながら、目の前に魔導書を取り出す。


 その光景に無闇矢鱈と人前で出してはいけないのでは? とナギサが疑問に思っていると、

「あくまでもナギサ君が魔法学を学んでいる、って知った上で魔導書を出しているよ。流石にわたしもそこまで軽率ではないからね。

 で、ナギサ君にも今ここで魔導書を出して欲しいんだけど、いいかな?」と、ナギサにも魔導書を取り出すよう言ってくる。


「わかりました」

 口の中でボソボソと呪文を呟くと、ナギサの膝上に魔導書が現れる。


「いいね。じゃぁ、次はわたしの魔導書を鑑定してみてほしい」

 ファイヌムは軽く頷くと、次はナギサにファイヌムの魔導書を鑑定しろと言ってくる。


 その言葉にナギサが固まっていると、

「別にいけないことではないよ。持ち主であるわたしの了承があるからね。まぁ、不安ならナギサ君自身の魔導書でもいいけど。ただ、それだと自分自身の所有物だから、今わたしが検証したいことにはあまり向いていないんだ」


 ファイヌムが何をしたいのか今一つわからないナギサであるが、こちらから相談を持ち掛けた以上ここは素直に従おうと考える。


 再びボソボソと呪文を呟いて、ファイヌムの魔導書を鑑定してみる。当然といえば当然だが、まったく鑑定できない。名称が“魔導書”であること以外、不明項目ばかりである。


「どう? すごく疲れていないかい?」

 先程よりも何故かニコニコした表情でファイヌムが聞いてくる。


「ええ、なんだかとても重労働をしたような気分です」

 正直、洗濯場の手伝いを一日中していたかのような疲労感である。鑑定魔法ってこんなに疲れただろうか? と訝しく思う。やはり人様の魔導書などという貴重なものを鑑定したせいであろうか?


「さっき魔導書を取り出した時は疲れを感じなかったよね。そして今はとても感じている。魔導書は鑑定するために非常に技量を必要とする魔道具だ。当然技量がなければ魔力を大量に消費する。その疲労感が魔力が減った時の感覚だよ」


 つまり、普段のナギサが行っている鑑定や錬金で使われる魔力は少量。絶対量が多いナギサではそれに気づくのは難しい。そして今は大量に一気に減った為、疲労感として実感できる状態だというのだ。

 以前、魔力欠乏で倒れた時に気づけなかったのは、疲労感を感じていたはずなのに、それを魔力欠乏と認識できていなかっただけではないかと。

 ただ、まだ通常の肉体的疲労感と魔力的疲労感の差異がわからないだろうから、もう少し魔力を使って疲れる訓練をしてみるといいと言われた。


「そうだね、他人の魔導書では疲れすぎるから、自分の魔導書がいいかもしれない。それに高ランクの魔道具を鑑定し続けると、鑑定の技量もあがりやすいよ。自室で魔導書の鑑定、って割と訓練方法としては知られているよ」


 ここまで説明されると流石に納得というか、そうなのかも、と思えてくる。




「ファイヌム様、ありがとうございます。まずは魔力が減る時の感覚を掴んでみます」

 ナギサは座ったままではあるが、感謝の気持ちをファイヌムへと伝える。


「でも、どうしてここまで気にしていただけるのですか? 失礼だとは思うのですが、ファイヌム様は学生達の名前を覚えてはいらっしゃるようですが、あまり学生に干渉しませんよね?」と、疑問に思っていたことを聞いてみる。


「そうだねぇ。何故だろうね。まぁ、この間の休暇時のお手伝いで気心が知れた、っていうのが一番かな?」

 爽やかな笑みと共に言葉が返される。

 なんだか本心というよりも、当たり障りなく答えた感をスゴク持つのだが、突っ込んでも答えてくれないと考え、切りよく暇を告げる。


「今日は時間を割いていただいてありがとうございます。また、厩舎のことでお手伝いできることがあれば声をかけてください」

 ソファから立ち上がり、ペコリと頭をさげるとナギサは執務室を後にした。



ナギサの物語にお付き合いいただいて、ありがとうございます。


次回の更新は9月8日を予定しております。

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